第46話 おはようゴーレム
第2章です。
冒険者ギルド、街のお話がメインです。
よろしくおねがいします。
剣と魔法と神々の世界。
おじいちゃんはむか〜しむかし《異世界》からこの地にやってきて暗黒竜をやっつけた。そして世界に平和がおとずれた。
わたしはルーシア。ふつうの村娘。
宿屋『竜のあくび亭』の主人。
『竜のあくび亭』
――緑豊かな城下街の外れ、さらに先、ずっとその先にある。
冒険者を引退したおじいちゃんが、全財産を使って建てた。近くには《最後の巨大迷宮》があり観光地場所としてにぎわっている。
おじいちゃんの旅立ち、星になった勇者。
のこされたのは閑古鳥たちに愛されていた客が来ない宿屋。
けれども、精霊や妖精さんたちの住処を守るため、
わたしは1年後宿屋を再開した。
――――それから3ヶ月。今にいたる。
朝の目覚め。光の中、祈りを捧げた。
いろいろあったけど宿屋は無事に3ヶ月目を迎えたのだ。
◇
夜明け前、星はまだ小さく瞬いていた。
うっすらと闇のカーテンが色付きはじめ、段々と明るくなっていく。
「ふぁ〜」
眠い目をこすりながら起きあがる。
「あい、おはよーございます〜」
ずるずるずるずる……。
むにゃむにゃと、ベッドから這いだして洗面台へ向かい洗顔した。
パシャパシャパシャッ
今日はこの石けんにしよっと。
スポンジで充分に石鹸を泡立てた。泡のせて洗顔する。タオルで水分を押しあて拭きとっていると、はたと、鏡の自分と目があう。
「………。」
鏡の中のわたしが、不思議そうにわたしをみた。
星空の瞳がいつもと変わらずみつめてる。
――先日の宿泊客の大集合……。
いろいろあったけど宿泊客の皆さんが会えてよかったなぁ。
今まで、なかなかタイミングがあわなかったし……。
宿屋の常連客の《聖職者リヒトくん》と
《騎士テオドールさん》も皆さんに会えたし……。
子どもの頃から会わせようとした《冒険者ユリウス》と
《騎士レオンハルト》もようやく顔合わせできた。
そしてたまーに遊びに来ていた《商人ヴォルフガング》も。
さらにおじいちゃんお友だち《吟遊詩人ギルティアさん》も。
皆さん出会えて、ホントよかった〜。
「♪」
にんまりと笑ってそのまま笑顔の練習をする。
うれしさをおさえきれないまま鏡をなんども見た後、
しばらくしてふと気づく。
そういえば最近……。いきなりびっくりすること多くないかな?
――頬に、指先に、おでこに、首すじに、鼻先に。こめかみに。
それぞれがキスをおとす。
「………っ」
鏡をみながら一瞬で茹でタコになる。
理由があるにせよ……。
よくよく考えたら……ものすごく恥ずかしい……。
いや、うん。ふつうに恥ずかしいよね?
挨拶だったり、お礼だったり、祝福だったり、
仕返しだったり、感謝だったり、親愛だったり……。
わかっているけど……恥ずかしいよ。
なんで最近こんな事が多いかな……?
いくらなんでも本の物語にあるようなイベント?
みたいなのがおこりすぎじゃないですか?
おじいちゃん〜っ神さま〜っ
ふつうの村娘にはこれ、かなーり難易度が高いです。
ばしっと両手で真っ赤になった頬に手をあてた。
「……とりあえずしっかりしないとだ……!」
鏡の中の私がなんとか気を取り直してきりりっとする。
さて、朝の身支度をととのえよーっと。
◇
朝のすこし肌寒い静けさの中、食堂の灯りをつけた。
「おはよう〜。いつもありがとう〜♪」
屋敷妖精さんたちがいつの間にやら丁寧にキレイにした食堂とキッチンをみてお礼をのべた。屋敷妖精たちはどこかに隠れてる。
お掃除を手伝ってくれる屋敷妖精さんたちは……。
あまり姿を見せてくれないんだよね。
でも、とても感謝してる。
お礼のお菓子やミルクを用意したあと『裏庭のハーブ園』へとむかった。
夜明け前のハーブ園で、さっそく作業をはじめる。
パシャパシャッ パシャパシャッ
「らんらんるーららら♪」
いつも通り歌いながら水をかけているとふと気がつく。
「……?」
ふーむ? なにか変。なんだろう。
よくよくあたりをみまわして確認する。
見なれているはずの中庭に違和感、何かがちがう。
「あれ? 石の配置が変わってる」
裏庭のすみっこにゴロンと転がった大小さまざまな岩。
うーん、あいまいだけど昨日とびみょーに位置がちがっているような……。
みな端っこにあるのでなにも問題無いんだけど……。
んんん?
なにか……よく見たらそれぞれが土汚れがひどい。あかるくなりはじめた空のしたよく確認する。
やっぱり、これは動いた痕跡がある。
「あっ、またみんなで遊んだのかな?」
わたしの問いに岩は応えない。
小さい頃、この中庭で。
転がりまわる岩たちと一緒に遊んでた。
『わーい♪ いっしょに遊ぼー♪』
ぐるんぐるん どがっ ぶしゅううぅぅ
楽しすぎて遊んでたらなんども怪我をした。
『うぎゃあああああ』と泣き叫びながら手当をするおじいちゃんと、どすどすはねてうれしそうな岩たち。
―――けれど、怪我がふえるたび。
岩たちは段々と動かなくなってしまった。
『ねぇ、いっしょに遊ぼー?』
話しかけても、抱きついても、なんの反応もしなくなった岩たち。
しばらく様子をみていると、わたしに気づかれないようにこっそりと動いてたり移動してたりしているみたいだった。
だって位置がずれてたり、よごれたりしているんだもん。
きっとわたしにかくれて遊んでるんだ。
「はーい、遊んだ後は水で綺麗にしようー♪」
ぱしゃぱしゃぱしゃっ
魔道具のシャワーで、それぞれの岩に歌いながら丁寧に水を浴びせた。のぼりはじめた朝の光の中。
水を受けた岩たちがキラキラとかがやいていた。
「あははっいっぱい遊んだんだね〜。
遊ぶなら、わたしもたまには仲間にいれて欲しいんだけどな〜?」
水をかけながら岩たちに話しかける。
今はもう大きくなったし、
子どもの時のようにめちゃくちゃ遊んだりして
怪我したりもしないよ。………たぶん。
―――だからね、またいっしょに大樹の木の下で。精霊や妖精さんたちにかこまれながら……、岩のみんなと歌ったり踊ったり遊びたいな。
「気がむいたら……また、いっしょに遊んでね♪」
岩は応えない。水滴がキラキラと光る。
のぼりはじめた陽の光が『竜のあくび亭』をてらした。
シッカリとした岩肌をなでながら、
子どもの頃の楽しかった記憶を胸にわたしはほほ笑んだ。




