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第37話 真夜中の狼団 sideヴォルフガング

商人ヴォルフガング全3話。

コメディです。

よろしくおねがいします。




 バシュッバシュンッ


 月夜の晩に切り裂く音がひびく。

 黒装束の集団が闇夜に舞う。


 馬に乗りながら曲芸師の如く宙を踊る。



 ダガダッダガダッダガダッ


(追っ手か? 獣を放ったようだな)



「流星・天狼斬!」


 バシュッバシュンッ


 光が舞う様にきらめいた。


 馬の蹄の音と切り裂く音。 


「ヴォルフさまー! いかがいたしましょう?」

「いったん休みますか!?」


 ダガダッダガダッダガダッ


(こんな時だからこそ、世界は邪魔をする)


「迂回してでも今夜はゆくぞっ」



 応える部下たち、前方に新手の敵が現れた。


(まったく邪魔な奴等ばかりだっ!)


「そのまま突っ切る!来いっ!」



 ――月明りの中、馬に乗った集団が駆け抜けた。



 ◇



 ザバッ


 川で身を清める。


「ふぅ……」

 

 汚れた服を脱ぎ捨て、みそぎをした。


 三日月の夜空。

 月明りは少なく、移動には丁度よい。


(ついに『竜のあくび亭』へと来ることができた)


 満天の星空をながめ瞑想めいそうする。


(気持ちがたかぶる。落ち着こう)


『竜のあくび亭』はすぐそこなのだから。


 ザバッザババ


 冷たい川の水に部下たちが叫び声をあげている。


(皆にも身を清めるよう命じた。

 あの場所に足を踏み入れる……。用心に越した事はないからな)



 バチバチッバチバチッ


(焚き火の音、川の音、風の音)


 ―――耳をすませば、様々な音がひとつとなる。

 岩上に乗る体が、天と大地と繋がった。


 ゆっくりと目を開けて衣を羽織る。


「待たせたな、ゆくぞっ」




 ホーッホーッ フクロウが鳴いた。



 闇夜に『竜のあくび亭』の前に黒装束の集団が集う。


「ヴォルフ様? 我等全員この宿へ立ち入ってもよろしいのですか?」


「『竜のあくび亭』の後見人が、私とその部下全員をここに入れる様、指示と条件があってな」


「なんと……」


 皆が驚愕し絶句している。

 そうだ。ふつうならありえないコトだ。


「……危険ではないのですか?」


「此処には、様々な加護や術式があるらしい。

 悪意あるモノ、二心持つモノが入ると――私は、お前達を信じている」


「……ヴォルフ様……」


「もし、誰かが命を落とすコトが在るのならば、すべて私の責任である。皆で供にいくぞ」


(この中に1人でも……良からぬ心をもつモノがいるならば、私の旅は此処でおわるのだ。……自分の選択に悔いは無い)


 覚悟を決めて前へとすすんだ。



『ヒラケ ゴマ オープン ザ ゲート』


 異世界人の言葉が放たれた。


 ブゥゥゥン……ガコ、ガコガココッ


 石のレンガがパズルのように動きだし、

 グルグル廻りながら解除されていく。


 部下たちが驚愕の声をあげた。


 魔法陣が浮かび上がったカードキー。

 宿屋の第一扉のロックが解除された。


(皆……無事か?)


 気付かれぬ様に安堵の息を吐いた。



(『竜殺しの勇者』の異世界の言葉、

 扉をくぐり抜ける為の……言葉……か)


 全員で警戒しながら先へと進む。


 昼に訪れるなら、この第二門まではキーは不要だ。

 今は深夜、すべてのロックがかかっている。


 第二の門、屋敷の扉の前へ立つ。


『《タダイマ カエッテ キタヨ》』


 教えられた異世界の暗号を唱える。


 お土産を持参し捧げるなら

 『コレ オミヤゲネ』を追加で唱えればよいらしい。


 ガチャリッ


 扉のロックが解除された。


 思わず息を飲む。


(……部下たちも皆、不安気だ。私がしっかりせねば……気を強く持たねば)


「開いたぞ、では中に入ろう」


 カラン♪


 ギィィィイイ


 屋敷の第二の扉が開いた。



「全員入れ、恐れるな大丈夫だ」


 部下たちが警戒しながらも食堂へと入る。


「夜分遅くに失礼する。ルーシア、来たぞっ!」


 ――――闇の中。

 屋敷の主人へと大きな声で呼んだ。

 はやく姿を確認したくて、思わず叫ぶように名を呼んでしまった。


(この匂い……香辛料を使った料理か。どうやら先ほどまでここに居て料理をしていた様だな? ならば今はどこかに――)


 部下から明かり問われた。もちろんすぐに了承する。

 なんせ黒装束の集団で来ているのだ、彼女を不安にはさせたくはない。


 食堂に明かりが灯る。


 ドカッと靴音をあえて大きく鳴らす。

 相手が存在を認識しないと驚かせてしまうからだ。

 森に入る時もこの手法を使う。


「ルーシアっどこだっ私が来たぞ!」


 屋敷の彼方此方を探すが見つからない。

 ここは外部から小さな屋敷に見えるが以外に広い。


(もう就寝しているかと、部下に問われたが確かに……。しかし、彼女の部屋が見つからない。困ったものだ)


 精霊や妖精がふわりとまとわりつく。


(何だ……?)


 案内されるよう導かれれば、渡り廊下から温泉へと辿り着いた。


(使用中の立て札、なるほど入浴中か)


 ガタッ ガタタッ


 食堂へと戻ると部下たちが声をあげていた。台所で食事を大量に見つけたらしい。先程調理したであろう、あの香辛料をふんだんに使った料理を食したいと懇願された。


(そうであった、今日は移動と戦闘で食事をとらせてはいなかったな。今が丁度良い機会かもしれぬ)


「かまわん、好きにしろ」


 部下たちが声を上げて喜んだ。


 ドカッと乱雑に私は座った。


「必要なら台所の食料は何でも食べて良いと言っていた。足りなければ追加補充する。好きなだけ食べると良い」


(いつでも食事が可能な様に、作り置きや野菜や果物があると最初の説明で聞いたしな)



 ガツガツッ ガツガツッ


「……。」


 部下たちが音をたてて食事をしている。

 そこまで腹を空かさせていたのかと反省する。


(それにしても、彼女は遅い。温泉で長湯など大丈夫であろうか?……心配になる)


「……。」


 しばらくすると部下達からも

 『湯が長すぎるのではないか?』と心配した声が上がった。

 確認してくるかの問いに私は席を立つ。


 ガタッ


「いや、私が見てこよう」


(部下たちはそのまま食事をとらせよう。忍びない気持ちだ)


 足音を大きく立てて私は温泉へとむかった。



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