第102話 星満ち足りて 夕食会②
「では、とりあえず乾杯ですね?」
「「「かんぱーい♪」」」
トンットトンッ
木でできた杯でたがいにうち鳴らす。
いっせいにぐびぐびとあおった。
「ぷはぁ〜っ休日の果実水はひと味ちがうぜーっ」
「そのとおりだな」
「まぁ、半分しごと中みたいな感じッスけど」
ジトッとした目でぼやく騎士テオドールさん。
自称騎士レオンハルトがくすりと笑った。
目上の方がいるのでいろいろと全力にはいかないようだ。
「ふふっひさしぶりですね。みなさんとの食事会」
「あははっ♪前回のゲーム集会ぶりだよね〜?」
「ほほう? そうなのか」
聖職者リヒトがほほ笑んで、2杯目をそそぎながら冒険者ユリウスがうなずく。
商人ヴォルフガングが相づちをうっている。
あああっ生き返る、とってもおいしいなぁー♪
こくこくと果実水をのんでひと息ついた。
『竜のあくび亭』
それぞれが食堂でテーブルをかこんでいる。
高位司祭服に身にまとう『聖職者』
ド派手な貴族衣装の屈強な『騎士』
絶対君主制みたいな絵本の『王子様』
迷宮や怪物を狩りつくしそうな『冒険者』
富や権力ですべてを解決しそうな『商人』
――――そして三角巾にエプロン姿の『村娘』だ。
「…………。」
あれ? ものすごく場違い感があるのですが……。
この食事会に参加しても大丈夫なのかな。
今からでもせめて着替えたいけど、
ちゃんとしたドレスはもってないし……魔女の衣装とか?
うーん、なにかちがう気がする。
「ルーシア、なにか悩み事か?」
いかにも商人にみえるヴォルフガングが
果実水をあおりながら目をむける。
「ちょっといろいろとかんがえてて」
「やはり、気にいらないのか?」
商人ヴォルフガングの言葉に皆さま方がシンッとする。
うわぁっなになに?
それぞれが手をとめて様子をうかがってる。
よくわからないけど、礼装を気にしてるみたいだ。
「あははっそういうわけでは」
「……ルーシア、俺たちの格好みてから遠慮してるし」
「ああ、いつもと様子がちがうな」
「すみません僕もすこし気になってしまって」
いや、いやいやいや。
気にするコトありますか?
むしろこちらがこの格好で気にしてるのに。
じゅうぶんすぎるよーっ
「あのっ、ふだんとはちがった見慣れない装いに、すこしとまどってしまいまして……どのお姿も凛々しくとても素敵ですね♪」
キラキラキラキラキラ〜♪
皆さま方の服装を笑顔でほめてみた。
なにか強そうで、若干……いや、かなり引いてしまうけど。
とても良いお召し物であるのはたしかなわけで。
「神々よ、僕はよりいっそう精進します」
聖職者リヒトくんが祈りを捧げた。
「ナイスだせっルーシア嬢♪」
騎士テオドールがパチンッと指をならして笑った。
「どんな苦難ものりこえられそうだ」
王子レオンハルトが胸に手をあて呟く。
「うれしいなー♪俺、がんばれそう」
冒険者ユリウスがわくわくしてやる気をだてる。
「フンッ……よりいっそう仕事に力が入るというものだな」
商人ヴォルフガングが片手をふって不敵に笑う。
わいわいっ わいわいっ
楽しそうにそれぞれが笑顔になってる。
よかったー。
よくわからないけど解決した?みたいだ。
「ルーシアのお気に入りの服も良いよね〜♪」
「ありがとうユリウスー♪」
冒険者ユリウスが笑ってほめてくれた。
「まぁ、多少は華やかな方が良いわな」
「……どちらでもかまわないが、一理ある」
騎士テオドールさんと王子レオンハルトがうなずいてる。
「いっそのことドレスの1つでも贈ってやりたいが……」
「えっヴォルフ?」
とつぜん話がふられてびっくりする。
身なりがアレだからっていきなり話がとんでる。
「それは『竜のあくび亭』の規約違反、即退去、永久追放になります」
聖職者リヒトくんがあわてるように数々のパワーワードを口にした。
ヴォルフガングを心配するように目をむけている。
『竜のあくび亭』は宿泊にいろいろときまりゴトがある。
――――「魔法禁止」をはじめ、
直接的な「金銭のやりとり」や高価な「贈り物」
ここはちょっとだけ特殊な宿屋なので
決まりごとがおおいのは仕方がないみたいだ。
ほかの宿屋も似たような感じらしいけど……。
精霊や妖精さんたちの住処でもあるからね。
ヴォルフが手袋をかんではがゆそうにした。
「――わかっている。だが、言葉にするだけなら自由であろう?」
「ハハッたしかにそうだな」
商人ヴォルフガングの発言に、
皆さま方がヤレヤレと笑ったり首をふってる。
いきなりプレゼント企画
とつぜんの提案についていけなかったんだけど。
なるほど〜、笑い話だったんだ。
まじめそうなヴォルフガングがめずらしい。
『竜のあくび亭』宿屋の約束事。
言うだけならかまわないってことだよね?
「あははっ♪ヴォルフおもしろいね」
「ルーシア?」
笑いながらヴォルフにつっこみをいれた。
「ホントの話かとおもってドキッとしちゃったよー」
「それは、まさか……私からの贈り物をという意味か?」
「うんうん、なんでも大丈夫だよー♪」
「……っ!?」
ヴォルフガングが目を見開いて驚愕してる。
追放ネタがおもしろすぎて、くすくすと笑ってしまう。
ガタッ
聖職者リヒトくんが席をたって交互に2人をみた。
こまりつつも話のあいだにはいる。
「あの、すみません。なにか誤解がある気がするのですが」
ゴワッ
『竜のあくび亭』へおおきな風がふいた。
トントントンッ
「あれ? こんな時間に誰だろう?」
夜風がふきあれたせいか食堂でぶるりと寒気がする。
カラン♪
ギィィィィィイ
「「「!?」」」
「ルーシアが倒れたと、無事か?」
魔術師オズワルドさんが扉からあらわれた。




