第103話 星満ち足りて 青蝶の葡萄酒
カラン♪
ギィィィィィィィイ
「「「!?」」」
「ルーシアが倒れたと、無事か」
――『竜のあくび亭』の夕食会。
いきなりあらわれた魔術師オズワルドさん。
皆さま方がいっせいに目をむけた。
「オ、オズワルドさんっどうしてここへ?」
「……知らせをうけたので訪れたのだが」
事態を把握しようとかなり警戒している。
「すみません、わざわざ来ていただいて。
あの、ルーシアさん僕が後見人に手紙をおくりました。
連絡した方が良いと思って」
聖職者リヒトくんがペコリとした。
ああっ
ゲームとはいえとつぜんトラブル。
先に知らせを届けてくれたんだ。
「すまないっ! つい気がはやり私からも」
「古代ゲームの主催者としてまっさきに文を綴った」
「ごめん……俺も一応は大事ないと連絡を」
「まぁ、業務連絡のいっかんだな」
自称騎士レオンハルト、商人ヴォルフガング
冒険者ユリウス、騎士テオドールがたたみかけて発言した。
それぞれが申し訳なさそうにペコリとしてる。
「ええっでは、皆さま方も文を送ってくださったと?」
ギロリッ
ひぃぃっ
魔術師オズワルドさんが全員にむけて
なんとも言い難い、絶望感な仄暗い瞳で見下ろしてる。
「……ああ、すべて受け取らせてもらった」
ああっこれは……確実に。
いっぱいとんできた魔法伝書鳥におそわれたのかもしれない。
うわぁっ
お忙しい中ホントにすみませんっ!
「皆さま方、ご連絡ありがとうございます。
それにオズワルドさんもご足労いただきお手間をおかけしました」
テーブル席へとむかって、それぞれにペコペコする。
宿屋の主人としてとてもありがたいです。
そんな様子をみて、
オズワルドさんが眉間にシワを寄せながら深く息をついた。
「……すぐに連絡をしてくれたことは感謝しよう」
このかなりの心配したご様子。
手紙の内容もおおきく受けとってしまったのかもしれない。
「あの、ちょうど俺たち食事中でしてオズワルドさんもご一緒にいかがでしょうか? よかったらお席へどうぞ」
冒険者ユリウスがすぐさま席へと案内した。
◇
――食卓をかこむ宿泊客たち。
ゴトリと立て掛けた長杖をおいて、そこへ魔術師が追加された。
わいわいっ わいわいっ
「ささっ後見人殿ッ私の商会で取り扱う予定の『青蝶の葡萄酒』です」
きゅぽっ トクトクトク〜ッ
商人ヴォルフガングが先ほど宿屋へと届いた
葡萄酒をグラスへとそそいでいる。
キラキラキラキラ〜♪
わわっ
酒瓶から葡萄酒がこぼれ落ちるたびに
ひらひらと蝶々のような光が舞っている。
「これは《食材研究友の会》の協力による特別な葡萄酒です。
お詫びの品といってはなんですが、どうぞご賞味いただければと」
おそろしい冷気をただよわせていた魔術師が、熟成した香りにふれた。
そのとたんようやく落ちついた。
「さぁっ皆も充分に楽しんでくれ」
「おおっありがたく堪能させてもらうぜっ」
「すごい葡萄酒だね。料理とかにもすごくあいそうー」
「眺めているだけでも素敵ですね」
「かなりオススメだ。その美味さに、とぶぞ?」
ええっ それほどまでに?
あまりお酒は飲めないけど……。
ちろりと味見しようと木杯に口づける。
「いっただきまーす♪ んんっ!?」
深い味わいの葡萄酒が口の中におちた。
ボロボロと実った宝石をうけとめる。
花びらのような蝶々の色が頭に舞いひろがっていく。
ああっここは蝶々の舞う葡萄の花畑……。
「うおっなんだこりゃ! ヤバいくらいに美味いぞ!!」
「ふむふむ~この味は……魔力をふくむかなり高レアリティ食材だね」
「なるほど、またもや同等の価値のモノか……」
それどれが極上の酒に歓喜の声をあげた。
聖職者リヒトくんは未成年なので目で楽しんでいる。
「フフッあの狸ジジイに頭をさげたかいがあったものだ」
商人ヴォルフガングが不敵に笑った。
◆
「……古代のゲーム、危険なモノとは」
おちついた魔術師がさっそく本題へとはいる。
「いえ、それについては数百頁にもわたる研究結果の論文をお渡ししたはずです。ふつうにゲームをおこなえば、けっしてあぶないモノではないと」
うわぁっいっぱい提出したんだ。
数百頁のくだりあたりでオズワルドさんが眉間をしかめる。
たぶんちゃんと全部目を通したのかもしれない。
それにしても多いなー。
「今回は彼女がゲームをおおきくひっくり返してしまった。その結果、眠りの状態になってしまった。
――彼女は古代のゲームにおいては「不規則」「異例」「例外」「特別」「予想外」ですから」
オズワルドさんが冷静にうなずきながら話をきいている。
なにか言われたい放題な気がするのですが……。
「あのー、とりあえず古代の祝福とかわからない言葉とかでてきたので
くわしく説明してもらえますか?」
ゲームが大好きな方たちの専門用語はよくわからないので。
おしえてもらえると助かるなぁ。
「なにを言ってるんだ?ルーシア」
「えっ?」
「……まさかっ今まで知らなかったのか?」
ヴォルフが目を見開いて驚きつつも問われた。
「えっと、はい。よくわからなくて」
「「「!?」」」
あははっと笑ってごまかそうとしたら
皆さま方がとてもびっくりしてる。
なにこれ、どういうことかな?
「『古代の遊戯』の《祝福》とは、ゲームに一定の魔力をつかうという話です」
「そ、そうだったんだ」
バサリッ
説明するリヒトくん。ヴォルフガングが懐から紙束をだした。
「くわしくは皆に配ったこの小冊子に書いてあるのだが
……君は熟知していると勝手に誤解して手渡すのを失念していた」
おおっ一応、取扱説明書があったんだね。
手に取ってぱらりと読んでみる。
なるほど! 『はじめての古代ゲーム入門』とかかれてる。
どうやら初心者にもわかりやすそうなタイトルの本だ。
「正直驚いたぞ……勇者からも説明がなかったとは、
とはいえ、こちらの不手際だ。ルーシアすまなかった」
ヴォルフがあせりながら深々と謝罪した。
どうやら想定外のコトだったらしい。
「ううん。ごめんねっわたしが忘れているだけかも?」
もしかしたら遊びながら教えてたかもしれない。
いつもおじいちゃんの話半分で眠っちゃっていたし。
「たがいに認識の違いが生じていたということか?」
「後見人殿、どうやらそのようだ」
「はい、みたいです?」
おたがいの思いちがいで大変な目にあってしまった。
つきあいが長いせいもあって確認する機会もなかったし。
魔術師が思案をめぐらせるかのように目を閉じる。
やがて、すこしだけ吐息をついた。
「――やはり古代のゲーム、危険なモノでは」
「ならば、後見人殿も一度遊んでみてはいかがでしょう」
「……。」
「……。」
言葉をさえぎるかのように商人が提案する。
あれ?
これって古代の遊戯に場に引きずり込もうとしてるのでは。
「……考慮しておこう」
「ええっ」
オズワルドさんが目を伏せうなずいた。




