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第39話 星空の遊戯 sideヴォルフガング




「えーっと、それで何の御用ですか?」


 ふふふっ……私がわざわざ訪れ自室部屋へと連れ込んだ。

 夜も深い。――やる事は1つだ。


「わかっているだろう?」


 テーブルに広げられた、ゲームを指さした。

 少女が絶叫するように驚いて声をあげる。



 この『竜のあくび亭』に宿泊する理由はただ1つ。

 少女と遊戯ゲームを行う為だ。



「部下の黒装束さん達と遊んで来て下さい」


「ワガママを言うな? ルーシア?」


「なっ……!?」


 古代人の作り出した数々の卓上遊戯ゲーム

 それなりの能力または精神力が無ければ遊ぶことはできない。



 ――この遊戯ゲームは部下達と試したが無理だった。

 何度か危険な目にもあった。

 私の部下であるかぎり、共にゲームを行うコトは不可能だ。



 幼子に諭す様にやさしく話しかける。


 ……わかってくれ、この遊戯を共に遊べるのはお前だけなのだ。


「わかりました……」


 だいぶ思案し、納得したようだ。


「うむ。では、さっそくはじめるぞ」




 飲み物をサイドテーブルに置き、数あるゲームを見る。


「で、どれを遊ぶんですか?」


「うむ。今日はコレだ」


 私が取り出したすごろくゲームを見て声を上げた。


 ふふふっ、驚くのも無理はない。

 これは古代人卓上ゲーム《神々の古代遊戯アエテルニターティスゲーム》の中で最高難易度なのだから。


 善は急げと他のゲームを片付ける。



 ブゥゥゥンッ


 キラキラキラキラッ


 水晶球から光放たれた。

 部屋全体に星空が浮かび上がる。夜空の星、立体ツリー、真っ黒なサイコロ、魔法陣の光が幾重にも重なる。すごろくゲームの準備が整った。


「先行はお前で良いぞ」


 私は少女に笑いかけた。





 集中、そしてサイコロを振る。


 ブンッ ゴロゴロ……ゴトンッ


 スッ フィィィーン……。


「……。」


 黒面のサイコロの表面に光で記号や絵のモチーフが浮かび上がる。

 水晶球に照らし出された夜空のツリーから光が移動して動く。


(ふむ、今のところは順調か)


 

 黒面のサイコロ振り立体ボードの光が移動する。

 上下左右へ彼方へ。光は廻り、すすんでいく。


(最初に遊んだ相手は、お前だったな)



 ――ある日、古代人のゲームを手に入れた。


 共に遊ぶ相手がおらず嘆いていたが、

 《竜殺しの勇者》が古代卓上遊戯の使い手と知った私は『竜のあくび亭』へと訪れた。


『おじいちゃん? お出かけ中だよ〜……古代のゲーム?』


 不在だった『竜殺しの勇者』の代わりにと。

 はるばる遠方から来た私に、遊戯の相手をしてくれた。



 私は驚愕した。

 ゲームは1つ進めるだけでも苦難の業。

 しかし少女は軽々と、いとも容易く遊戯を行なった。


 あまりの衝撃で打ちのめされると同時に、友を得たと心の底から歓喜した。

 フッ……懐かしい思い出だ。


「ふぁ……」


 少女の小さなあくびが聴こえた。

 ――もう夜明けも近い時間だ。


 だが、ここまで来て、もう引き返すコトなど出来ぬのだ。

 ―――許せルーシア、私は運命を切り拓きたい。その先へと進みたいのだ。


 数多の星を見上げる。

 星は輝き、夜空の空間に2人きり。


 ……私は1人では無い。今ここに……共に彼女がいる。

 前へと進む勇気を、力をあたえてくれる。


 ただ2人、この世界の中で。

 立体ツリーを眺め、黒いサイコロを手に取り、祈る様に瞳を閉じて集中した。


(私に運命を切り拓く道を示せ――!)


 さいを投げ放つ。


 コトリッ


 サイコロが転がり、モチーフが浮かび上がる。


「……っ!?」


 光が高速で星空を飛び回り、幾重にも移動して弾けた。

 部屋が光で満たされる。


 ぱああぁぁぁっ


「あがり……か……!?」


 ドンッ!


 キラキラキラキラキラッ


 光の中で、星々が降りそそいだ。


「……お疲れさま」


 少女が目を細めて笑顔をむけた。


 銀色の髪を揺らしながら、光のあふれる中、星空の瞳が私を見つめている。


(私の……勝利の……女神……)


 眩しい光の舞う世界の中、私は星をまとう少女に優しくほほ笑み返した。



「礼を言うぞ、ルーシア」


「……ぃぇぃぇ」



 少女が小さく遠慮がちに謙虚な返事をする。


(だいぶ無理をさせたのに……まったくお前は、どこまでも優しいのだな)



「うー、ヴォルフぅ、ねむい〜」


 目を擦り、無防備のまま頑張って身を起こそうとする少女。――私はいつの間にかソファーの肘掛けに手を置いて少女を覆い被さるように見つめた。



(星や光をまとっているせいなのか?……これはいったいなんなのだ?……何故だか目が離せぬ)


 少女の手がふり払うかのように宙を彷徨う。

 私はその手を掴みとった。



「…………今まで気づかなかった。お前はまるで、小さな女神のようだ」


 うつらうつらと意識を失いかけている少女に、囁くように語りかけた。



「こんなにも……可愛らしい」



 まどろみながら少女が返事をしている。


 ちゅっ♪


 あまりの愛らしさに、思わず子どもにするかのように鼻にキスをした。


 少女が驚いて、悲鳴をあげる。



「ああ、愛らしい愛らしい」



 ぎゅううっと胸の中に抱きしめる。

 あまりの可愛らしさに愛を囁やきながら、あやすように背中を撫でた。


(……私の可愛らしい女神……)


 少女はやがて意識を手放して、そのまま胸の中で寝息をたてた。



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