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第13話 絵本の王子様③ 3つのケーキ


 きらきらと光る可愛いちいさなケーキ。

 桃色の薔薇ばらの花、焦げ茶色の葉、黒い星が散りばめられたケーキたち。



「で、では、こちらから……」


 レオンハルト様が、ほほ笑みながらうなずいた。


 わたしは桃色の花がのるケーキを選んだ。

 チョコレートでできた薔薇の花。色からしてかわいい。


 うううっすごく綺麗だし可愛いいし。

 食べるのもったいないよ〜っ

 でも、かなりおいしいよねこれ、絶対!


「……。」

 

 この金色の粒子の光ってなにか効果とかつくのかな?

 特殊効果アビリティってやつだっけ……? 


 魔力があがったりとか、魅力があがったりとか。

 なにか能力が向上しそう。

 

 ホントに値段いくらくらいなんだろう〜? 

 ……きけない感じなケーキだよねぇ。


 頭でいろんなことがぐるぐるかけまわる。

 

 あああっそうだったとにかくいただかないと。

 こんな素敵なケーキを持参してくれたわけだし。


 覚悟を決めてふるえる手で木製のフォークでケーキを半分にしてのせる。


「……い、いただきまーす」


 レオンハルト様と職人さんの方々に感謝!

 えいっとおくちにはこんだ。


 ぱくんっ


 ぐわっと目を見開いて時がとまる。


 ぱあああぁぁぁぁっ


 ああっなにこれぇ?

 桃色の薔薇の花びらが、口の中でほどけて甘さとともにひろがる……。ゆっくり溶けていくほどにわたし自身がまるで花の一部になったかのよう。きらめいて花びらが舞う。


 あああっ、ここは素敵な薔薇の庭園……。


「美味か?」


 ぶるぶると体がゆれた。


「……それほどまでに?」



 ゆっくりと飲み込む。

 ほうっとため息をついた。


 クツクツと耳元で笑う声。


「……?」


 いつのまにかソファーの隣にレオンハルト様がいる。


 スッとフォークをやさしく取りあげられた。

 薔薇色のケーキ残り半分をそっと口元にさしだされる。


 ああ、ケーキだ。


 ……おずおずと口を開くとまた再び、花びらの舞う幸せ空間がひろがった。

 嗚呼ああぁぁっ美味しい美味しいよーっ!


「あぅ……」


 うっとりと宙を見つめボーッとした表情になる。

 王子様がとなりでわたしを見ている。

 

 なんだっけ? ああ、そうだ。

 これ、とてもおいしい。


「……レオンハルト様も……食べて?」


 この感動を今すぐに味わってほしい。

 ともに喜びをわかちあうのだー。


 ん?


 顔をむけると、

 まっすぐなまなざしでレオンハルト様が見つめている。


「君が食べさせてくれるか?」


「……!」


 驚いて瞳がゆれた。

 その表情に、思わず言いかけた否定する言葉をのみ込む。


「……。」


「……。」


 たがいにみつめあいながら、

 わたしはレオンハルト様の変わらないあおい瞳の奥をのぞきこむ。


 ――――出会った幼い頃。

 レオンハルト様はほとんど食事をとらなかった。

 わたしがムリやりスプーンで食事を口にはこんでいた。


 もしかして、レオンハルト様は……。

 またたべるコトがむずかしくなっているのかな……?


「……ルーシア?」


 黒い星が散りばめられた真っ黒なケーキ。

 そっとフォークにのせてレオンハルト様のくちへとはこぶ。


 グッと右手を掴まれ、口を開けてフォークに噛みつくように食べた。

 碧い瞳が深くみつめてわたしを捉えて離さない。


 光が舞う中、時がとまったように感じた。


「……美味いな」


「うん……」


 強い視線を感じながら、まっかになってうつむく。

 そんなまっすぐにみつめないでほしい。なんだかはずかしい。


「私が先にたべて良かった」


「え?」


「このケーキかなり酒が強い」


 指で唇にふれながら確かめるようにペロリとなめた。

 残りのもう1個のケーキに目をむける。


「じゃあ、あれは?」


「キツめのビターかもな」


「甘いのと、酔っ払うのと、苦いの?」


「そうだな」


 スッと再び木製フォークを取り上げられた。 

 酒も苦いのも、残りのケーキがすべて食べられた。


「あああー! まだ食べてないのに」


 な、なんてことをぉぉっ!


 とつじょ、目の前で行われた非道な行為に頭を抱える。

 まさしく外道。こんなことってあるー!?


「君は甘いのだけでいいよ」


 レオンハルト様がクスクス笑ってる。


「苦いのだって大丈夫だよ〜!」


「あははっ」


 ガバッ


 悔しさのあまり思わず胸に飛び込んだ。

 ソファーに倒れ込んで胸元を軽く叩いて涙目で抗議する。


「全部食べて良いって言った! 言ったのに……ひどいよ〜!」


「はははっ泣くなルーシア、すまぬな?」


 繰りだされる連打を受けとめながら、レオンハルト様が笑い、抱きとめる。

 わたしは胸元で、うーうーうなるしかない。


 ――――あっ! もしかして……?


 予想以上においしかった、とかなのかな?

 いつもだったらゆずってくれるし……。

 こんなにもおいしいし、ぜんぶたべちゃうのも仕方ないよね?


「……。」


 でも、食べることが苦手な、あのレオンハルト様が。

 

 私からケーキを取りあげて召し上がるなんてっ……!

 ――――信じられない。

 すごく、すごーくうれしいなぁ~♪


 ぐるぐる思考しながらうれしさのあまりニヤニヤした。

 

 ん?


 ふと気づくと、ソファーで抱きあったまま。

 やさしく髪の毛をいじられたり頰や頭をなでられてる。


「気が抜けたか?」


「あっ……」


 とっさに顔を上げて口元に手をあてる。

 うわぁっケーキを奪われた悔しさと切なさで完全に油断してた。

 いろいろ吹っ飛んでたよー。



 子どもの頃のように押し倒して

 ぽかぽかたたいてしまったし、これはいろいろとマズイのでは……?



「ご、ごごめんなさい、レオンハルト様~!」


 あわてて体を離そうとすると、背に手がまわされて身動きが取れない。


「……えっと……?」


 指先がゆっくりと首すじにふれる。

 金色の髪からのぞくあおい瞳。

 思わずドキッとした。


 ん? 何だか不穏な感じがするよ?

 あれー? 光や花びらたちは、一体どこへ……?


「……いい加減、昔のように名を呼んでくれないか?」


「えっ……? レオンハルトさ…ま?」


「……。」


 人形のように恐ろしいくらいに、うつくしく整った顔。

 仄暗い瞳でジッと見つめられた。

 ガバッと強引に引き寄せ、抱きしめられる。



「ひっ」


 ちゅっ♪


 首筋にキスをされ、甘くみつかれた。


「うわぁぁぁぁっ」


「……ルーシア」


 首筋で名を呼ばれる。


 わぁぁっ

 ……お、お願いだから、そんなところで喋らないでぇぇ。


「うー、わかったよ……レオぉん」


 レオンと呼ばれた王子様は満足そうにうなずいた。


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