表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/105

第35話 檸檬とはちみつ sideユリウス②




「それにしてもすごいね〜」


 彼女ルーシアがよろこんで声をあげた。


 ひろげられた武器や防具にアイテム。



 彼女が不思議な物にわくわくして小踊りして。

 色んなアイテムに目を輝かせる。


「何か気になるのある? さわりたいのかな」 


(かなり危険なのもあるけど、封印済みだし一緒になら……)


「ううん、大丈夫見てるだけで充分楽しいからいいの、ありがとう♪」


 にっこりと笑ってふり返りながら手をひらひら振ってる。



 昔は、絶対にさわりたいと頑張ってよく怪我をしていた。

 ジイさんも頭を抱えてたっけ?

 

 ……今はもう見ているだけで充分なのかな……?


 見ているだけで充分。になってしまった彼女ルーシア

 何故だがすこし寂しい気持ちになる。



「あっでも、この武器ゲットにいたるまでの冒険のお話聞きたいなー♪」


 その言葉と笑顔に、先ほどまでの暗い?

 気持ちが、吹き飛ばされた。


 冒険とダンジョンの話がききたいんだ?

 俺も話したいコトたくさんある。



「いいよ〜! じゃあ、今度来る時にでも」


「わ〜い、楽しみにしてるね」



 突然、彼女がハッとしてかたまった。


 ん?


 心配そうに辺りをキョロキョロと見回している?

 ああ、色々広げてるから警戒しているのか。……急に不安になったのかな?


 ここ裏庭は広く木が茂っていて外部からは、

 見えにくい構造になっているけど……。


(広範囲の周辺に《探知魔法》済みだし、今も屋敷の周り限定だけど、魔法は、継続させている。周りは……うん、大丈夫だ)



「大丈夫、今ここには2人だけ」


「ホント?」


「うん、誰もいないよ?」


 不安そうに首をかしげたあと、くるりとふり返る。

 銀色の妖精が、虹色の糸をなびかせて夕焼けで染まる。


「……。」


 夕焼けの中、ゆっくりと俺を見あげた。


「あれ……? ユリウス背のびた?」



 ――先ほどのタオルで髪をふいた時の違和感。

 どうやら彼女も気づいたみたいだ。

 

 ちょっと前まで、俺が彼女を見上げてた。最近、おなじくらいの目線でいた。今は……何だか……もう、彼女が俺をかなり見上げてしまう身長差になってしまって……。


「んー、そうかもね?」


 子どもの頃、同じ存在だった彼女とこんなにも違ってしまった……。


 それがとても悲しくて……うれしい?



 ゆっくりと彼女が俺を見つめる。


 見た目だけは……儚い天使や妖精の類。実際は好奇心旺盛でわんぱくで、無駄に元気で、誰よりも食べるコトが大好きで、それで……。でも今は何だか……。


「……っ!?」


 意識したとたん。

 思わず抱きしめて、抱擁したくなるような存在になった気がした。



「ルーシア……?」


 彼女がびっくりしてあわてて一歩後退る。


(あっ……!)


 体のバランスを崩して、そのまま後ろへと倒れこむ。

 ――その刹那。


 ガシッ


 彼女が、俺にのばした手を掴みとる。

 そのまま胸に引き寄せて抱きしめた。


 あれ? いつの間に、こんなに。

 胸の中の小さくなってしまった存在に、俺はとまどって混乱した。


 かなしくてわめき出したい気持ちと、うれしい?

 喜びたい気持ちと、何だろう……これはよくわからない……。


「びっくりした〜、大丈夫?」


「あぅ……ありがとう」


 俺の胸の中、彼女が小さくうめいた。

 確かめるように頭をなでて、抱きしめる。


 ぽんぽんぽん……。


 幼子にする様に、やさしく背中をたたく。


 ちいさい頃、彼女が泣いている俺にやってくれた。

 いつの間にか、俺もその役割ができるようになっていたんだ……。


 幼い頃から感じていた、何だかおいてかれる焦燥感。

 ……自分の意思でもう追いついていけるんだと安堵した。


 2人きり夕焼けの中で無言で抱きあう。



「ずるい」


 え?


「ルーシア?」


「なんか、とてつもなく、ずるい」


 胸の中でつぶやく不満気な声。

 彼女の意図がわからなくてとまどう。


「一人で勝手に成長してる……」


「……っ!」


 そうだ。

 俺が、彼女よりも成長してしまったんだ。


「ルーシア」


 銀色の髪がなびく、星空の瞳。

 驚いて俺をジッと見つめてる。


 胸の奥が、熱くなって、あたたかくて。


 ゆっくりと両手で彼女の頬をやさしく包みこむ。


 俺の大切な、存在。


 ちゅっ


 俺は瞳を閉じて、彼女のおでこにそっとキスを落とした。

 

 驚く彼女にやさしくほほ笑む。


「おまじない」


「あっ……!?」


「師匠が僕らによくやってた、おまじない」


 ジイさんが俺と彼女にたくさんのキスをくれた。

 幸せであれと、大笑いしなが俺たちに祝福を願い授けた。


「よくやってもらってたよね? 不安がるルーシアに。

 だから俺から加護と祝福をあげる」


「……っ」


 彼女が目から涙があふれて、体をはなそうとする。


 ぎゅっ


 大切な存在を胸の中に、やさしく抱きしめる。

 彼女はあわてて抵抗する。


 ああ、幼い頃とちがって、彼女はこんな力すらも。

 もう振り解くコトができないんだ。


 なぜだかすごくうれしい。



「こ、こどもじゃない〜!」


「はははっそうだね〜」


「恥ーずかしーい! はなして!」


「もうちょっとだけ……ごめんね?」


 このぬくもりを感じていたいんだ。


 彼女が、真っ赤になって涙をぼろぼろながしてる。

 ジイさんのおまじないをしたから、泣いてしまった。


 頭をやさしくなでながら、ゆっくりと背中をたたく。

 ちいさくあやしながら、かさなる胸の鼓動が心地良かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 読んでいただきありがとうございました。 script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ