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第17話 真夜中の狼団② 珈琲と香辛料



 と、とりあえず立ちくらみしないように……。

 ゆっくり温泉からでないと……。


 温泉からでてすぐさま着替えた。


「えーと、えーと……?」



 突然の展開に、理解が全く追いつかない。

 

 深夜に来訪? いきなり温泉……。



 ――遠くから何かが聞こえる。

 なんだか食堂がさわがしい。



「っ……!?」


 深夜に再びともされた明かり。

 食堂は黒装束の方々で満席御礼まんせきおんれいだった。


 そして皆、談笑しながらカレーを食べている。

 キッチンに目を向けると生地が宙を舞い、ナンを焼く人、カレーを配膳する人々でにぎわっていた。


「なっ……! なっ……!?」


 食堂入り口で驚きのあまり立ちすくむ。



「ルーシア」


「ひぃっ!?」



 突然、背後からかけられた声。



「ヴォルフガングさん!」


 ふり返り、おもわず喰ってかからんばかりに悲鳴のように叫んだ。


 び、びっくりしたぁぁ。心臓が飛びだしそうだったよ。

 足音全くさせずに近付かないでぇぇ。



 わたしの叫びに動じず腕を組んでジッと見下ろしてる。

 え? なんでとても不服そうな目をむけているのかな?



「前に言ったはずだぞ? 名は敬称略で呼べ。二度言わせるな」


「…………。」



「それで? ルーシアどうしたのだ?」


「ヴォ、ヴォルフ……この方々……ヴォルフの部下の方たち!?」


「うん? 前に会ったじゃないか」


「えっ!? だ、誰!?」


 バッとふり返る。


 全員が黒装束で誰が誰かわからない!

 

 黒装束の方たちがわたしたち2人に気づく。

 会釈えしゃくしたり手をふったり、カレー皿にかかげて礼をとったりしてる。皆さま方がそれぞれ嬉しそう。どうやらカレーは大好評のようだ。



「お前はこっちだぞ」


「ひゃっ」


 ガシッ

 ずるずるずるずる〜っ


 腹に腕を巻かれ、抵抗むなしくズルズルと2階へ引きずられた。





 ギィィィィィイ。


 ゆっくりとヴォルフの宿泊部屋の扉が開かれる。



 ――そこは見たことのない景色だった。


「……っ!」


 壁や床が重厚そうな木材になり、豪華な絨毯じゅうたんが敷かれている。


 バチっバチバッバチッ


 燃えさかるすごそうな煉瓦れんが暖炉だんろ、天蓋付きの巨大なベッド、高級そうなソファー、テーブル、絵画にランプ、……どれも見たことがない。



「あれ? こんな部屋だったっけ?」


「結構前からこうだぞ?」



 いや、いやいやいや……何かがおかしい。



「あー! 何か部屋広いなと思ったら二部屋の壁ぶち抜かれてる!」


 2つの部屋が、今一つに!



「二部屋ちゃんと借りているだろう?」


「えっ?」


「……お前は何を言ってるんだ?」



 ヴォルフが不満そうな顔を向けた。


 あれ? まったく会話が通じない。



「まったく、いちいち細かいことを気にしずぎだ。さぁ、こっちへ来い」


 ぽすんっ


 暖炉側のソファーに、座らされる。



「気分はどうだ、大丈夫か? 体はのぼせてたり冷えてはないか? とりあえず、なにか飲みものをいれてくる。しばし待て」


 頰に確かめるようにふれた後、体に軽く毛布を巻きつけられる。

 ヴォルフはすぐさまキッチンのある下の階に降りていった。


「……くっ」

 

 ワケがわからない強引なヴォルフガングの……時折みせるやさしさはホントにズルい。横暴おうぼうさを許してしまいたくなる。顔が熱くなるのはきっと暖炉の炎のせいだ。


 一度戻ってきて水を飲ませたり、大きめのクッションを腰にあてたり気遣われた。




「待たせたな」


 さしだされた湯気がたち上るカップをそっと受け取る。



「あ、ありがとう」


「熱いぞ、気をつけろ」


 こくりとうなずく。

 

 あつあつの珈琲コーヒーカップにふうふうと息をかける。

 ちびちびと飲むと、少しの苦味とふんわりとした甘さで満たされた。


「はわぁ〜……」


 うっとりとため息がもれる。


 なにこれ……すごくおいしい……。

珈琲にスパイスがきいてて、それでいてミルクがやさしい。


 これは、あれですね?

 あの特別な蜂蜜はちみつもいれちゃいましたね?



「む?」


 ヴォルフがコーヒーを飲んで片眉を上げた。

 一口ずつ飲みながら味を確かめている。



「どうしたの?」


「いや、コーヒーを淹れたのだがいつもと何か違うな……」


「あっ! そういえば……入れる香辛料、これドウゾさんからもらった特別なものに変えちゃったんだけど? あわない感じ?」



 『竜のあくび亭』へと食材を卸している商人のドウゾさん。

 先日、いつものお礼にといただいた香辛料。

 珈琲にもあうので是非是非ぜひぜひとうれしそうにオススメされた。



「いや、普通に美味うまいが?」


「おいしいのならよかった〜♪」


「あのたぬきジジイ……」


 ヴォルフが残りのコーヒーをあおった。



 ……おいしいのに眉間にしわをよせている。

 

 野菜がおいしくて、悔しがる騎士のテオドールさんみたいだ。



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