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第12話 絵本の王子様② 歌鳥の花茶



 キッチンで手を洗って湯をわかしながら、お茶の準備をする。

 そのあいだにささっと花束を花瓶に移し替えた。


 薔薇ばらの花に笑みがともる。

 すごく綺麗な色〜そして良い香り〜♪んー素敵だなぁ。


 レオンハルト様は食堂入り口で、執事さんらしき御年配のお方と何やら話しながらやり取りしている。時間調整? ……すぐ帰るって言ってたものね……大丈夫なのかな?


 とりあえずこの高級感あふれる箱を開けよーっと。


 ガサゴソッ シュルルッ ぱかっ


 パァァァァァァァッ


「わぁぁっ!?」


 えっとぉ?

 箱の中から光があふれ出しているんですけど。

 なにこれ? どうなっているの?


 キラキラキラキラ〜♪


「……っ!?」


 って、えええっケーキがきらめいてる?

 

 キラキラ王子様って持参する生菓子まで光るんだ。

 な、なるほど〜。


「……。」


 それにしてもこのレアリティ高そうなケーキ。

 これってホントに食べて良いやつ?

 すごく綺麗だしもったいないな。見とれちゃう。


 っと、いけない。お茶の用意をしないと。


「ふぅ〜む?」


 さて、せっかく訪れたレオンハルト様にお口に合う茶葉……?

 なにをお出しすればいいのか?

 ケーキを取り分けつつ茶葉の選別作業にとりかかった。



 ◇



 ――観葉植物が生い茂る食堂の奥エリア。

 ソファー席で窓も大きく、庭の木漏れ日がさしこむ心地良い場所だ。



「お待たせいたしました」


 透明なティーポットに花茶を用意した。

 テーブルに3種類のケーキをならべる。カップは3つだ。


 レオンハルト様が持参したケーキは3個。

 1つはおじいちゃんのぶん、だよね?


 カップに気がついたレオンハルト様がほほ笑んだ。

 そのままウィンクして目を伏せる。そんなやさしさがとてもうれしい。



「ほう、これは面白いな」


 透明なティーポットの中にゆっくりと湯をそそぐ。

 赤や黄色の茶葉がまるで花のようにどんどん花開いていく。



「わぁぁっキレイですね♪」


 湯の中で花茶が、きらめいてとっても綺麗〜♪。

 まるでクリスタルに封じ込められた色とりどりの宝石みたーい。


「これドウゾさんからいただいた品です。『歌鳥の花茶』という名で、いろいろな花茶を色や味で数種類組み合わせた特殊な茶葉みたいです」


 製法は《食材研究友の会》のエルフさんの方々が『植物の精霊ドライアート』の協力を得て、『ハーピィ』といううつくしい鳥のモンスターの歌声をきかせて育った花々らしい。


 ゆっくりと淡い光を放ちながら開花するその花茶。

 ホントに幻想的で綺麗だ。



「茶をたしなむ、いただくまでの過程がとても素敵ですね。南の国でも人気と聞きました」


「フフッ、あの商会は手広くやっているようだな」



 レオンハルト様は肘掛けに身を傾け足を組む。

 頰杖ほおづえをつきながら感嘆した声をあげた。


 花が開いて淡い光がきらめきたちのぼる。


 2人で花開く様子をながめていると、

 いつの間にかレオンハルト様にジッと見つめられていた。


 わぁぁっびっくりした。

 え、なに何かな?

 あわてて目線をそらす。



「いただくのがもったいないくらい綺麗ですね」


「ああ」


 キラキラキラキラ♪


「このケーキもすごく可愛くて」


「ああ」


 キラキラキラキラ♪


「……。」



 わああああぁぁっ!


 どうしてジッとみつめているのかな?

 すごく恥ずかしいし、さすがに真っ赤になるよー。

 そんなに見られるととても困るんですが。自覚ありますかね、このお方。


「……っ!?」


 うわぁ〜目があうたびとろける様なほほ笑みを向けてくるよ。つ、つよい。

 光が放たれて花びらが舞う演出もすごすぎる。



「……ふふっ」



 わ、笑ったぁ。ええ、ええ理解してますね!? このお方。

 目をそらすたびに楽しそうに笑ってる。なんなんですか?

 とてもこまるよー。



 ◇



 花茶とお菓子をいただく前に。


 2人で目を閉じて手を合わせて祈りをささげる。

 甘味が大好きだったおじいちゃん。素敵な花茶も用意できて良かった。空の彼方かなたで楽しんでくれるとうれしいなぁ。


 『歌鳥の花茶』のあわい光がまるでおじいちゃんへと一緒に祈り歌っているようで、私は思わず祈るように歌っていた。


 光が集い精霊たちがとびかう中で

 レオンハルト様はただ目を細めてほほ笑んだ。



 ◆



 とりあえず先に花が開ききった花茶を冷める前にいただいた。


「ん、これは……?」


「はわぁぁ〜、すてきな味だねぇ……」


 カップをかたむけてレオンハルト様が驚く。

 わたしは花茶のあまりのおいしさに、ほこほこになりながら笑顔になる。


 ああ、これはまるで……青空の中、歌鳥たちの美しいメロディとともに、ゆっくりと花びらが舞い花の香りで満たされるよう。


 やさしい味わいで、口当たりもまろやか。

 数種類の花茶のせいか、すっきりとした味なのに複雑でとても……おいしい。


 

「はぁ〜体の内側から綺麗になりそうな花茶だねぇ……」


 何だか心と身体が軽くなる感じ、不思議だなぁ。素敵だなぁ。


 レオンハルト様もとても満足そう。ほほ笑んでうなずいてる。



「これはこれで美味すぎて、ケーキとはあまりの合わぬかもしれぬ……。ふむ、今度また別の菓子を見繕ってこよう」


「ホント〜やったー♪ ありがとう~」


「ふふふっ」


 キラキラ王子様が口に手をあて声をだして笑ってる。

 花茶のおいしさにいっしょに笑った。



 ◇



 おだやかな時間。ふたりで花茶を楽しんだ。


「……では、そろそろ……」


 チラリとケーキに目をむける。


 可愛いちいさなケーキたち。

 桃色の薔薇の花、焦げ茶色の葉、黒い星が散りばめられたケーキたち。


 どれも、すごく美味しそう。

 祈りを捧げ、花茶も楽しんだ。

 もうのこることは一つではないか?



「あの、どれになさいますか?」


 金色の光粒子を小さく放つケーキたち。レアリティがすこぶる高そう。


 さすがは貴族さまの生菓子。ケーキですら光るんだね〜!

 

 どうなっているのかな? 魔法でも練り込んでいるのかな? はたまた素材から輝いているとか!? 完成後に魔法をかけているとか?

 よくわからないけどすごいな〜♪


「…………。」


 それにしても……いったいお値段いくらくらいなんだろう?

 

 ――友人たちが話していた王族さまや貴族さまのお菓子。

 給金1ヶ月分もするんだよ〜っとか……?

 モノによってはもっとヤバいよ〜っとか言っていたけど、冗談だよね? 

 

 この金色の粒子がやたらと光っているのと、ちょっとこの虹色の粉らしきものも確かに気になるけど……。あははっ……。



 それぞれのケーキを別の意味でゴクリとながめていたら、

 レオンハルト様が楽しそうにクスクスと笑った。



「全部、ルーシアが食べて良いぞ」


「えっ!?」



 突然の甘い誘惑に目を丸くした。

 

 いいの? ホントに?

 って、……いやいやいや、それはちょっとぉ……?

 さすがに……ご遠慮願いたいですよー?



「私はコレを食べている君が見たいんだ」


「ええっ!!」


 私を見てくすりと笑う絵本の王子様。


「……っ!?」


 で、でた〜!! レオンハルト様はいつもこうだ。

 食べる姿が見たいからと、幼い頃から一緒にいれば餌付けのごとく食べさせられた。


「……えっ……あ? ……?」


 幼い頃の思いでとはいえ、だんだんと恥ずかしくなってきた。

 さすがに真っ赤になるー。



「ん? どうしたルーシア?」



 光を放ち花びらを舞わせながら首をかしげた。


 ん? どうしたじゃないですよ、どうしたじゃ。たっ確かにまたもや朝に食べすぎて、お昼は軽めにしたけれど。余裕で入りますけどぉー。何でこんなキラキラしい人の目の前でケーキ3個もたべないとなのー!?

 んんん、どう考えてもおかしいよっ



「ままま、待って下さいっふつうに半分ずつです!」



 ですです。それでいきましょうよ。3個だから1個余りますけども〜? それはもちろんレオンハルト様にお譲りしますけど……。遠慮するならおじいちゃんの分までわたしがふつうに召し上がりますけど? その際には、ぜひともこのわたくし、ルーシアにお任せくださいませ。



「ふむ、半分ずつか……」


 レオンハルト様がすこし考えてる。

 3個目のケーキは誰が手にするのかー!?



「ならば、ルーシアが先に召し上がれ」


「えっ!?」


「3つ全部味わいたいのであろう?」


「えええっ!?」



 な、何を言ってるんですか、このお方!

 じゃあ、全部半分こ♡って意味だよね?


 たたた確かに全種類味わえるけど、ものすごく良い提案だけど、半分の意味がぜんぜんちがうよ〜っ



「どうした、私とルーシアの仲だろう?」


「いっ……!?」


「いまさら何を恥ずかしがってるんだ?」



 ほほ笑みながら不思議そうに笑ってる。



 ――あっ……そうだった。

 小さい頃は別々のお菓子。それぞれの味が気になった。

 そんなわたしに、レオンハルト様がこうやって協力してくれてたっけ。



『お菓子の味が気になるの? なら、半分こしよーよ?』


『わーい♪もぐもぐもぐ〜♪』



 まぁ、残り半分も全部食べちゃって……。

 そんなわたしをレオンハルト様はうれしそうに笑って許してくれて、

 おじいちゃんも大声で笑っていたなぁ。


 でも、半分子それは大人になった今!

 

 恥ずかしすぎるんです……。

 あと、喰いつくしたのもホント黒歴史なんですよ……。

 うううっわかってください。



「いや、あの……えっと……」


「なんだ? ルーシア」



 やさしい声でわたしに問いかける。

 キラキラしている王子様は、光と花びらで満ちていた。



 ◇



「さあ、どうぞ召し上がれ?」


「……っ」


 木製フォークを手渡される。

 わたしは降参した。

 

 ――この絵本の王子様から逃げられない。


 レオンハルト様はこうと決めたら意見を変えないので、ていこうする時間がもったいない。子どもの頃に何度もひどい目にあった。


 うううっ

 お待たせてしている執事さんや馬車の従者の方々も気になるし。

 わたしは戦略的敗北を選んだ。



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