第16話 真夜中の狼団① ―ヴォルフガング―
「ふぁああ」
キッチンであくびをした。
ボーッと天井を見上げ、体をのばす。
「んーっ」
おそめの昼食に、中途半端な時間帯のお昼寝。
ちょっと体のリズムがとれてない。
眠いような、眠くないような?
回復薬作りで変にテンションは高いままだしー?
そして、すごーくお腹が空いている。
冷凍庫にあまっていた材料でカレーでもつくろう。
カレーはいいねぇ……。
全てを無に還すねぇ
ボーッと調理していたら、材料が多過ぎたのか
いつのまにか大量のカレーができた。
「……うわぁ〜」
自分用のつもりで作ったのに……。
いつものバイキング用シチューのノリで、いっぱい量作っちゃったよ。
はぁぁ、疲れすぎかな……?
これはしばらくカレー祭だしつつ、火をとめた。
たぶん……うん、大丈夫……。
明日はユリウスも来るって言ってたし?
いざとなれば協力をおねがいすればいい。
カレーは3日目からがおいしいって言うしー?
まぁ、わたしは初日からすでにおいしい派。
そして3日目までにはカレーがなくなる派だ!
あきらかに作りすぎですねぇ。
突っ込みもすべて無に還す。
うん、頭が働かないや。
さてさて、さっそく。
「いっただきまーす♪」
もぐもぐもぐっ
「はうぅ、野菜カレーおいしいよう〜」
カレーのうえでチーズがドロリととけてる。
魔道具冷凍庫に放り込んでいたあまりモノ。
いろいろな材料を煮込こんだ野菜カレー、相性はバツグンだ。
うん。今日は1日、よくがんばりました。
ボーッと天井を見あげた。
「…………。」
ああ、そっか。
今日はリヒトくんとテオドールさん……。
宿屋へは帰ってこないんだった。
いつも2人が席につく場所へと目をむける。
おはようからおやすみまで、挨拶、雑談、いっしょにとる食事や野外でのお出かけ。――穏やかで、楽しい日々。
リヒトくんとテオドールさん。
いつの間にかすごく大切な存在になってたんだ。
――宿屋の主人と宿泊客。
ただそれだけではない、なにか。
親しい間柄に感じるあたたかな気持ちだと気づいた。
◇
1人で夕食をおえて最低限の灯りをのこし、宿の戸締まりをした。時刻は深い夜をさしている。
今夜は1人だし、思いきって大浴場の温泉で長風呂しよう。
掛け流し温泉は渡り廊下でつながっていて、裏庭と森の真ん中にある。
「ひゃほーい! 月夜の温泉♪」
ザバァッ
わしゃわしゃと体を洗って~♪
明日のためにマッサージをねんいりにーっと。
温泉の中に入った。
「はわぁ~、いい湯だなぁ♪」
ちゃぽんっ
あたたかいお湯にホッとする。
湯の中で体の緊張をほぐしながら、んーっと体をのばす。
疲れた顔も、むにむに~っと。
さいきん、顔芸する機会が多いんだよね。
月明かりの中、精霊や妖精たちが温泉のまわりを光を放ちながら飛びかう。
「《異世界》の……なんだっけ? 『ホタル?』も、こんな感じなのかな?」
幻想的だなぁ。
なんだかすごーく癒やされる。
とにかく、今日はとても疲れたぁ……。
温かなお湯の中くつろぎながら、ゆっくりと目を閉じた。
「おい、起きろ」
「んん……? もういっぱいだよぉ〜」
たのしい大草原の牧場でミルクアイスを食べる。
可愛い牛さんたちと歌いながら、思う存分アイスをお楽しみ中だ。
「何を言っているんだ……? ルーシアしっかりしろ」
「んー? ……はっ!?」
ハッとして目をむけると、銀色の髪の青年に眉間に皺をよせにらまれている。
「風呂場で寝るな、のぼせるぞ」
「へっ!? ひゃ!? はへっ?」
温泉の中でわたわたとしながらあわてた。
「……っ」
え? 温泉にそのまま眠って……?
わたし、今、裸……?
「……っ!?」
状況を理解し、すぐさま大声を上げようとした瞬間。
バシっ
手のひらで口元をおさえられる。
「お前なぁ……」
「〜〜〜!?」
「いい加減にしろ、わめくな」
いや、いやいや! ここお風呂場だよね?
わたし、今、裸だしっ叫んでいい場面だよね!?
「とにかく上がれ」
手で口元をふさがれたまま、コクコクとうなずく。
――――宿泊客の《ヴォルフガング》が、
3ヶ月振りに宿屋に訪れたのだと理解した。




