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第23話 すべてが集う日⑤ 吟遊詩人の帰還



 ――食堂の奥側、観葉植物が生い茂る場所。

 ソファー席へと移動した。


 聖職者リヒトくん、騎士テオドールさん、

 商人ヴォルフガング、自称騎士レオンハルト。


 4人がわいわいと会話をしてる。

 とっても楽しそう。



 冒険者ユリウスがキッチンでの作業を手伝ってくれた。

 2人でレオンハルトからの差し入れのケーキと花茶を並べる。


 朝食からそのままお茶会の流れだ。



「ほらほら、2人とも席について」


「えっ……それはちょっと」



 騎士テオドールさんが笑って席をすすめてる。


 宿屋の主人が『お客様』と同じ席につくのは……。

 いや、さきほどまでは朝食をご一緒させていただきましたが。

 もうこれ以上はさすがに……。


「一緒に花茶をいただきましょう?」


 聖職者リヒトくんがやさしく手をさしのべた。

 天使の笑顔でほほ笑む。

 

 ああ、癒しだ。

 心が絆されて、思わずうんと返事したくなる。



「2人とも席につけ。二度は言わぬ」


「よいぞ、許す」


 わああぁぁぁー。

 商人ヴォルフと自称騎士レオンハルトの協力プレイがツラいぃぃ。

 

 《拒否権》自体が存在しない方たちだ。

 2人がかりは無理。


「…………は、はい」


 わたしは天使が見守る中、力の前に屈した。



 ◇



「これは美味しいねぇ……人を幸せにする味だねぇ♪」


 ほこほこになりながら、

 レオンハルトの持参した茶菓子の花畑で遊んでいた。



「では、全員集まったのですね? 本来宿泊予定のレオンさんを含めて」


 聖職者リヒトくんがうれしそうに笑った。


 6部屋のうち4人+1人



「だなぁ、スゲぇぐうぜん〜おもしれーわ」


「あははっ俺もそう思います」


「フッ……笑わせる。すべては必然――そう運命というヤツだ」


「まさにそうだな」


「お、おうっそうッスね」


 ヴォルフガングとレオンハルトがたがいにうなずきあう。

 テオドールさんが気圧されながらも返事した。



 カチャリッ


「そーいやさ、ずっと聞くのアレだったんだけどよ……」


「ん? なんですか?」


「……すみっこの部屋っていったいなんなんだ?」


 騎士テオドールさんが茶を飲みながら、気まずそうに質問する。



「あの札が貼られている……部屋のコトですよね?……6号室……扉にビッシリと札が……ある」


 聖職者リヒトくんが眉をさげて不安そうにつぶやく。



「俺がここで幼い頃住んでた時から、あの部屋あんな感じでしたよ?」


 冒険者ユリウスは顔色を変えずに返した。



「フン、ワケあり部屋と言うコトか……。私の4号室、5号室の隣だな」


 商人ヴォルフが片眉をあげて皮肉げに笑う。



 ゴクリ……。


 誰も触れずにいた、

 札だらけの6号室について全員が喉を鳴らす。



「ルーシア、あの部屋はなんだ?」


 騎士レオンハルトが直球ストレートで質問した。



「ちょっレオン様、まずいッス!」


「え? なに、何の話かな?」


 花畑でたのしく遊んでいたところを急遽呼びもどされた。



「あのね、ルーシア。ほら、札だらけの部屋あるでしょ? 6号室、いきなり、なんだけど気になってさ。……俺も知らないし」

 

 冒険者ユリウスが言葉を選びつつ説明する。



「ふむ。宿やホテルにかずの間があるのは、よくある話だな」

 

 自称騎士レオンハルトが顎に手をあてうなずく。



「《イワクツキ》は、かえって泊がつく場合もあるぞ? 隣の部屋、がぜん興味がわいた。気になるな、よし話せっ」


 商人ヴォルフが目を光らせ喜々として命じた。



「僕はどんな話でも、宿泊やめませんからっ」


 聖職者リヒトがおびえながらも決意の目をむける。



「えっとぉ、そんな怖い部屋じゃないんだけど……」


 わたしはとまどいながらつぶやいた。



 なんだか皆さま方……。

 想像をふくらませていろいろ言ってる。


 全員がわたしの方へと振りかえる。


 って、うわぁぁぁっ

 皆さんいっせいに目をむけないでぇぇーっ


 うーん……。

 また今回のように予期せぬ方向で

 遭遇エンカウントしてトラブルになっても困るし

(朝寝坊のあいだにいろいろあったみたい?)

 

 一応ちゃんと説明しておこう。


「あー、えっとね……6号室は、吟遊詩人ぎんゆうしじんのギルティアさんの部屋。わたしが宿屋をはじめる前、先代からの長期宿泊客の部屋だよー?」



 ガタッガタタタッ


 突然、『竜のあくび亭』建物がゆれた。


「「「!?」」」


「なっなんだ……!?」


「ひぇぇぇ!」



 バァンッ


 上の階から扉の開く音がひびく。



 ギィ……ギィ……ギィ……!


 階段の上から足音を鳴らしながら、何かがゆっくりと降りてきた。



「呼びましたかね? ルーシィ?」


「ギ、ギギギルティアさん!?」



 ポロン……ポロン……ポロン♪



「おやまぁ、皆さま方おそろいで」



 竪琴を奏でる、人外的な美しい羽鳥。

 金色の長い髪をなびかせて、それぞれに笑顔をむけた。



「皆さま方、はじめまして〜宿泊客の『吟遊詩人のギルティア』でぇーす♪ お見知りおきを〜♪」


 ジャンジャカジャンジャカジャーン♪


 華麗にぐるりと回ってお辞儀する。


 ボボボーボン♪


 七色のド派手に舞い散る紙吹雪と造花。



 全員が驚愕してかたまった。

 わたしもいっしょに目を見開いて驚く。


「あ、えっと」


 あわてて席を立ち、ギルティアの前にささっとかけよる。

 スカートをつまんで礼をとる。



「お、おひさしぶりです! ギルティアさん」


「ひさしぶりですねぇ〜」


「うんうん、びっくりしたよーって、なぜ突然ここに!?」



 いきなり宿屋への帰還。しかも2階の部屋からの登場だ。

 ふつうにびっくりするよ。



「それはそれは、ルーシィが私の名を呼んだから……飛んで参上したのですよ?」


「ええっ?」


 まさかそれだけの理由で……?


 吟遊詩人ギルティアさんが、ツカツカと前に進む。


 ちゅっ♪


 突然、こめかみにキスされた。



「わわっえっと、ギギギルティアさん!?」


「ふふふっあいかわらず愛らしい」



 わたわたとあわてて跳び上がる。

 

 金色の長い髪がゆれて、クククッと笑う。

 愛おしそうな瞳でジッとみつめてる。



 うー、小さい頃からこめかみにキスされてたけど……。

 人前ではちょっと恥ずかしい。

 というか、お客様の前だから控えてほしいーっ。


 ガタッ


 後ろで、誰かが席を立つ音がした。



「あのー、ギルティアさまで……よろしいでしょうか? よかったらお茶をご一緒にいかがですか?」


 ユリウスがちょっと戸惑いながらも、笑顔でギルティアさんに声をかけた。


「なんとっお茶会のお誘いですか? 素晴らしいッ♪ ぜひとも参加させていただきます〜♪」



 ビー、ビー、ビー。


「む?」


 食堂に場違いな、警告音が鳴り響く。


 ビー、ビー、ビー、ポチッ



「――――どうやら、時間切れのようですね? ではでは、皆様方ご機嫌よう〜♪」


 ジャンジャカジャンジャカジャーン♪


 ばむっ


 ケムリと音をたてて、吟遊詩人ギルティアさんが消えた。


「……。」


 全員がふたたびあっ気取られ、わたしもびっくりした。


  

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