第22話 すべてが集う日④ 自己紹介
次は私の番だな、とヴォルフがフッと笑った。
「ヴォルフだ。商人稼業をしている。ルーシアとは遊戯遊ぶ友であり、その為にこの『竜のあくび亭』に宿泊している。ここへ来るのは……そうだな……、2、3ヶ月に1回だ。よしなに頼む。以上だ」
全員がピシリとかたまった。
「ゲームのために宿……?」
聖職者リヒトくんが眉をひそめてつぶやく。
「マジッスか?」
騎士テオドールさんが面食らって思わず叫んだ。
「え? ルーシア、ゲームって何か遊んでたっけ?」
冒険者ユリウスが戸惑いながらも質問した。
「なんだそれは……?」
貴族のレオンハルトが目を見開いて驚愕している。
皆さま方の疑問の目線がいっせいに集まる。
うわぁぁ、なにこれっ大注目とかやめてくださいぃぃ。
「いやっあのトランプとかすごろくとか……」
しどろもどろになりつつもとりあえず説明する。
“ゲームを遊ぶためだけに宿をおさえてる”
たしかにちょっと変な話だよね。
説明がかなり難しい。
いくら『ゲーム大好き』、『遊ぶ友だちがいない』からって、そのために宿をおさえてるなんて、びっくりするよーっ。
ちゃんとわかるように説明してぇぇーっ
「そうだ。ルーシアと2人きり宿でゲームをするためだ」
「「「!?」」」
全員が驚いて息をのんだ。
うわぁぁっ
なんだかその言い方だと誤解されるよーっ
「こらぁ! 誤解を招くような言い方しないで⁉」
「昨日も寝るまで付き合ったではないか」
「わぁぁ〜っホントやめてぇ」
バタッ
恥ずかしさのあまりテーブルに突っ伏した。
真実しか言ってないのに、めちゃくちゃ大きな誤解が生まれそうな発言だよぉぉーっ
皆さま方が絶句したあとなにやら思案している。
「朝までゲームかぁ。なるほどなぁ〜」
片手を頭にあて視線をぐるりとまわすテオドールさん。
無言のまま様子を見ているレオンハルト。
リヒトくんが恐る恐るヴォルフに問いかける。
「それって僕らも参加して……いいんですか?」
「うーむ……。できればルーシアと2人きりが良いのだが……ふむ、集中が難しいかもしれんが興味があれば、ぜひとも参加してみてくれ」
真摯に対応するヴォルフに皆、毒気を抜かれたようだ。
「……。」
「……。」
「……。」
カチャカチャとひびく食器の音。
とりあえず再開された食事。
どうやら誤解はとけたみたいだ。とけたよね……?
それにしてもなんだろう?
皆さま方が
ふつうにヴォルフの発言をすんなり受けいれている?
「…………?」
うーん、どうしてだろう。
不思議そうにするわたしにユリウスが困ったように笑って説明した。
「ヴォルフさんと俺たち朝にちょっとね……いろいろあって。誤解されやすいのは……わかってるから」
スッ
リヒトくんとテオドールさんが光を失った目でうなずいた。
うわぁぁ、
ホントにわたしが寝過ごしている間にいったい何が……?
この様子だと……だいぶ大変なコトがあったのかもしれない。
うううっ寝坊したばっかりに申し訳ないです。
◇
ああ、私の番であったとレオンハルトが立ち上がる。
「私の名はレオンハルト。ただの騎士だ。ルーシアのお祖父様に大変世話になった。ルーシアとは幼き頃より交流がある。ぜひともよろしく頼む」
「……。」
「……。」
「……。」
皆、ただの騎士に突っ込まず無言になる。
こんな凄いキラキラしい風貌で無理があるが空気をよむ。
――――本人が、言うならそうなのだろうと。
たぶん、どこかの大貴族でそれなりの騎士だよね?
今さら聞くのもなんだしレオンハルトも何も言わないし。
身分は探られたくないのかも?
とりあえずそっとしておこう。
優雅な動作で一礼しレオンハルトが席についた。
ユリウスが会釈しながら話しかける。
「えっと俺、ここに住んでた時期や弟子でかよっていたこともあって……でも、今まで1度もレオンハルト様にお目にかかることができなかったみたいですね。それがすごく残念で……」
「そうだな。私も幼き頃、ここで過ごした身だ。ユリウス、今まで出会えなかったことはまったく同意見だ。たがいに運がなかったな」
ユリウスとレオンハルトが打ち解けるように笑った。
うーん、たしかに。
ちょうど2人とも訪れていた期間が重なってないし、パーティやお祭りでもどちらかが参加でぜんぜん会えなかったんだよね。
イベントのたびにかなしい気持ちだったなぁ。
でも、今はこうやって2人が笑いあってる。
ようやく会えてよかった。すごーくうれしいよ〜。
「それと私のことはレオンでいい。……この場所ではそれが許されるのだから」
レオンハルトが皆にほほ笑んだ。
それぞれが驚きつつもうなずいている。
ふむう。
ここでは身分を気にせず無礼講でいこう!
って、希望しているのかな?
たしかにわたしが『様付け』で名を呼ぶと不機嫌になるし、
この前は怒ってかみついてきたしなぁ……。
うん、かむのはよくないよっ
あっでも……もしかして肩苦しいのは。
レオンハルトにとってもちょっとツライ感じなのかな?
むむ。気はのらないけど……。
本人が望むのなら気軽に名を呼ぶ方向で……。
「ルーシアも、わかったな?」
「……っ!?」
レオンハルトの言葉にびっくりする。
ええっ? わたしだけ個別に要確認?
って、なんだかひどくないですか〜?
金色の髪から青い瞳をのぞかせながら首をかしげてる。
決意したとたん先にくぎをさすなんて……。
ちゃんと呼びすてにするし、
レオンの意向を尊重してるのに〜。
「……はい。レオンさ……ぐぎぃっ……レオぉン」
「……。」
さっそく間違えた。
うわぁぁっレオンハルトがまったく意図の読めない、やさしい表情を浮かべたまま無言になってるよ。
「……ぶはっ」
「ルーシア、あははっ」
「……くくくっ」
「ふふふ、ルーシアさん」
ぎりぎりな判定だったけどちゃんと言い直したのにーっ
なんでー! なんで皆ふきだして笑うかな!?
うううっなんだかすごくくやしいし恥ずかしいよう。
◇
「でも、面白いぐうぜんだよね〜。今日皆さま方がはじめてあつまった日にレオンが訪れるなんて」
ちょっと斜め上に目線をなげつつ。
とりあえず話を変えようと気になったことを話した。
……恥ずかしすぎてつらいし。
ついでにもう1回、名誉挽回とばかりにちゃんと名を呼ぶ。
「ん? そうなのか?」
「うんうん、あと1部屋はレオンが長期宿泊予定だったって後見人から聞いたよ? 時間差でヴォルフが2部屋予約になったみたいだけどー?」
「狭いトコロはいやなんだ」
商人ヴォルフが嬉しそうに不敵に笑った。
だからそれ褒めてないよー。
『ゲームのためだけに2部屋おさえてる』
騎士のテオドールさんはようやく理解が追いついたのかやや半目気味だ。聖職者リヒトくんと冒険者ユリウスはうなずきつつも不思議そうにしている。
「ヴォルフよ」
腕を組みながらレオンハルトが問いかけた。
残りの珈琲カップをあおりながらヴォルフが応える。
「なんだ?」
「……1部屋、譲れ」
突然はじまった交渉。
皆さま方の動きがとまり場がシンッとする。
「フンッ、それは無理な話だな」
「な、なぜだ……!?」
不敵にニヤリと笑いながらスッと人差し指を立てた。
「2部屋は、すでにつながり1部屋となった」
「…………なるほど、そうか」
レオンハルトが目を伏せた。
2人の会話に思わず飲み物を吹きだしそうになる。
えっ、なにその会話?……しかもそれで納得するんだ。