第30話 森の妖精トマト sideテオドール+
「よぉ! おはよーさん、リヒトくぅーん?」
リヒトとバッタリ、2階の廊下で出くわした。
裏庭のハーブ園でルーシア嬢と語らったあと二度寝した俺と、部屋から遅く出てきたリヒト。すこし困った顔をしながらかけよってぺこりとおじぎする。
「お、おはようございます、……昨日はありがとうございました。あと、部屋にも……運んでくれて……」
「わははっ気にすんなってぇ! 無理せずいこうぜ?」
「はい、テオドールさん」
「飯だ飯ぃ! さっきそのまま二度寝しちまってよー腹減っちまってなぁ」
「ふふふっ」
リヒトが階段を降りながらクスクスと笑う。
どうやら一晩眠って元気になったみたいだ。
◇
食堂へと着くとルーシア嬢が作業をしていた。
「おはよーございます♪」
ササッと俺たちの前にかけよった。
「リヒトくん、昨日はごめんね? ありがとう」
「いえいえ、こちらこそホントに……色々と甘えてしまって、すみません」
「えー、そんなことないよー。大丈夫だよ。私の方こそごめんねー」
俺は2人を目だけで交互に追って見る。
ペコッペコペコペコッ
おたがいにひたすらぺこぺこしあってる。
(……なんだコイツら……)
「はははっ」
俺は思わず大笑いして、2人がいっしょに真っ赤になる。
そろって恥ずかしそうにコッチをみた。
◇
おそめの朝食がはじまり、
ルーシア嬢がリヒトにもチーズ焼きトマトをすすめてる。
朝は乳製品も控えてるから一応確認をしているのだろう。
「リヒトくんも、もし良かったら」
「あ、食べたいです。お願いできますか?」
2人が笑いあいながらやり取りしてる。
(ホントほほ笑ましいヤツらだなぁ)
極上チーズと食材研究のエルフの『森の妖精トマト』のコラボにヤラれた。
マジかよ!?
トマトのくせにめちゃくちゃウメェー。
「テオドールさん、やっぱりトマトのこと……す」
「おおーと!おっと?ルーシアちゃんそこまでだぜー。俺はまだコイツら野菜の実力を図っているだけで?まだ認めてはいないんだよなぁ、コレが」
(……ったく、今まで大ッキライだったモノを認めるには時間がかかるんだよっ! 子供にはわかんねーかもしれねぇが……大人になるとなかなか難しいんだよっ! プライドってヤツがな、邪魔をするんだよっ)
「ここまで美味しそうに食べてこの人は……」
「往生際が悪いですよ。テオドールさん?」
(……息ぴったりかよ……)
2人がくすくす笑ってる。
(あー、まぁ、わるかねぇ気分だわな)
ふんふん♪
っと鼻歌混じりに朝食を食べた。
◇
「ごちそーさんっと♪」
朝食がおわり紅茶を飲みつつ、まったりする。
(……んで、ここからなワケよ)
「ルーシアちゃん、ありがとな♪」
言葉を述べつつ、ルーシア嬢の手をとる。
ササッと引っ込めてようとしたが、手を引いて抱きよせる。
ちゅっ♪
すかさず指先にキスをした。
「〜〜〜!?」
一瞬で真っ赤になるルーシア嬢。
チラリとリヒトに目をむける。
一連のやり取りにほほ笑ましいように笑ってる。
(ふーん?遠慮なしでやったが、
2人の状況はだいたいわかった……嫉妬とかもね〜のな)
わたわたしてるルーシア嬢を見て2人で笑った。
「あのー、あのですね?」
「うん?」
「常識的なマナーとは大変理解しているのですが……!」
「うんうん」
「えっとね? あまり過度な……こういった行為などは。……は、恥ずかしいので、今後はぜひとも、控えていただきたいのですが……?」
「……。」
「……。」
(……この程度でけん制かけてくるとは、マジで大丈夫かよ……こいつ舞踏会とかパーティーに行ったら即気絶するんじゃね? 箱入り娘にもほどがありすぎだろう)
「意識し過ぎじゃね、ルーシアちゃん?」
「わかってるよー! じゃあ、やらないでね?」
「やらないとは言ってねーよ」
「なっ……、なぁ……?」
ルーシア嬢がのけぞる。面白いな。
「マナーだし? ついやっちゃうコトもあるだろうしなー? 約束はできないよなー?」
両手を上げて後ろ頭に組みながら椅子にもたれ足を組む。
ワザとらしく顔をそむけ、目は横に流す。口笛だって吹きたい気分だ。
「いや、いやいや?」
「んー、僕も習慣化してることは、ついやってしまうかもしれませんねー、困りました」
(お? おおお! リヒト、お前……参戦か!
さっそく実践? イイねイイね〜♪)
『遠慮する? そこは張りあって、そんなん場面だぞっわかったか?』
『はい、わかりました』
昨日の一連のやり取りを思い出してじわじわ来た。
「困りました困りました〜」
リヒトが指を頬にあて、コテンと首を傾げてる。
言動はちっとも困ってもなさそうだ。
下手くそだが、頑張ってとぼけるのが何か目新しい。
「なー、リヒトもそうだよなー?」
「そうですねー?」
2人で棒読みで次々とすっとぼける。
ルーシア嬢がにらんでうなり声をあげた。
「うーっ!」
(お? ルーシア嬢、悩みぬいた上に敗北を認めたな? ホント顔にまんまでて心配になるぜ)
俺は可笑しすぎてニヤニヤがとまらない。
リヒトもふふっとやさしく笑ってる。
「も、もう、とにかくふつうにおねがいしますね……!」
「……。」
「……。」
顔を真っ赤にして、ひっしにお願いするルーシア嬢。
俺たちは互いに肩をすくめて笑った。
好きな相手の気を引きたくなる。
ひどいコトしなくたっていろいろできるわな。
「ま、こーいうやり方もあるわけよ」
「勉強になります」
リヒトが嬉しそうにうなずいた。
真っ赤で涙目のルーシア嬢を見ながら俺は甘い果実水を飲んだ。