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第38話 真夜中の珈琲 sideヴォルフガング



 ――渡り廊下をこえ、温泉への前に立つ。


「すまない、ルーシアの身を確認する為に……私はこの場に足を踏み入れる。許せ。」


 誰もいない入り口で宣言をする。


(屋敷妖精や、様々な加護や術式など、まったく何が起こるかもわからぬ屋敷で不用意な行動など危険だ)


 温泉の奥へと目をむける。


(だがしかし、今この屋敷には彼女と私達だけだ。彼女は無事か確認したい)


 ――私の運命、部下の命、様々なモノを抱えながら

 私は温泉へと足を踏み入れた。


 月明かりの中、

 精霊や妖精たちが温泉のまわりを光を放ちながら飛び交う。


(なんと……幻想的なのだ……想像していたよりもこの温泉は素晴らしい。

 ここを利用出来ずにいた事は、まったくの損失であるな)



『竜のあくび亭』ならではの特典。

 私はその魅力に思わず感嘆のため息をもらした。



 精霊や妖精たちが光を指し示す。


「……っ!?」


 銀色の髪を結い上げた少女が、湯につかりながら寝息をたてていた。


(なんてことだ湯の中で眠るなど……!)


 無防備な少女に舌打ちしそうになった。


宿ここには今、誰もいないのに、もし我等が来ていなければどうなっていたのかっ……。まったく不用心すぎる)



「おい、起きろ」


 宿屋の主人ルーシアへと声をかけた。


「……。」


 すやすやと寝息をたてて反応がない。


「おい、起きろ」


「……。」


 むにゃむにゃと口を動かすだけで起きない。


(……何故起きない? 湯の中で熟睡するなど……うつけ者めっ)


 何度呼びかけても目覚めぬ少女に苛立つ。


「おい、起きろっ」


 かなり大きな声で呼びかけた。


「んん……? もういっぱいだよぉ〜」


 嬉しそうに笑ってむにゃむにゃしている。


「何を言っているんだ……?ルーシアしっかりしろ」


 思わず、ふれて揺さぶりたい気持ちを抑えながら声をかけ続ける。


(湯の中とはいえ、不用意に触りたくは無い。……危険すぎる)


 ――彼女は『竜のあくび亭』の主人。

 許可なくふれなどしたら加護や術式、何が発動するかわからない。


「んー?……はっ!?」


 ルーシアが目を覚ました。


(ようやくか……意識は大丈夫な様だ)


 とりあえずホッと安堵して息をつく。


「風呂場で寝るな、」


「へっ!?ひゃ!?はへっ?」


 バシャバシャバシャッ


 温泉の中で彼女があわてはじめる。

 ピタリっと動きがとまった。


(ん?……まさか!)


 すぅうっ


 彼女が大きく息を吸い込む。


 バシっ


 手のひらですぐさま口をおさえた。


「……っ!?」


「ルーシア……大人しくするのだ」


 少女が目を見開いて、私を凝視している。


(……な、なんてコトだ、かなり危なかった……起こしに来たのに……

 まったく、私の方が叫びだしそうだったぞっ)


「んー! んんんーっ!」


「いい加減にしろ、わめくな」


 悲鳴を上げそうな彼女を抵抗がおさまるまで口元をおさえて、

 おちつくように静かに諭す様に声をかける。


「とにかく上がれ」


 手で口元をおさえたまま、彼女が何度もうなずいた。



 ◇



 落ちついたことを確認した後、そのまま背をむけて温泉を後にする。


(一応、用心するか……)


 温泉入り口付近の、しかくになりそうな場所を探して身を隠す。

 彼女か無事に湯から上がり、温泉からでるか確認する。


(ふむ。ちゃんと着替えまで無事に済ませたようだ、よしっ!)



 急いで2階の部屋へともどった。

 部屋に灯りをともし、暖炉の火をくべて、遊戯の準備をする。


 昂ぶる気持ちを抑えつつ、階段を降りる。


 ん? あれは……。


 食堂の入り口で、少女が立ち竦んでいる。

 私の部下の食事風景を見ているようだ。



(ああ、深夜に集団で来たので驚いているのだな。

 ふふっ皆くつろいで飲んで食べて楽しそうにしている)


「ルーシア」


「ひっ!?」


 驚かさないように、背後からやさしく声をかけた。


「ヴォルフガングさん!」


(ん?)


「前に言ったはずだぞ? ルーシア、名は呼びすてで良いと」


(……前回言った筈なのだが、どうやら忘れてしまったらしい。今は宿の客となってしまったが、遊戯ゲームを遊ぶ仲だ。せめて対等でありたいではないか。……遠慮などいらぬのに)


「……。」


 少女は無言になった。


「それで、どうしたルーシア?」


「う、ヴォルフこの方々、ヴォルフの部下の方たち!?」


(ちゃんと呼んだな? 遠慮など要らぬ意思はきちんと伝わったようだ)



「うん? 前に会ったじゃないか?」


「えっ!? だ、誰!?」



 少女があわてて振り返る。


 前回『竜のあくび亭』へ挨拶に伺った時、数人引き連れてここへ来た。


 まぁ、あの時は黒装束ではなかったが。



 私たちに部下が気づいた。


 それぞれ会釈や手をふったり、皿にかかげて礼をとったりしてるモノもいる。感謝と好意をむけていた。キチンと礼をするのは大事だ。


(ふむ、たがいのやり取り。彼女も手をふり返し応えているな。

 どうやら部下のことを理解したようだ)



「お前はこっちだぞ」


「ひゃっ」


 ガシッ


 背後からそのまま抱きしめた。


(時間は限られているのだ、一刻もはやく遊戯をはじめねばっ)


 ずるずるずるずる〜っ


 腹に腕を巻いて、抱きしめたまま移動する。

 多少抵抗したものの、すぐに大人しくなり2階の部屋へと導いた。




 ギィィィイ。


 ゆっくりと扉を開けた。


 バチっバチバッバチッ


(うむ。部屋は充分あたたまっている様だな。

 夜も深いので冷えさせるのはよくない)



「あれ?こんな部屋だったっけ?」


「結構前からこうだぞ?」


 少女が首を傾げてあたりを見回す。

 部屋の様子にとまどっているようだ。



「あー! 何か部屋広く感じるかと思ったら壁ぶち抜かれてるっ」


 2つの部屋が、1つの部屋になっていることに驚いて声を上げている。


「二部屋ちゃんと借りてるだろう?」


「へ?」


「お前は何を言ってるんだ?」


 ――2部屋借りるコトは初日に告げたし、

 部屋の改修リフォームも宿屋の後見人に許可をとった

 専門の職人も紹介してもらい作業を進めた。


(ここは遊戯ゲームを行うには多少せますぎる。

 ある程度の空間が必要なのだ。

 2つを繋げてようやく許容範囲の広さになった)



 つい不満な目線を向けてしまう。


(快適に遊ぶ為、其れなりの部屋に素材や家具もこだわったつもりだが……)


 少女は驚きかなり戸惑っているようだ。


「お前はいちいち細かいことを気にしずぎだ。さぁ、こっちへ来い」


 手を引いて暖炉側のソファーに、座らせる。


「湯でのぼせてたり冷えてなどないか? 何か淹れくる。しばし待て」


 頬に触れて、とりあえず少女に毛布を巻き付けた。


 すぐさま食堂へと向かい、腕を捲り手を洗う。

 コーヒーに香辛料を淹れながら作る。

 湯をわかしながらその間に一度水を取らせに戻った。


「待たせたな」


 差しだされたカップをルーシアが受け取る。


「あ、ありがとう」


「熱いぞ、気をつけろ」


 こくりとうなずく。

 

「はわぁ〜……」


 少女が感嘆の声をあげ、そんな様子を見ながら思わず笑う。

 自分が淹れた飲み物を美味しそうに口にする姿はなんとも良い気分だ。


 甘めに仕上げたが、珈琲の味には満足したようだな。

 ――これから夜は長いのだ。しっかりと飲んで備えてほしい。



「む?」


 珈琲を飲んで驚いた。一口ずつ飲み味を確かめる。


(なんだこれは……かなり美味い)


「どうしたの?」


「いや、珈琲を煎れたのだがいつもと何か違うな……」


「あっ!そういえばコーヒーに入れる香辛料、これドウゾさんから貰ったものに変えちゃったんだけど、合わない感じ?」


(ドウゾ……あの男か……)


「いや、普通に美味いが?」


 冷静を装いこたえた。味は確かなものだ。

 パッと笑顔で少女が笑った。


「美味しいなら良かった〜!」


「あの狸ジジイ……」


 私は呻いて残りの珈琲をあおった。


 

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