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第18話 真夜中の狼団③ 星空の遊戯



「えーっと、それでどのようなご用件でしょうか?」


 とりあえず質問した。


 もう夜もかなり深い。

 宿泊客なので夜中に帰宿するのはかまわないのだけれど。

 ……部屋に連れ込まれるのは大変困るのですが……。



「わかっているだろう?」


 ドーン!


 テーブルに広げられたボードを指さした。


「えええ〜っまたですか?」


 この商人ヴォルフガングは、ゲームが大好きだ。


 部屋を借りている理由がまさにコレ。

 

 信じられないけど、私とゲームで遊ぶためだけに

 『竜のあくび亭』を2部屋おさえてるちょっとすごいお方だ。



「部下の黒装束さんの方々と遊べばいいじゃないですか」


「ワガママを言うな? ルーシア」


「なっ……!?」


 ワガママって、どっちがっ

 叫ぼうとヴォルフガングの顔をみて絶句する。

 まるで小さい子に言い聞かす、諭すような表情。

 口をつぐむ。


 ――これはアレだ……。

 育ちや環境の違いから起こる認識や色々な違いだ。


 あの絵本の王子様みたいなレオンハルトとの会話と似ている。


 はぁ〜っと脳内でため息をつく。



「……わかりました」



 抵抗したって時間の無駄なのだ。

 レオンハルトで学習済みだ。


「うむ。では、さっそくはじめるぞ」



 飲み物をサイドテーブルに置き、数あるゲームを見る。



「で、今日はどれを遊ぶのですか?」


「んー。今日はコレだ」


「うげっ!?」



 ヴォルフガングが取り出したすごろくゲームを見て声を上げた。

 その中で1番プレイ時間が長いヤツだ!


「あのー、他の選択肢は……」


 ガサガサッ ドサッ


「……。」


 ヴォルフが他のゲームを書斎らしき机に片付ける。

 あ、選択肢そのものがなかったんですね、はい。


 ブゥゥゥンッ


 キラキラキラキラッ


 水晶球から光が放たれ、部屋全体に星空が浮かび上がる。

 夜空の星、立体ツリー、真っ黒なサイコロ。

 魔法陣のような光が幾重いくえにも重なる。



 すごろくゲームの準備が整ったようだ。



「先行はお前で良いぞ」


 ヴォルフがニヤリと笑った。



 ◇



 ポーンとサイコロを振る。

 黒面から光でモチーフが浮かび上がる。

 水晶球に照らし出された夜空のツリーから光が移動する。


「……。」


 わたしは眠気をこらえていた。


 まず、このゲーム意味がわからない。

 

 サイコロ振って立体ボードの光が移動するんだけど、進んでいるのか進んでないのか、わからない。光はぐるぐるしたり上下したりして、むしろゴールが何処どこにあるのかもわからない。


 この意味不明なゲームを真剣に遊んでいるのだが、面白さが全然わからない。



 ……おじいちゃんと最初に遊んでた頃は。

 星々の世界――宇宙や黒面に浮かび上がる絵。

 立体の移動する光、すごく興奮した。


 でも結局、内容がわからないし飽きちゃったけど……。

 おじいちゃん、このゲームを遊ぶと喜んでくれたんだよね。


 おじいちゃんの楽しむ笑顔が見たくて。

 ゲームを遊んでほしいとせがんだりした。

 

 ――ほとんどそのまま寝ちゃってたんだけど……。



「ふぁ……」


 頑張ってあくびをかみかみする。


 チラリとヴォルフに目を向ける。

 真剣に立体ツリーを眺めて。

 サイコロを手に取り祈るように瞳を閉じて集中している。


 ぐふっ


 おもわず吹きだしそうになったけど。

 あまりの真剣さに何も言えなくなった。


 ――ホントにゲームが大好きなんだ……。


 浅黒い褐色肌と銀色の髪を見つめる。


 すごく綺麗きれいな顔立ちだ。黙っていれば絵本の王子様と同じくらいのうつくしく、女性でも引くぐらいすさまじい色気を放ってるのになぁ……。



 ゲーム遊ぶ友だちに不自由している……。



 天は2物も3物も与えたかもだけど、ゲーム友だちは自分で作らないとだからね。



 祈りをささげるヴォルフが手をふりあげた。


 コトリッ


 サイコロが転がり、光が高速で星空を飛び回り移動して部屋が光で満たされる。


 ぱああぁぁぁっ


「あがりだな……」


 ドンッ!


 キラキラキラキラキラッ



 勝ちか負けかもわからない、すごろくゲームが終了した。



「……お、お疲れさまぁ〜」


 もう、ほぼ半目すら厳しい眠気の中。

 わたしはとりあえず声をかけた。


 よくわからないけどゲームクリアおめでとう。


 まぶしい光の舞う世界。

 ヴォルフがやさしい顔でほほ笑んだ。


 あ……! そんな表情もできたんだね……。



「礼を言うぞ、ルーシア」


「……ぃぇぃぇ…ぃぇ」



 にへらと笑う。

 カフェインの残量はほぼ0だ。

 まぶたが重過ぎて、意識がたもてない。


 早くベッドへ向かわなきゃこのまま寝落ちしてしまいそう。

 今、何時なんじかわからないけど~。

 もう夜明けがちかいんじゃ……ないかと思う。


「うー、ヴォルフぅ、ねむい〜」


 頑張って身を起こそうとすると、いつの間にかヴォルフが目の前いた。ソファーの肘掛けに手を置いておおいかぶさるように見つめてる。


 ちかい ちかい ちかい……!


「んーっ」


 とにかく追い払おうと彷徨うように手でふりはらう。


 ガシッとつかまれた。


 ほぼ、まぶたを開けることのできない意識の中、

 顔をちかづけて何かを囁いていてる。


 へ? 何? 何を言ってるの〜?


 ちゅっ♪


 突然、はなさきにキスされた。


「ひぇっ……!」


 ぎゅううっと抱きしめられささやかれながら、あやすように背中と頭をなでられる。


 ――朝からの重なった疲労と眠気。

 ただ叫ぶことすらできず、光の中そのまま意識を手放した。




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