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第3話 おやすみのキス



 夕焼けが大地を赤く染め、日が沈む。

 夜空に星が瞬き、家に明かりがともり夜が静けさをたもつころ。

 

 ――扉の鐘がカラン♪と鳴った。



「ただいま、ルーシアさん」


 あ、聖職者リヒトくんがかえってきた。

 今朝のことを思いだして、まっかになる。

 

 わわわっいきなり意識しすぎだよー。



「おかえりなさい~! 今日もお疲れ様でした。すぐにお風呂ですか?」


 あわてて気を取りなおして、声かける。


「……はい、お風呂に行って来ますね」



 あれ、リヒトくんものすごく疲れてへろへろな感じ。

 うーん、何かあったのかな?


 顔は笑っているけれど目がかなりよどんでいる。


「食事はいかがなさいますか?」


 外食してくるって話だったけれど、一応確認してみた。



 リヒトくんは、んー、と少し悩んで。


「……軽めに何かおねがいできますか? あと……もしよかったらいっしょに……」


 すこし伏し目がちに誘われた。

 外食でにがてなモノでもでたのかもしれない。



「うん、いいよー♪ かしこまりました」


 

 うなずいてそのまま温泉へとむかった。


 顔はなんとか笑って話すけど、目が目がぁぁ。

 だいぶ、お疲れさまみたい……。



 手を洗って、さっそくキッチンで調理をはじめる。


 ドラゴンハンバーグを食べたのでおなかが大変なことになっていた。

 ものすごーい満腹感。これにつきるー。

 でも、おいしかったな~♪


 お昼はひかえて飲みモノだけですませたし、夕食も……と思っていたんだけど……。せっかく誘われたのでリヒトくんとなにか食べよう。


 根野菜と薬草をこまかくきざんで鍋へといれる。

 つぶして乾燥させた大麦を少したしてかき混ぜる。大地の精霊たちと巨人族が耕した特選大麦だ。やさしいにおいがする。


 ぐつぐつ コトコト


 ゆっくりと煮込んで体にはじゅうぶん良さそう。胃に負担がかからず消化がしやすい。ふんわり『野菜スープ』の完成だ。


 何品か追加でサイドメニューにとりかかる。



 だいぶ長風呂したリヒトくんが食堂へときた。


 目がわりと赤い気がする。

 乾かし足りないのか、まだすこし髪がしっとりしてる。



 いただきますして野菜スープをいただいた。


「ん、おいしいです。」


「はふぅ〜あつあつだねー♪」


 すこし肌寒い夜にあつすぎるスープがとてもおいしい。

 いつのまにか2人で笑顔になった。



 ◇



 おだやかな明かりの中、ゆっくりと夕食をとる。

 リヒトくんはごはんや雑談でちょっとだけ元気になった。


 ――――今夜は騎士テオドールさんは宿へはもどらない。

 どこかのパーティー。

 晩餐会ばんさんかいに参加するようだ。


 夜遅くにもしかしたら……かえってくるかもだけど。

 たくさんの魔術がほどこされた魔法の合い鍵をもっているし、大丈夫だよね。



 リヒトくんとわたしは、

 いっしょに話をしながら食器や鍋をかたづける。


 そのあと、香辛料をいれたすこし甘めのホットナッツミルクを飲みつつ楽しくおしゃべりをした。


 甘くてあつくてほわほわだ~。


 あまりの心地良さに、ついうとうとしていると、

 リヒトくんがそっと席をたった。



「もうおそいですし、そろそろ眠りましょうか?」


「あっホントだ、もうこんな時間だね」



 壁の時計の針が夜が深いとつげている。


 はぁ〜、雑談が楽しくてこんな夜おそくまでついつい話しこんでしまった。


 魔法や不思議生物の話ってホントに面白い。

 リヒトくんも得意分野の話をしたせいか、だいぶ顔もよくなったし調子もいいみたい。良かったぁ〜。



「ルーシアさん、おそくまでつきあわせてしまって……すみません」


「ううん、大丈夫だよー。そうだねぇ、子どもはもう寝る時間だねぇ」


 えへへと、寝ぼけながら笑いかける。

 すごく眠くて多少舌ったらずになってしまった。恥ずかしい。



「……そうですね。……では、行きましょうか?」


 そっと手をさしだされる。


 おや……? これはいったい?

 ああ、立ちあがらせてくれるために。

 リヒトくんまだ子どもなのにすごく紳士的だなぁ。


 ここは素直に甘えよう。

 にっこりとほほ笑んで手を重ねてゆっくりと立ちあがる。


 そのまま手をひかれ、スタスタと歩きはじめた。

 1階のわたしの部屋の方向へと誘導される。


「えっ……? あれぇ、リヒトくん、わたしまだ作業が、片付けっ……」


 手をひかれ廊下を歩きながらあせる。


 どうして寝室へと向かっているの?


「僕はまだすこし起きているので……、後片付けはやっておきますから。おそくまで付き合わせてしまったおわびです」


「!?」


 いや、いやいやいや〜。

 『宿泊客』に戸締まりや後片付けをまかせる『宿屋の主人』どこにいるのーっ!? 

 

 あ、ここにいた!

 今まさに無責任な主人がうまれようとしてるーっ?


「カップだけですし大丈夫です。あと夜中にテオドールさんも帰ってくるかもしれません。……すこし話たいこともあるので……」


「えぇえ……? でもっ」


 部屋へとつづく扉の前についた。


「ひゃっ」


 ふわっと抱きしめられ、やさしく抱擁ほうようされる。



「リヒトくん……?」


「今日はおそくまでありがとうございました」



 抱きしめながらつぶやくような声。

 やっぱりなにかあったのかな?


 でも、なにも言わずにただいっしょに過ごしてる。



 ちゅっ♪


 ほっぺたにちいさくキスされた。



「……!?」


「おやすみのキスです……僕まだ子どもですから」



 リヒトくんがゆっくりとほほ笑む。


 ……子ども……

 子どもだからおやすみなさいのキス……?

 そっかー、……なるほどー。え、キス?



「では、また明日」


 おやすみなさい。と、やさしく耳元でささやかれる。

 目を見開いて驚く間もなく部屋へとやさしくそっとおされて、バタンと扉がとじた。


 こ、これはいったい……?


 眠気の中、うろうろと部屋をさまよう。

 

 食堂へもどることもできず、わたしはいろいろと考えるのをやめてとりあえず眠ることにした。


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