第27話 寝不足の騎士 sideテオドール
「朝ごはんできたよ〜♪」
1階の食堂から明るい声がきこえた。
「……んぁ?」
ぱちりっ
俺は目が覚めた。
うーっもう朝か? まだ寝たりねー。
シフト明けでまだねみぃー。
だが今日は休日ぅぅ。夕方まで寝てやるんだ。
抱き枕にキスしながら顔を埋めた。
ぎゅるるるる〜っ
そーいや昨日夕飯食いそこねたな。
まさかあの方が突然直々に職場に来るとは……!
思い出したくねぇイヤな記憶は眠るにかぎるぜ。
二度寝のために頑張って目を閉じる。
「……。」
って、いっこうに眠気がこねぇぇぇ!
ガバッ
「しゃーねぇ、起きるかぁ」
名残り惜しいが俺はベッドをあとにした。
トンッ トンッ トンッ
ん?
階段を降りながら、食堂の不穏な空気に気づく。
(なんだ……?)
リヒトとルーシア嬢の顔が重なっているだと……⁉
(やべぇーキス現場か……!?)
スッ
俺は野次馬のごとく気配を消し、
身を潜めながら食堂の様子をうかがった。
頬にふれながらみつめあう2人。
(ちょ、リヒトくーん? おまっ……やるじゃねぇか?)
ぶるぶる震えてるルーシア嬢とリヒトを見てニヤニヤした。
(おいっリヒトぉーあわてて立ち上がり膝打ったな!
食器めちゃくちゃだ。まて、杖と本逆さま!)
あわててるリヒトを見て舌打ちしそうになる。
うおおぉぉいっ なに放置してんだー!
今だソコだ行っけぇぇぇぇぇー!
バタンッ
素っ気ないそぶりとリヒトと、困惑しているルーシア嬢。
そのまま見送って扉が閉まる。
「……。」
ルーシア嬢がふるえて、その場でうずくまった。
(あーあ、やっちまったなぁリヒトぉ)
「な〜にやってんだかねぇ……」
「テオドールさん!?」
背後からルーシア嬢に声をかけた。
赤くなりながらも髪を整えながらあわてて立ち上がる。
(ま、泣いてはいないみたいだな。
よかったぜ……ふうん、リヒトの行動に照れてるだけかぁ……)
腹をかきながら、くあっとアクビが出た。
「おはよーさん、ルーシアちゃん?」
「お、おはようございますテオドールさん……って、夜着のままですか」
「ん〜、今日休みだからさ飯食ったらもう1回寝たいし……まぁ、今は俺とお前しかいないからいーじゃん?」
飯食ったらまた寝よっ
……朝から初等部お遊戯会見て気が抜けたぜぇ。
「ま、まぁいいですけど……」
ん?
ルーシア嬢がチラチラ見てる?
なんだ? 夜着だから目のやり場にでも困って……。
あったしか筋肉好きって言ってたな……?
テレながら目をそらしてる。可愛いな〜。
んまぁ、今はそんなことよりも。
「腹減った〜! 昨日そのまま寝ちまって飯食いそこねてさぁ……なぁ、肉、肉あるか? 今日はがっつりと頼むわ〜!」
「ハムじゃ足りないの? あっドラゴンハンバーグならすぐに準備できるけどどうかな?」
(何ぃぃー! ドラゴンハンバーグだと……⁉
朝からパンチのある肉じゃねぇか気にいった!)
「あー、それそれ。ちょうど喰いたかったヤツね。はい、決定〜! ソース濃い目で、たっぷり頼むわ」
「はーい、ちょっと待っててね用意してきまーす♪」
「ういーっす」
ルーシア嬢がパタパタとキッチンへむかった。
俺はいつものお気に入りの席につく。
「さきにシチューおだししますねー?」
「ん〜、よろしくー♪」
テーブルの小瓶に小さな花。
(お? この花懐かしいな、小さいけど良い香りするんだよなぁ……あいつが好きだった花だな。元気にしてるかな?)
懐かしさに愛おしくて思わずキスした。
「はーい、お待たせしました〜まだ熱いから気をつけてください。おかわりもあるよ〜」
「ひゅー、サンキュー♪」
「野菜もちゃんととってね」
(すかさず毎回野菜をすすめてくるなぁ……)
「ういーす。肉と一緒ならいくらでもドンと来い!」
(1から10まで野菜食わすコトに全力かけやがって。
お前はママかよ?……まぁ、悪い気はしないケドよ……)
「あははっ♪」
ルーシア嬢がうれしそうに笑った。
(……野菜嫌いの俺にめげずに食べれるように気遣うんだよナー。濃い目の味付けに潜ませたり、新鮮なヤツをそのまま出したりしてさ。)
もぐもぐもぐもぐ。
(そーいや前の休日に。
リヒトとルーシア嬢の3人で野菜農園いったなぁ……。
洗いたてのトマト、マジ旨すぎて絶句したわ)
3人で楽しく農園で収穫体験したり、
そのまま野菜丸かじり食べ放題を思い出す。
(肉だけでも良かったんだが。
業務上食べられる料理増えて楽にはなったな。
前はわりと苦行だったし……)
もぐもぐもぐもぐ。
(まぁ、野菜のおかげか。
最近体の調子すこぶる良いしなぁ、うん)
肉を待ちわびている間にシチューのお代わりをする。
(ふーん?
肉料理のためにひそかに野菜多めにしてるな。
細かい配慮なコトで)
ンンジュゥゥー♪ パチパチパチッ
「お待たせしましたー♪」
カリカリの焼き目のドラゴンハンバーグと、
デミグラスソースのチーズ添え。
「ウェーイ!」
両手を上げてガッツポーズ! 大勝利だ!
なんだこれはっ めちゃくちゃ美味え
ドラゴンハンバーグやべぇ!
「ナニコレ、いつもよりうまく感じるんだけど⁉」
ルーシア嬢が極上チーズを語ってる。
(何ぃー? ドウゾさん経由の食材だと〜?
またあの商会かよ。
まったく罪なものばかり作りやがるぜ)
雑談しつつ、極上チーズでなにかしらの料理を頼む。
ルーシア嬢が料理を提案してきた。
「簡単だけどトマトにチーズのっけて焼くはどうですか?」
「むぐっ」
(こ、こいつ……。
俺が1番嫌いなトマト全力で推してきやがった……
ってか、おかげ様で、もう食えるようになったがな)
「トマト美味しいですよね〜チーズと相性もよいですし」
「……。」
うれしそうに幸せな笑顔むけている。
ぽわわんと花畑。
(好きになってるコトまでお見とーしってワケか)
「……ルーシアちゃん」
俺はあえてちいさく呟いた。
「んー、テオドールさんどうしました?」
無防備にトコトコ近付いて前かがみになる。
ルーシア嬢の肩をすかさず抱きよせた。
「ひゃ!?」
ちゅっ♪
指先に軽くキスをした。
金色の髪がさらりとゆれて。
とまどい見開いた、星空の瞳を手にいれる。
(相手に気遣うそんなトコ、マジで賞賛に値するわ)
「ありがとな? 楽しみにしてる」
「……!?」
耳元で誘惑するように、深く、深ーく響くように囁いた。
顔が一瞬で茹でダコになった。可愛い。
(けど、きっちり仕返しはするがな)
「なっ……!なっ……!?」
「はははっルーシアちゃんは可愛いな♪」
ガバッと左耳をあわてて抑える。
(真っ赤で涙目か?
っとに、こーいうの免疫ゼロだよな〜)
「もー!変なことしないで下さい!」
「ごめんごめん、嬉しくてついな?」
「ううう〜っ」
(お? ルーシア嬢がにらんでる。
まーたよからぬコトを考えているな。
……この子ホント顔にすぐでるよなぁ)
ルーシア嬢がぷるぷる震えて涙目だ。
(いきなり涙目? 戦略的撤退を覚悟した目だな)
くくくっ
戦いを仕掛けようとして、頭のなかですでに敗北してる。
ほーんとわかりやすい。ほーんと可愛い。
ん?
「あっわりぃ〜、食事の途中だったんじゃないか?」
「……。」
「朝食、一緒に食べようぜ?」
「うー? うーん……うん!」
(飯で一瞬で怒りがおさまりやがった……)
ばくばく嬉しそうに食べてる。
『やっぱりドラゴン肉は最高〜☆』
「わははっルーシアちゃんがっつき過ぎぃ」
(こりゃ完全に食い気しかないわな)
二度寝した後、昼前に商会へとむかう。
極上チーズを注文しながら、
ふいにルーシア嬢とリヒト。2人の喜ぶ顔が浮かんだ。
(1つ屋根の下、宿屋だけの関係だが。
『竜のあくび亭』の暮らしわりと好きだ)
俺はいつのまにか笑って、前へと歩きだした。