第11話 絵本の王子様① ―レオンハルト―
――――ある日の昼下がり。
午前中に干してあった洗濯物をとりこむ。
テラスに並ぶシーツ類。
ふんわりと風をうけてやさしくはためいている。
ひゅうぅぅ〜 ぱたぱたぱた
風にゆられて。
青い空を見上げればかなり遠くだけど灰色雲がある。
「2人が帰宅するまでには雨が降らないといいなー」
夜はすこし冷えるかな?
なにかあったかい飲みモノとか。
それに一応軽食もいくつか用意して。
うーん。今は定番メニューだけだけど。
料理のレパートリーも、もうすこしふやしたい。
リーン♪
ボーッと考えていると、遠くから宿屋の呼び鈴が鳴った。
どこにいても聞こえる不思議な音色だ。
あれ? こんな時間に誰だろう?
昼過ぎに来客なんてめずらしい。
トンッ トンッ トンッ
カラン♪
食堂にたどり着くとちょうど扉のノックと鐘が鳴った。
ギィィィィィイ。
ゆっくりと光を放ちながら扉がひらく。
「……っ!?」
金色の髪、碧い瞳、人形のように顔の整った青年。
絵本の王子様がそのまま飛びだしたかのような方が来客した。
「ひさしいな……ルーシア」
うわぁぁぁぁっ
おもわずのけぞった。
王子様のような青年が、とろける様な笑顔でほほ笑む。
あふれる光、ありもしない薔薇の花々が――。
王子様の笑顔とともにゆっくりと開花して咲き乱れた。
「……っ!?」
変な汗がダラダラでる。
予想していなかった来客にまだ頭が追いついていない。
不慣れだけどあわててスカートを手に一礼する。
「こ、こここんにちは、レオンハルト様」
「突然の来訪すまない……かわりないか?」
少し首をかたむけてほほ笑む王子様。
キラキラキラキラ〜♪
うわっまぶしいっ!
キラキラがすごい……な、なにこれっ……。
光があふれて舞う花びら。
ハッ! もしかして、この演出って?
前に小説で読んだ《異世界人》のつたえる、
《異世界》で神武器とか神アイテムが宝箱から確定!
とかのすごい神演出ってやつー!?
光かがやいて、これは魔法かなにかなの?
「はい、おかげさまで〜」
幻想的な薔薇の花びらが舞う光の中。
緊張して、ギギギ……っと、ぎこちない笑顔をむける。
若干すでに引き気味だ。いや、もうだいぶ引いている。
そんなわたしの返事をきいて、王子様がうれしそうに目元をゆるませながらさらにほほ笑んだ。
「……。」
わたしのおじいちゃんとレオンハルトの叔父様。
かなり仲が良く交流があった。
小さい頃はよく遊びに来たりホームステイ。
夏の間はおじいちゃんと彼と私。3人で一緒に過ごした。
わたしは、彼が……レオンハルトが何者かは知らない。
たぶん身なりからして。
それなりの大貴族? だと思うんだけど……。
――おじいちゃんの旅立ちの時。
たくさんの部下の方々を連れて。
はじめて身分が高い方だとわかったくらいだ。
その時に、彼はレオンハルト様って呼ばれてた。
わたしも以来それにならって、そう呼んでる。
しらなくて申し訳なかったけど、身分がすごく違うんだろうな。
わたしにはきっと気をつかってくれているか。
素性は探られたくない明かしたくないのだと思う。
「レオンハルト様もお元気でしたか?」
「ああ、変わりないな」
絵本の王子様がやさしい目をむけた。
おたがいにニッコリほほ笑みあう。
こっちは変な汗がとまらないよ。
しばらく会っていなかったけれど……。
こうしてこの『竜のあくび亭』に来てくれた。
たぶんいろいろと心配しているからかな?
「君にこれを、受けとってほしい」
キラキラ王子様が光の中さしだした。
「わぁぁ、ありがとうございます♪」
花束とケーキの包みらしき箱を受け取る。
箱がすでに高級感ですごい。上品すぎるよ〜。
いやしかし、アフタヌーンに茶菓子持参とは。
ふふふ、やりますね。レオンハルト様素敵すぎるー。
「さっそく、お茶を淹れてきますね」
ケーキだケーキだ♪
ほくほく笑顔でこたえると引きとめられた。
「いや、すぐにお暇するよ」
「え? そう……なんですか?」
おいそがしい中、花とお菓子を届けるために訪問?
……きっとそうだよね。
でもまぁ、キラキラしいのはすこし苦手だし?
いまだに慣れないから気が休まらないお茶会になりそう。
なので、すこしホッとした。……のは、許して欲しい……。
うーっごめんよー。ホントにごめんよ〜。
昔とちがって、なんだろー?
レオンハルトのそばにいるととても緊張するんだよーっ
キラキラしてるしなんだかおちつかない。
あっ茶菓子はありがたく受け取ります!
午後の甘味補給、まことに感謝です♪
このお礼はいずれまた……!
では、次回よろしくおねがいしまーす♪
「ご一緒できずに……残念です。では、次の機会に、ですね。こちらの品々もご丁寧にありがとうございました」
ケーキのうれしさを胸に秘めながらほほ笑んだ。
キラキラの王子様もすこし困ったようにほほ笑みかえす。
「ああ、すまないな。気持ちだけで充分……だ……?」
……ん?
そこまで言いかけて眉をひそめた。
「……もしかして今は一人か?」
ん? んんん?
あたりを見回しながら問われる。
「はい、この時間はだいたい1人ですけど……? いかがなさいましたか?」
笑顔を維持したまま、すこしとまどいながら返す。
あれー? なにか方向性がかわった? むむむ?
「やはり、茶をもらおうか」
突然の申しでに、わたしはかたまった。
「あ、はい……」
王子様は前言撤回された。