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第31話 絵本の王子様 sideレオンハルト①

side絵本の王子様。全3話。

よろしくおねがいします。



「ついに完成したのか……!」



 ぶわさっ


 マントをひるがえしなびかせながら前へと進んだ。

 さまざまな手を使いようやく手に入れた。

 

 ―――この茶菓子を一刻も早く届けたい。



 馬車で『竜のあくび亭』へと辿りつく。

 私はノックして扉を開けた。


 ギィィィイ。


「……っ!」


 ゆっくりとひらく扉、光をまとう天使がそこにいた。


 銀色の髪、星空の瞳。

 天使や妖精の類の少女。

 目を見ひらきながら、驚いた顔をして私を迎えた。


「ひさしいな……ルーシア」


 変わらぬ姿がそこにあって、

 私はうれしくて思わず歓喜の声を上げるように名を呼んだ。


「……?」


 彼女がとても驚いて身を引いている。

 ああ、突然の来訪でずいぶんと驚かせてしまった。


 怯えさせたくなくて、やさしくほほ笑んだ。

 そんな私を見ておずおずと彼女が言葉をかえす。


「こ、こんにちは、レオンハルト様」


 ぎこちなくその名を呼ばれた。


「……。」


 なんてことだ。他の者がそう呼ぶのを耳にしてから、彼女も他の者と同じようにその名を口にする。


 ――笑顔をむけているが……彼女がとてもぎこちない。

 あわててながらも礼をとっている。


 胸がせつない。それをふり払うように言葉をつづける。



「突然の来訪すまない、変わりないか?」


「は、はい、元気です」



 宿屋をはじめてからとても心配であったが……元気にしているようだ。



 ――ルーシアとは幼き頃より友だ。

 

 私の叔父上と、彼女のお祖父様が仲が良かった。


 小さい頃、よくこの『竜のあくび亭』に預けられていた。

 夏の間、彼女のお祖父様、彼女と私。3人で過ごした。


「……。」


 彼女は、私が……レオンハルトが何者であるかは知らない。

 彼女からは何も聞いて来ない。

 いや、もしかするとすでに知っているかもしれないが……。


 『竜殺しの勇者』の旅立ち。追悼儀礼。

 その参加で臣下を連れて来るしかなく、はじめて身分がバレてしまったくらいだ……。あの時から、すべてが変わってしまった。今までのように名を呼ばなくなった。態度もまるで変わってしまった。


 もしや身分を隠していたことが騙されたと思って……?

 腹を立てたりとまどっているのだろうか?


 ――身分など関係なく友として交流したかった。それがあのようなカタチでおわりを告げた。うしろめたい気持ちもあり……いまさら呼び名を戻せと言いづらい。



「レオンハルト様もお元気でしたか?」


「ああ、変わりないな」


 気づかうように問われた。心地よい声。


 私は彼女が愛おしくて、笑顔をむけた。

 彼女もぎこちないけれども、目をそらさずほほ笑み返してくれる。


 ああ、とても満たされる気分だ。


 しばらく間、逢うことができなかったけれども

 こうして逢えて……狂おしいほど胸がいっぱいになる。大切な存在だ。



「君にこれを……受けとってくれるか?」


「わぁ、ありがとうございます♪」 



 ようやく完成した茶菓子を差しだした。


 喜んで花束とケーキ箱を受け取る天使。

 とてもうれしそうだ……みるみる笑顔になってゆく。私もうれしい。



「お茶を淹れて来ますね」


 彼女が礼をとりキッチンへとむかおうとする。



「ルーシア」


 名を呼んだ。

 銀色の髪がなびいて、ふりかえる。

 不思議そうな顔で見つめられた。


「……っ」


 思わず手を差しのべそうになり、

 冷静に息を吐くように切り替えて声をかける。



「いや、すぐにお暇するよ」


「そう……なんですか?」



 天使が悲し気な表情をして私をみた。

 胸の奥が切なくてもどかしい。


「では、またの機会ですね……こちらもご丁寧にありがとうございます」


 寂しげに、けれど気丈にほほ笑む。

 私は少し困ってしまい、何とか笑顔を取り繕い笑み返すコトができた。



「ああ、すまないな。気持ちだけで……?」


 彼女の瞳をみつめながら、息をのんだ。



 次はいつ逢えるのだろうか……?

 あと何回、彼女にこうして逢うコトができるのだろうか……?


 気持ちだけで充分と、自分で言った言葉に私は眉を潜めた。



「……もしかして今は宿ここに君だけか?」


 あたりを見回しながら問いかける。


 ……報告ではたしか誰もいない時間のはず。


「はい、1人ですけど……? いかがされましたか?」


 彼女は笑顔のまま、不思議そうに応えてくれた。


 2人きりの茶会……。

 こんな機会は、今を逃してはほぼ廻ってはこないだろう。



「やはり、茶をいただこう」


 私は彼女へと告げた。

 とつぜんのコトに天使は驚いている。


「あ、はい……」


 とまどいながらも、ほほ笑んでくれた。


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