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第100話 星満ち足りて 夢の中で



「あれ?……なんだったっけ?」



 いつの間にか青空の下。

 ざああっと大樹の葉がゆれて風がおおきくふいた。


 金色の髪と赤いワンピースがなびいておさえる。

 ――どこまでもひろがる青空を見上げた。



「ここって『竜のあくび亭』の中庭?」



 おもわず呟いてあたりを見まわす。

 精霊や妖精さんたちが光の線を描いてる。


 どこかでなつかしい声がした。



『ルーシア、こっちにおいで』


『おじいちゃん⁉』



 『竜殺しの勇者』と呼ばれたおじいちゃん。

 ふり返ると光の中、やさしい笑顔で手をふってる。

 

 天へと旅立ったはずなのに。


 なんで? どうしてここに?

 これって夢?



 いや、そんなことよりも。

 かけだして手をのばす。


 おもいきり胸にとびこんだ。



『わああああんっ』


『よーしよしよし、もう大丈夫だ』



 やさしい笑顔でひょいっと抱きあげる。

 『竜殺しの勇者』が、ぎゅ〜っと抱きしめてくれた。


 やさしい夢。



 いっぱいなでなでしてくれる。精霊や妖精さんがきらめいて。いつのまにか子どもになった私をよーしよしよしと、あやすように何度も背中をぽんぽんとなでてくれた。



 ◇




 さらりと頬にふれたような気がした。

 ふかふかで心地良くて、――でも光が、まぶしい。



「……うーん?」


「ルーシア、目がさめたか?」



 ぱちりっ

 意識がゆっくりと浮上する中。

 眠るベッドの傍らでありえない声がきこえた。



「えっ……れ、レオンっ」



 目をむけると椅子には騎士レオンハルト。

 やさしい眼差しで手をそえていた。



「わわっこれって、あのっ!」


「失礼するよ。あわてて起き上がらなくても大丈夫。そう、ゆっくりでいい」


「は、はいぃ〜」



 スッと身をのりだすように立ちあがる。

 背中に腕をまわしてやさしく抱き起こしてくれた。


 キラキラキラキラキラ〜♪



 わぁぁっ。

 起き上がるための手助けなのに。

 ちかすぎる距離とキラキラと花々におもわず悲鳴をあげそう。いや、すでにあげてる。



「あ、ありがとうございます」


「……すまない。涙をこぼしていたから」



 ああ、泣いていたからそれで手をそえて。

 ボロボロと泣いちゃってたみたいだ。

 


「ひさびさに、おじいちゃんが夢にでてきて」


「ジゼル殿が?」


「うん、良い夢だったよ」



 驚いたレオンハルトがすぐさま、やさしい表情になる。

 とりつくろうようにあははっと笑った。


 いっぱいなでなでしてもらった気がする。

 恥ずかしいけど、うれしかったなぁ。



「いっぱい甘えてしまいました」


「ふふっ、それは仕方がないことだ」



 その様子をみてレオンハルトも懐かしむような目をした。どこか遠い想い出をみつめているかのようだった。



 ◇


 

 そういえば。

 いったい今はどーいう状況なのかな?


 ぼんやりした意識ががもどってきた。


 たしか古代遊戯をクリアしてそれから……。



「えっと、ゲームのあと……?」


「――君はそのまま眠ってしまったんだ。聖職者であるリヒトが診てくれたが……食堂で休ませるわけにもゆかず、勝手ではあるがユリウスとともに自室(ここ)へと連れてきた」


「わぁぁっすみません」


「気にすることはない。私たちがだいぶムリをさせてしまったのだと反省しているところだ。申し訳ないよ」


「いえいえいえっ〜」



 スヤァしたあと部屋に運ばれてたみたい。


 騎士レオンハルトと冒険者ユリウス。

 幼い頃は部屋の出入りをしていた仲だ。

(ホームステイでいっしょに暮らしていた)


 けれど、今はなんとなく気恥ずかしい。




 ――気を失う寸前。

 商人ヴォルフガングが言ってた。


 古代の遊戯には、なにかしらの魔力が必要らしい。

 それで眠っちゃった?



 うううっなにそれー。


 ゲームの祝福とかよくわからない物騒(ぶっそう)発言ワードもでてきたし。

 いったいなんなのかなー?


 あれ?

 おじいちゃんと遊んでた時も。

 よくそのままスヤァして眠っちゃってたけど……。

 もしかしてアレもそんな理由だった?



「ああ〜もうっいろいろと説明しなさすぎぃだよーっ」


「たしかにそうだな」



 頭を抱えながら布団にばふっと突っ伏してうんうんうなる。

 レオンハルトが手をあてうなずく。



 商人ならちゃんと品物(アイテム)の説明してほしい。

 ゲーム取扱説明書、くわしい情報求ムだよ。




 ん? そういえば。

 ここって、わたしの部屋……だよね。

 

 ベッドの上で、傍には椅子に腰かける騎士。

 扉は開いたままだけど、2人きり。


 わわっ相手はそれなりの大貴族。

 立場的にいろいろとまずいのではー?



「あっ、あのー」

 

「どうした、ルーシア?」



 不思議そうに首をかしげてる。



「ご心配おかけしました。傍でこうしてお世話まで、お気づかいありがとうございます」



 ぺこりとして深く頭をさげた。

 いやはや、とても申し訳ないです。


 窓から星空もみえるし……。

 何時か、わからないけど日も暮れてるみたい。


 うぐぐっさらにまずいのでは。



「いや、かまわないよ」



 やさしくほほ笑んでふんわりと花が咲く。

 いつもの絵本の王子様みたいだ。



 ◇



「ルーシア、食堂で皆が待っている」


「あっ」


 ぼんやりとした起き抜けの頭が一気にさえた。


 うわぁぁぁ。そうだよ。

 宿屋の主人がまた仕事放棄してるーっ。

 のんびりしている場合じゃない。



「と、とにかくいそいで食堂にいかないと」


「夕食はユリウスとテオドールが準備をしている――ああ、まだ調子がよくなければここへと運ぶが?」


「いえ、もうぜんぜん大丈夫ですっ」



 やや、おおきめの声で言葉をかさねた。


 いっぱい休んだし、たぶん大丈夫。

 聖職者のリヒトくんも診てくれたみたいだし。

 むしろなぜか調子が良いくらい。


 冒険者ユリウスと騎士テオドールさんは、

 夕食をお手伝いする約束をしている。


 よろこんで調理してそうだけど……主人が不在はさすがにまずいですよ。




「食べさせてあげても、私は一向にかまわないのだがな?」


「わああああぁっ」



 真っ赤になって叫ぶとクスクスとレオンハルトが笑った。



 とつぜんなにを言いだすのかなこのお方?


 スキあらば給餌きゅうじしようとしてくるよ。

 おそろしいです。

 


「それだけ元気なら大丈夫そうだ」



 キラキラと光がましてかがやいてる?

 確認にしては恥ずかしすぎるよー。


 

 スッと席を立ち、レオンハルトが扉へとむかった。



「ルーシア、ゆっくり身支度をととのえてかまわない。とにかくあわてずに。まだ目覚めたばかりで、本調子ではないのだから」


「……レオン」


「――これは私からのお願いだよ、ルーシア?」


 

 言い聞かせるように、やさしいまなざしでみつめてる。



「はい、わかりました」



 素直にこくんとうなずいた。


 宿屋の主人だし、あせる気持ちはわかるけど。

 ちゃんと落ちついて支度するようにってことだよね。


 レオンハルトが片目をとじて笑顔をむけた。

 すぐさま一礼し退室した。


 

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