第25話 聖職者の朝食 sideリヒト
ここからside話です。
読み飛ばしても本編に影響はありません。
※恋愛と後半はほぼコメディです。
どうぞよろしくおねがいします。
「朝ごはんできたよ〜♪」
一階の食堂から明るい声がきこえた。
僕はくすりと笑った。
聖職者の法衣をまとい、杖と束ねた本を抱える。
二階の宿泊部屋から階段を降りた。
「おはようございます、ルーシアさん」
「リヒトくん、おはようー♪」
朝陽のさしこむ食堂で少女がふりかえった。
――――光をまといながら笑ってる。
まるで虹色の妖精みたいだ。
おたがいに笑顔で挨拶をかわす。
ルーシアさんは今日もとても元気そう。
「サラダと野菜スムージーでよろしいですか?」
「はい、おねがいします」
いつものメニュー。
朝はなるべく菜食な僕に、ここでの食事はありがたい。
ああっ好きな野菜を中心としたサラダがかがやいてる。
貴重な素材がふんだんにもりこまれたありえない朝食。
『竜のあくび亭』ならではのメニューだ。
「こういった食事は簡単そうに見えて、いつもたすかります」
僕は小さく笑い会釈した。
「いえいえ〜どうぞ、お気軽にお召しあがりくださいませ?」
ととん♪
スカートを片手に礼をとり、ちょこんと首をかしげる。
大げさな可愛らしい仕草に、僕は思わず口に手をあて笑った。
彼女はトンデモない魔法具をつかい、朝食をつくる。
――異世界人、古代文明、魔術、技術を使った道具だ。
それをおしみなく使ってだされる朝食。とてもありがたい。
話しをしながら2人でくすくすと笑う。
僕は彼女とのこの気楽なやりとりがとても好きだ。
僕は祈りと感謝の言葉を捧げる。
さっそく野菜スムージーをゆっくりと飲みサラダを食べはじめた。
「はぁ、おいしい」
新鮮な野菜の朝食にうっとりとする。
不意にきこえたお腹の音。
あわてて彼女がお腹をおさえて真っ赤になっている。
まだ朝食をとっていなかったのかな?
「ルーシアさん、ご一緒にいかがですか?」
「うん、そうするねありがとう〜」
立場上《宿泊客》と《宿屋の主人》の関係。
なので、こちらから声をかけねば同席してくれない。
僕は毎日、食事をともにしたいのだけれど……。
まだまだ遠慮されている。
「これドウゾさんからオマケでいただいたの」
焼き立てパンに用意したチーズを見せてくれた。
ルーシアさんは食べることが大好きだ。
『食神の御使い』と呼んで商人ドウゾさんからの贈り物。
とても喜んでいる。
パンとチーズを、天使が笑顔でかぶりつく。
「んーっんんんー」
「あはは、どれだけですか」
僕はおもしろくて、くすくすと笑った。
「だってこれ、おいしすぎるよぉ」
ルーシアさんがとても幸せそう。
さらなる高みを目指すようにシチューをかきこんでる。
「ふふっいつもホントにおいしそうに召しあがりますね」
ホントに可愛いなぁ。
――――あっ頬についてる。
僕は言葉より先に、立ちあがって彼女の頬にふれた。
あれ? どうして?
一瞬でドキリと胸が高鳴った。
サラリとした髪が視界に入り、星空の瞳と目があう。
目を見開いたままの彼女が僕をみつめてる。
ああ、2人だけの世界でまるで彼女を独り占めしたかのよう。
指でそっと彼女の頬をなぞる。
名残りおしくて――だけど、そのまま身を引き席へとついた。
「なっ……リヒトくん?」
突然の行為に声をあげた。
「す、すみません、ついてたので……」
あわてて、さっと指をみせる。
そう、頬についていたから。
だから、こんな失礼な行動を……。
真っ赤になってふるえる彼女。
――――胸の奥が歓喜する。
心が、気持ちが喜びに満ちて、おさえきれない。
どうして? これは、いったいなに?
「ごちそうさまでしたっ」
僕は自分の気持ちと行動に驚いて、あわてて立ちあがる。
混乱しながら食器を片付けて、まとまった本と杖を担ぐ。
彼女は真っ赤になって立ちすくんでいる。
状況が把握できていないみたいだ。
ああ、もうなんて顔で見ているんですか。
ドアノブに手をかけ努めて冷静にいつもの声をかける。
「では、いってきますね」
「あ、いってらっしゃい気をつけてね」
ルーシアさんが気をとりなおして、笑顔で見送ってくれた。
スタスタッ スタスタッ
早足で歩きながら、真っ赤になってうつむいた。
どうしよう、彼女に変な気持ちがわいてしまった。
これは何? イヤだ……ルーシアさんにきらわれたくない。
突然わいた感情をふりきりたいのに。
―――でも、胸の高鳴りと心の歓喜がとまらない。