第24話 すべてが集う日⑥ それぞれの星
「……えっと、『竜のあくび亭』の宿泊客は、先ほどのギルティアさまを含めて全員顔合わせできたの……かな?」
シンっと静まりかえった部屋にユリウスが呟いた。
「うんうーん♪」
聖職者のリヒトくん
騎士のテオドールさん
冒険者のユリウス
商人のヴォルフ
数年ぶりに宿屋に来た。
吟遊詩人のギルティアさん
そして本来、宿泊予定だった。
騎士のレオンハルト
六部屋のうち5人+1人
「皆さんが顔合わせできてうれしいー♪」
胸がいっぱいになって思わず声をあげてしまった。
『竜のあくび亭』の全宿泊客勢ぞろい。
今までずっとすれ違いばかりだったし。
それぞれ気が合いそうな感じだったから。
宿泊客どうし顔をあわせてほしかったんだ。
それに、おじいちゃんのお友だち、
吟遊詩人のギルティアさんもひさびさに逢えてよかった♪
……なにか変な警告音とともに消えちゃったけど。
「ふふふっ」
突然リヒトくんがクスクスと笑いだした。
「……えっと、リヒトくん?」
「いえ、すみません。何だかおかしくて」
んん? なにがおかしいのかな?
「オイオイオイッこの宿、なんでもありかよーっ?」
髪をかきあげてテオドールさんが笑った。
「テオドールさん、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ、こいつはおもしろいぜ」
えっと? おもしろいとはいったい?
「クククッ……精霊や妖精が集う宿屋のじてんでな」
「レオン!? あ、うん?」
背後でクツクツと笑う自称騎士レオンハルト。
―――なんだかちょっとだけこわい。
「あははっルーシア。俺、楽しい♪」
「ええっと、ユリウス?」
うれしそうに目を細めて冒険者ユリウスが笑う。
「うん。皆さんとあえて俺、すごくうれしくて楽しい♪」
そっかぁ。うん、楽しいならよかったー。
「フッ……どうやらこの宿屋、多少見括っていたようだ。『竜のあくび亭』こんなに愉快な場所だったとはなっ……!」
不敵な笑みを浮かべて商人ヴォルフガングが腕を組む。
「ヴォルフ、愉快な場所って……?」
「喜べ、褒めているんだぞ」
よくわからないケド、
この場所を褒めてるならうれしいな〜。
皆さま方がそれぞれ楽しそうに笑ってる。
わたしだけこの状況においてけぼりな感じがするけど。
……なんだか楽しそうだし、まぁいいのかなー?
光の線を描きながら
キラキラとうれしそうに飛びまわる精霊や妖精さんたち。
笑い声につられて集まった光は
祝福するようにぐるぐるときらめいた。
◇
ルーシアの朝は早い。
朝早くハーブや薬草を摘み、1日の食事の準備や下ごしらえがあるからだ。
「おはようございます、ルーシアさん」
「リヒトくん、おはよー♪」
裏庭のハーブ園。
先に待っていた聖職者のリヒトくんが笑顔で迎えた。
パシャパシャパシャパシャッ
「らんらんるーらららー♪」
いっしょに歌いながら水をふりまいていく。
『朝のハーブ園の水やり、一緒に参加してもいいですか?……ホントはずっと興味があって……なかなか言いだせずにいたんです』
リヒトくんが光の中で歌声をあげた。
いっしょに歌うってすごく楽しいなー♪
お休みの日、週末限定。
小鳥さんや妖精さんたちと歌うのももちろん楽しいけど。
誰かと声をあわせて歌うのもとても楽しい。そしてうれしい。
ハーブと薬草を2人で笑いながら摘んで食堂へ向かった。
◇
「よお、おはよーさん♪」
「「おはようございます、テオドールさん♪」」
「はははっ朝から元気だな」
食堂で三角巾とエプロン姿の騎士テオドールさん。
布マスクをあて野菜を丁寧に下処理していた。
ななななんと。
テオドールさんは料理をはじめた。
保存食や食事の話で冒険者ユリウスと意気投合。
宿泊が重なる日に料理を習っている。
『ちょっとした料理くらい作れるようになりてーんだよなぁ』
たしかにすこし調理するだけで、
好きな味つけとかできるもんね。納得だ。
「テオさーん、これもお願いできますか? ちょっと大きめに……あっルーシア、リヒトくんおはよう〜♪」
「おはよー、ユリウスー♪」
「ユリウスさん、おはようございます」
キッチンの奥からユリウスがでてきて、
テオドールさんに追加の食材を渡した。
「ちょうど焼きたてパンもできたところだよー♪」
『竜のあくび亭』でお手伝いをしていたユリウス。
今は冒険から帰って来たあと、食事担当を受けもった。
『俺がいる時は、食事はまかせて。腕鈍りたくないからね〜。それと保存食の向上にむけてキッチンつかわせてくれると助かる〜』
実家の屋敷ではキッチンを貸してもらえないらしい。
料理が大好きなユリウスが困っている状況にすぐさま了承した。あと、将来冒険者を引退したら酒場のマスターもいいなぁと笑って話してた。
「できたぞ、さっさと席につけ」
商人ヴォルフガングがキッチンから顔をだした。
香辛料入りの珈琲をトレイにのせている。
「あれー? ヴォルフなんでここに?」
「お前な……あいかわらずだな。宿泊客がいたらわるいか?……今日は皆でゲームをする約束だっただろうが」
「あっ、そうだった」
ヴォルフはあの日、皆とゲームをすることを約束した。
『ほほう、貴様たちも古代の遊戯に興味があるようだな? いいだろう、《神々の光と闇のゲーム》……果たしてついてこれるかな?』
挑むように、腕を組みながら言葉を投げかけた。
皆が笑顔でうなずくのを見てヴォルフは驚いたあと、まんざらでもない顔をしていた。
「でも、ゲームって昼過ぎから遊ぶ予定だったよね?」
「早めに来た。準備とか説明とか色々あるからな。……まったくこれだから素人は」
「そだねー、うんうん♪」
たぶんゲーム友だちができて結構うれしいのかもしれない。
はりきって朝にきたみたいだし。
わたしもなんだかうれしいな。
トントントン、カラン♪
「はーい」
朝イチで荷物が届いた。
花びらの舞うメッセージカード。とっても綺麗で可愛い。
やさしい心づかいに思わず笑顔になる。
「レオンからお菓子が届いたよーっ。今回は参加できないケド、皆んなで楽しんでねって」
ケーキの数は宿泊客全員分、
――もちろんレオンハルトの分も含めてだ。
「ああっ〜、レオン様めっちゃ参加したがってたぜー……やっぱり都合つけるの難しかったかぁ」
「ありがたいね。あとで皆でいただこう」
ユリウスが笑顔でケーキを受け取って、魔道具冷蔵庫へと運ぶ。
わたしは花束を花びんにうつして、そっとふりかえる。
「ギルティアさーん、朝食できましたよ〜?」
私は時々、こうして2階に声をかけている。
――誰もいない場所から、返事はない。
「……。」
『竜のあくび亭』
6号室の宿泊客、吟遊詩人のギルティアさん。
あの日1度きり姿を現しただけ。その後、いくら名を呼んでもギルティアさんは部屋からでて来なかった。
「あとでお茶会やゲームで遊んだりします、良かったらぜひ参加して下さいねー?」
もしかしたら、いつかギルディアさんの気がむいたら。
ひょっこり現れないかと楽しみにしてる。
お茶会も参加したがってたし。
――――天窓から光がふりそそぐ。
そっとおじいちゃんに祈りを捧げた。
「ふふふっでは、ルーシアさんそろそろ」
「うん、朝ごはん食べよー♪」
『竜のあくび亭』の一日がはじまった。
これにて完結です。
お読みいただきありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。
次回からはおまけのside話です。
よろしくおねがいします。




