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       〜山の神〜

 クロードに案内されてサンとティアは、焼け乾ききった山道を歩いていた。

 気温にしてどのくらいあるだろうか、地熱によって靴がボロボロになりかかっていた。

 わかっている事は此処には長くはいられないという事だけだ。

「クロード様、後は私達だけで大丈夫ですから、戻ってください」

 ティアのその言葉に、クロードは弱々しく笑う。老体にこの拷問のような暑さは地獄だろう。

「ティア殿、本当なら私も手を貸したい所ですが、このまま進めばきっと足手まといになるでしょう」

 クロードは疲労した表情を浮かべて足を止め、ティアの方を向いてそう言った。

「ここまで案内して頂いてありがとうございます。スペルの事よろしくお願いします」

 ティアの言葉に、クロードは一礼すると、サンとティアに背を向けて下山していく。

 サンとティアはその後姿を見えなくなるまで見つめていた。


 サンはポタポタと滴り落ちる汗を拭いながら足を進める。

「……なあティア、さっきさ、スペルに言った言葉、なんであんな所で言ったんだ?」

 サンは少し後ろから付いて来るティアの方を振り向いてそう聞く。

 サンが言っている言葉とは、先程ティアが言った「私はサンが好きです。あなたには渡さない」の事だろう。

 ティアは足を止め、優しく微笑むと口を開く。

「ああ、あれですか? ああでもしないと被害が皆に及ぶと思ったので……スペルはサンの事を気に入ってましたからね。ああ言えば矛先は私だけに向くと思ったんです」

 ティアの言葉に、サンはほんの少し不満げな表情を見せる。その表情にティアは気付き、サンに近付きながら言葉を紡ぐ。

「あの言葉に嘘はありませんよ。なんなら此処でもう一度言いましょうか?」

 ティアはそう言って、サンの両肩を優しく掴んで顔を覗き込む。

 サンは溜息をつく。覗き込んできたティアの瞳を真っ直ぐに見つめると、サンは口を開いた。

「ティア……確かになスペルの言霊には俺達じゃあ敵わないと思う。だけどな……だけど、俺はお前が……」

 サンの言葉を遮るようにティアはサンの口を手で押さえて優しく微笑んだ

「つまらないですね。こういう時、いつものサンなら……こう顔を真っ赤にするじゃないですか。私はそれが楽しみだったのに」

 ティアはそう言いながら少しすねたような表情でサンを見る。

「あのなあ……だから……」

 サンの言葉に反応するように、周りの地面の所々が盛り上がる。

「俺で遊ぶなって……言ってる」

 土の中から、妖魔が飛ぶように姿を現した。

「だろう!!!」

 サンはそう叫びながら剣を抜き、飛び出してきた妖魔に走っていく。

 妖魔達はまるで金属を擦り合わせたような音で奇声を発し、サンに襲いかかっていく。

 サンは走りながら剣を振る。光が走るたびに妖魔の絶叫が響き渡る。

「サン、ここの雑魚は任せましたよ。私は先に行きます」

 ティアはそう言って山頂へと走り出す。サンは妖魔を倒しながらティアの後ろ姿を横目に見ていた。

 妖魔は次から次に湧いて出てくる。どれもこれも雑魚妖魔ばかりだった。

 手ごたえがなさ過ぎる……サンはその事に違和感を感じていた。


サン、貴方ならあのくらいの妖魔には負けないでしょう。いい足止めになってくれるといいのですが。ティアはそんな事を思いながら山頂へと向う。

 山頂からは容赦なく、熱気を含んだ風が吹いてくる。

 肌が焼けるように熱かった。ティアの象牙色の肌が赤くなっていた。

「よく来たな」

 どこからともなく聞こえてくる声にティアは顔を上げる。

 刹那、熱風が吹きティアの頬をかすめて過ぎ去っていく。

 ティアの装束に鮮血のしみができる。ティアは咄嗟に頬に手を当てる。掌は血に染まっていた。

 熱風は刃となり、ティアの次から次へと襲い掛かる。

 そのたびに皮膚は裂け、血が飛び散る。

「ふ〜ん、B・ロージェが言っていたが、たいした事ないじゃん」

 そう言って姿を現したのは、真っ赤な瞳を輝かせ、金色の髪の毛を靡かせた妖魔だった。

 表情は幼さい雰囲気を漂わせている。まるでティアの反応を楽しんでいるようであった。

「貴方がこの山の神の正体ですか?」

 ティアは頬に滲む血を拭いながら、妖魔を睨みつける。

「お前が噂の翡翠色の瞳……だが今は一つしかないんだな。もう一つは真紅。俺達と同じ血を引く者……」

 妖魔はそう言って、ティアに近づいてくる。

「人間なんて馬鹿な生き物さ、ちょっと小細工して災害を鎮めたりすれば、それで妖魔も神になれる。ここは妖魔にとって住みやすい場所さ。微力だが大地からの瘴気があるからな。だから俺はこの地に少しだけ力を注いでやった。そうしたらどうだ? 大地は喜び血気盛んに活動し始めた」

「その話には嘘がありますね。大地は活動し始めた? そうではなく全て貴方の力によるものではないですか? この地の火山は永遠の眠りにつこうしていたはずですよ」

 ティアは妖魔に向かって鋭い目を向けてそう言った。

「ばれちゃった? つまらねえな。そうだよここの火山活動は俺が作り出したものさ。芸術的だろう? この熱さといい、今にも噴火しそうな火山といい」

 妖魔は顔を高揚させそう言う。ティアはその様子に不快感を感じ、眉間にしわを寄せた。

「そんな顔をするなよ。綺麗なお顔が台無しになるぞ……どうだお前、俺のペットにならないか? 可愛がってやるぞ」

 妖魔がそう蔑む言葉を言うと、ティアは挑戦的な瞳をして鼻で笑った。

「……そうですね……どうしましょうか」

 ティアのわざとらしくそう言い目を伏せる。妖魔の手がティアの顔に触れようとする。その手をティアは勢いよく払った。

「……そんな事したら、きっとサンに嫌われてしまいます。やっぱり止めておきましょう」

 ティアはニヤリと笑うと、掌を地面につける。思ったよりも地面の温度が高く、ティアの掌を焼き、皮膚から湯気が上がる。

 ティアの体は一瞬にして冷たい闇のオーラに包まれる。地熱の熱さとティアのオーラの冷たさが反応しあって、激しい蒸気が辺りを包み込み、ティアの姿をも隠してしまう。

 ティアの放つ闇の力は、地面深く浸透し、燃え上がる意図的に作り出されたマグマに達すると一気に冷やしていく。

 山の噴火口から凄まじい熱さの蒸気が立ち上る。 

 ティアが掌を当てている場所から徐々に熱は奪われ、地面が凍りついてく。

 山の頂があっと言う間に氷で埋め尽くされていった。

 ティアは地面から手を離すと立ち上がり冷ややかに笑みを浮かべ、蒸気の向こう側に立っている妖魔へと視線を向ける。

 妖魔の影が揺れる。そう思った瞬間、妖魔の本体はティアの後ろにいた。

「うっ……ぐああああ」 

 ティアの体に激痛が走る。

 妖魔の放った炎が刃を化し、ティアの体を貫いていた。

「我が名はブレイズ、炎を操る者」 

 妖魔はそう言いニヤリといやな笑みを浮かべる、真っ赤な瞳が楽しそうに輝いていた。

 ティアは力なく首をうな垂れると、口元をニヤリを歪めた。刹那、闇のオーラがまるで蛇の用に炎の刃に絡みつく。炎は凍り付いていき、凄まじい勢いで、妖魔の腕をも凍らせる。

 妖魔はその力に脅威を感じ咄嗟にティアの体から離れようとした。だが凍りついてしまった手はビクともせず、勢いに負けひび割れ脆くも腕は折れてしまった。

「ぎゃああああ」

 妖魔の断末魔が響き渡る。折れた腕を掴み妖魔は転げまわっていた。

 ティアの体に突き刺さっていた氷と化した炎は溶けてなくなる。傷はそのまま残ってはいたが、不思議と血は止まっていた。

 ティアはその部分を手で押さえると、苦痛に歪む顔で妖魔に近づいていった。

「貴方には消えてもらいます」

 ティアがそう言うと、ティアを覆っていた闇のオーラが波打ち大きくなっていく。

 ティアは妖魔の額に人差し指の先をくっつける。すると途端に指の先から妖魔が凍り付いていってしまった。

「さようなら」

 ティアは口元を歪めると、氷と化した人形を指差す、指の先からまるで銃弾のように黒い塊が飛び出し、人形をこっぱ微塵に粉砕した。

 そこにいるティアは、今までの雰囲気とはまったく別の者だった。そうまさしく破壊する事に何の躊躇も感じない妖魔そのものだった。

 ティアはゆっくりと手を下ろし、空を見上げ深い溜息をつく。自分の中の忌まわしい力を全て吐き出すように。

 体を覆っていた闇のオーラが小さくなっていく。

「つっ……くう……」 

 ティアの体に激痛が走り、ティアはそれに耐えかね氷に覆われた地面に倒れこんだ。

 ティアの体を貫いていた傷から今まで闇の力で止まっていた血が流れ出す。

「はあ、はあ、はあ……あっ……」

 体を起き上がらせるだけの体力はもう残ってはいなかった。

 痛みと出血で意識は朦朧とし、視界が狭くなっていくのを感じていた。

 遠のく意識の中で、微かにB・ロージェの声を聞いたような気がした。

 真っ白く凍り付いた大地に、鮮血が浸透していく。鮮やかなほどに痛々しかった。


「ようこそ、我が手中へ……」

 真っ赤な唇が歪み、漏れ出した言葉が冷え切った空気に突き刺さっていた。

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