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第34話 竜殺しの弟子 sideユリウス①



「やっと帰ってきた」


 俺はダンジョンからの帰りでホッとため息をついた。

 今回の冒険は大変だったなぁ。

 予定より日数がかかってしまったし。


 ―――とにかくはやく帰らなきゃ。


 さっそく『竜のあくび亭』へとむかう。




 トントントンッ 扉をノックした。

 昔住んでいたお家だけど、今は俺にとっては宿屋。


 カラン♪っと音をたてていつもの扉を開けた。



「ルーシア、いるかな〜?」


 宿屋をはいってすぐの食堂を覗き込みながら声をかける。

 あっいたいた。ちょうどキッチンで作業をしていたみたいだ。彼女がふり返る。



「……ユリウス?」


「ただいま」


「おかえりなさい〜♪」



 天使や妖精のたぐいに見える幼なじみ。

 おどろきながら、笑顔をむけて俺の場所へとかけよってきた。


 良かった。ちゃんと元気そう〜。



「ごめーん。裏庭の水浴び場借りていい?」


「うん、大丈夫だよ♪」


「倉庫にもいれたいモノがあるんだけど……」


「おっけー! 鍵もってくるね〜♪」



 この『竜のあくび亭』には貸し倉庫がある。

 元冒険者だった、俺の師匠が宿屋を建てる時に作った。


 あったら絶対に便利だからって理由。

 確かにスゴい便利。心で感謝する。



 裏庭へつくと精霊や妖精たちがふわふわと飛んできた。



「ただいま。今からちょっとここ使わせてもらうね」



 ふわふわと俺のまわりを飛びながら光ってる。なんだかくすぐったい。


「あははっ」


 笑顔をむけて挨拶した後、運び込んだ武器やら防具やら道具をならべた。


 ルーシアが建物の中から裏庭へ来た。


「ごめん、むこうでも浄化して持って来たんだけど。倉庫入れる前にもう1回確認したいと思って……」


「大丈夫だよー。あっ、お腹すいてない?」


 そういえば。はやくここへ帰ってきたかったから。

 ちゃんと食べてない……お腹空いた……。



「うん、なにか食べたい」


「サンドイッチならすぐに用意できるよ」


(やった! サンドイッチ好きだ)


「ありがとう助かる〜。……あと今日は宿泊や夕飯は別のとこで取るから、作業それまでには片付けておくから」


 そう、帰って来たから。

 俺は本当の家に帰らなければならない。


 でも、彼女の前で家に帰ると言葉にするのが。

 どうしてか……できなくて、毎回遠回しな言い方になってしまう。 



「はーい♪ じゃあ、用意してくるね」


 天使がよろこんで歌いながら、スキップして屋敷へもどった。



 俺は彼女と8歳までの3年間、一緒に暮らしていた家族だ。

 孤児だった俺を、彼女のお爺さんが迎えて育てた。


 その後、幸いにも遠縁の親族が見つかり俺は引取られた。



『やだっ! どうして僕だけ……?』



 連れて行かれるのに、屋敷に残る2人に置いていかれる気がして泣いた。



 ――その後、どうしてもつながりが消えてほしくなくて、俺は彼女のお爺さま元冒険者であり『竜殺しの勇者』に剣の教えを乞う。


 隠居の身であった『竜殺しの勇者』も俺には甘く、しぶしぶ了承した。

 師匠に憧れ、剣を修業した俺はやがて冒険者になった。


「さて、と」


 とぅんっ ちいさく詠唱し魔法を唱える。


 《探知魔法》を発動させて人がいないか確認した。

 一応念のため、足を踏み入れる際にも屋敷周辺にかけている。


「『竜のあくび亭』のまわりに異常なしっと」


 師匠から学んだ補助魔法。

 一人ソロ迷宮ダンジョンに行くこともあるので、

 冒険に必要な魔法はほぼ習得している。




 ざばっざばばっ


 裏庭のシャワーを頭から浴びて、おのれ自身を清める。


「ああ、気持ちいいなぁ〜」


 この宿屋の水は加護がかかっているので浴びるだけで浄化される。

 ―――『竜のあくび亭』ならではの特典だ。


 瞳を閉じて、ひたすら水を浴びたあと

 水撒きシャワーで武器、防具、道具に一気に振り撒いた。



 ◇



 空がだんだんと赤くなり、

 風が吹き抜けて夕暮れを見ていると気配がちかづいた。


 ん?


「はーい、お待たせ持って来たよー♪」


 背後からかけられる声。

 そのまま振り返るとルーシアがトレイを持ったまま驚いてのけぞった。


 うわっ!……っと、大丈夫か。


 あぶないなぁ……自分から声をかけて、何でびっくりしてるのかな?


 えっ、真っ赤になってふるえてる……?

 ああ、もしかして……裸だから?


 ペタっと上着を脱いでいた体にふれた。


(ルーシア、俺を見て、そんな反応するようになったんだ……?)


 昔は一緒にお風呂で遊んだ中なのに……。

 まぁ、おたがいもう子どもじゃないんだし。

 仕方がないんだけど……。でも、なんだか変な気分だ。



「ありがとう、ちょうど終わったところだよー」


「あ……うー! 何で……って風引くよ」


 ぶわりっ


 突然、頭にタオルが降ってきた。

 まだ濡れている髪にタオルで頭をガシガシ拭かれた。




「あー、ごめんっだいぶ汗もかいたから水浴びしたんだ」


「もーっ、水浴びにはまだ早いよ」


「あははっ」


 ん?


 心配しながらもわしゃわしゃと頭を拭く彼女が、精一杯の背伸びをしている事に気づいた。


「……。」


 俺はそっとかがみこんで、頭を拭かれた。



 ◇



 サクッと着替えて、裏庭の野外テーブルで2人で席につく。



「サンドイッチ食べてー」


「ありがとう、もうペコペコ」


(……あっ)



 輪切りのレモンが浮かぶ水差し。

 レモネードがゆっくりとそそがれる。


 思わず笑顔になった。


(俺の大好きなレモン……用意していてくれたんだ)



「うれしい」


「ユリウス、レモン好きだもんね?」


「うん! いただきます〜」


 さっそくサンドイッチにかぶりついた。


 もぐもぐもぐもぐっ


(おいしいー♪……パンの表面に焼き目、内側にバターも塗ってる。中身は玉ねぎとゆで卵のスライス……、マヨネーズに黒胡椒……。ハムと野菜もちゃんと水気も抜かれてるし、ていねいにありがたいなぁ)


 もぐもぐもぐもぐっ


(っと、基本料理が好きだから、つい気になってしまう……)



 料理に興味をもった俺に、師匠ジイさんがおしえてくれた。 

 冒険の役に立つからと。



(うん、おいしい。お腹空いてるから、何倍も余計においしいー)


 サンドイッチに夢中になっていると、

 となりでルーシアがほほ笑んでた。


(わっ、もしかしてずっと見てた?

 とってもおいしいし、ペコペコだったからつい……)


 ガシッ


 目をそらしてあわててグラスを掴みとる。

 柑橘系の匂いが鼻をくすぐられながら、レモネードを飲んだ。



(んんんー!? 何だコレっ……!)


 レモネードが、脳天を直撃した。


(レモンと砂糖……いや、これは蜂蜜……? 絶妙なすっぱさと甘さだ。何か特別なのかな?……すごくおいしいし……ふつうの材料ではないな)



「え……、ユリウスどうしたの?」


「なにこれ」


「ええー!?」


 バシッ


 言葉を言いおわらないうちに、彼女があわてて俺のグラスを奪いとる。


「……あっ……」


 グラスに口付けて喉を鳴らす。

 その様子をぽかんとしてただただながめた。

 時間がゆっくりとながれる。


 直後、彼女がカミナリに撃たれたように硬直した。



「わぁぁぁあああっ!」


「すごくおいしくて、びっくりしたんだけど」


「わあぁぁぁああっ!」


「うん、うん。いつものルーシアだね」



 あははっおいしくて、ぶるぶるしてる。


 さっきルーシアが別人みたいに見えたけど……?

 うん、いつもの彼女だ。


 なんだか胸が変な感じがしたけれど。

 いつもの彼女の様子にホッとした。


 俺はうなずきながら、おいしさでふるえる彼女の横目に

 サンドイッチを笑顔で頬張りもぐもぐする。



「これドウゾさんからいただいた蜂蜜なのっめちゃくちゃ美味しいよー」


「あー、ドウゾさんか………」


 俺はスッと半目になった。


 《商人ドウゾ》

 ルーシアにいつもおいしい食材を届ける商人……。

 彼女は『食神の御使い』って崇めてるけど、どーなんだろ?


 ルーシアが声をあげて蜂蜜の説明をしてる。

 モンスターを改良して採取するんだー。すごいなー。


「ふーん? ドウゾさんの食材ハントっぷりすごいね」


 《食材研究の会のエルフ》さんたちや

 色々な機関と繋がってるって話みたいだけど……。


「でも、いつもいただいてばっかりで申し訳ないよね〜」


「あー……うん、そうだね……」


 いや、正直。

 この『竜のあくび亭』で、かなり稼いでいるんじゃないかな?

 宿泊客がひいきにしてるようだし。

 ……あと、ルーシア値段知らなさそう。



「まぁ、食堂にいろいろ卸してるからね。最近なぜかとても儲かっているみたいだし? お礼はありがたくいただこうよ」


「えっそうなんだ?」


「うんうん」


 まぁ、わるい人ではなさそう?

 ヤバい人なら……ルーシアの後見人たちがすでにしりぞけているだろうから。


「そだねー! って、ああっ!」


 ルーシアがうばったグラスにようやく気づいて悲鳴をあげた。

 俺は笑顔でグラスを没収した。



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