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     〜最後の朝食〜 

「何、見てる?」

 サンは自分の事をじっと見ているマーラが気になりそう言った。

 そんな二人を見ながらササラは何かに気付いているのか、クスクスと笑っている。

「サン、マーラはおねだりをしてるんじゃないかな」

 ササラの言葉に、マーラの皿を見ると、すでに食べ終わり皿は空だった。ほんの少し前に食べ始めたばかりだったはずである。食べるスピードが常人並ではなかった。

「マーラ、私のをあげましょうか?」

 ティアは優しく微笑みマーラにそう言うが、マーラはティアの言葉に珍しく首を横に振って断った。

「ああ、わかった、わかった。お前の思考は俺に似てるな。気が合うじゃんか」

 サンはそう言うと、マーラにおかずを分けてやる。サンとマーラの二人の間では意思の疎通ができているらしいが。ティアにはまったくわからなかった。

 そんなティアのキョトンとした姿を見て、ササラはまたクスクス笑っている。

「ティアは痩せすぎだから。みんなティアの事心配しているのよ」

 ササラの言葉に、ティアは少し驚き、そして少し照れたように笑っていた。

 サン、ティア、マリ、クラマ、ササラ、マーラ、そしてユリカは食卓を囲み、朝食を一緒にとっていた。皆で過ごす最後の朝食だった。

 ユリカはティアとまだ真正面から顔を合わせ会話をする事ができないでいた。心の中のわだかまりが綺麗に消えたわけではなく、複雑な心境下にいる事は確かだった。だがティアを通してカランの残したメッセージを聞き、闇に覆われた心に光が差し始めていた。


「今日、発つのですか?」

 マリは優しい眼差しでサンとティアを見つめるとそう聞いた。

 サンとティアは静かに頷いた。

「なあ、本当に行っちゃうのか?」

「私もまだいてほしいな」

 マーラとササラは少しすねた様な表情を見せて、サンとティアにそう言う。

「悪いな。一応俺の仕事は賞金稼ぎだ、ここに滞在していても仕事にならないからな、それにティアにも目的があるしな」

 サンの言葉に、ササラとマーラがティアの方を見る。ティアは少し悲しげな笑みを浮かべていた。

「マリ様、クラマ様、本当にありがとうございました」

 ティアは翡翠色の瞳を伏せるとそう言い、頭を下げた。

「私の方こそ、ティアとサンに会えた事を本当に嬉しく思っているんですよ」

 そう、この翡翠色の瞳をもう一度見れた事に私は感謝している。そしてサンとティアの周りを包んでいる光に私は希望を抱いている。貴方達に会えて本当によかった。

 マリはそう心の中で呟き暖かい笑みを浮かべていた。

「ティア、お前の探し人が見つかるといいな」

 クラマは朗らか笑みを浮かべてそう言う。心の中には確信に近い疑惑があったが、それはあえて口にしなかった。

 ティアは儚げな笑みを浮かべると静かに頷いた。


 サンとティアは荷物をまとめ、旅立つ準備をしていた。

「……ティアさん」

 そう声をかけてきたのはユリカだった。ユリカは複雑な気持ちの中で、ティアに対しての罪悪感に苛まれていた。無意識だったとは言え、自分がティアの首を絞めた事をユリカは憶えていた。

ティアは顔を上げ、優しい笑みを浮かべるとユリカに近付いてく。

「あ、あの……これ、何かの役に立てばと思って作りました。カラン様が最後に私に教えて下さった物です」

 ユリカはそう言うと、ティアに木製の鳩を手渡す。鳩の腹の部分には文字が一つ書かれていた。

 それは心入れの術だった。物体に念を入れ、本物のように動かす事のできる術だった。

「これは……ありがとうございます。大事にします」

 ティアは優しい笑みを浮かべるとユリカにそう言った。ユリカは少し照れたようにはにかんだ笑みを浮かべていた。

「何かあったら、これを飛ばして来いよ。すぐに行ってやるからな」

 マーラはティアにそう言うと、自分の頭を指差し、茶目っ気のある笑みを浮かべる。どうやら頭を撫でてもらいたいらしい。ティアは愉快そうに笑うとマーラの頭を撫でた。

「サンにはこれをやるよ」

 マーラはそう言うと、手招きをする。サンはマーラの身長に合わせてしゃがみ込んだ。

 その時だ、ティアがいきなりマーラの襟を掴み上げる。

「何するんだよ。せっかくプレゼントしようと思ったのに」

「何をプレゼントするつもりだったんです? サンに殴られたいんですか?」

 ティアはマーラがサンに何をしようとしたのか、感づいていたらしくそう言うと、マーラの顔を覗き込んだ。

「お前、まさか!?」

 この間のティアにしたようにキスしようとしたのか!? サンは自分の唇に手を当てていたた。

 マーラはそんなサンを見ながら頭を掻き笑っている。

「ああ、もうこのガキは! ティアそろそろ行くぞ」

 サンは半分怒った様に、荷物を持つと玄関へと向う。

「はい。ではササラ、マーラ、立派な神使になるんですよ。ユリカさん、この鳩、本当にありがとうございました」

 ティアは笑顔を浮かべてそう言うと、マリとクラマを見て、揺れる瞳で頭を下げ、皆に背中を向けてサンの後に続いて外に出た。

 温かい太陽の光を体に浴びながら二人は歩き始める。

 ササラとマーラは一生懸命手を振り、ユリカは淋しげな瞳で二人の後姿を見送った。

「クラマ、ティアに話さなくてよかったのですか」

 マリは二人の後姿を見ながらそう言った。

「……ああ、あいつはいずれ真実を知る事になるだろう。受け入れるかどうかは本人次第だ」

 クラマは目を伏せそう言う。

「ティアの胸の刻印は、力を制御するための封印です。封印されていてなおあの力です。もしも無かったら……」

「ああ、そうだな。俺達の敵にならない事を祈るだけだ」

 クラマはそう言うと、唇を固く閉ざし、二人の後姿を見送った。

「きっと大丈夫ですよ。サンと言う存在が一緒ですから」

 マリはそう言うと、サンとティアの二人を温かい眼差しで見つめていた。


「なあ、ティア、お前って男が好きなのか?」

「なぜです?」

 サンのいきなりの問いに、ティアは少しも動じずにそう答える。

「だってマーラにキスされても、動じなかったじゃねえか。涙は流したけど、あれはどっちかって言うと感謝の気持ちだろう?」

「……私は男も女も両方好きですよ。」

「何!?」

「というか、人間が好きなんですよ……色々な事がありましたが、嫌いにはなれません」

 ティアは純真無垢な笑みを浮かべてサンを見つめていた。

 コ、コイツ、本当にわけわかんねえ……神秘、摩訶不思議、そんな言葉がサンの頭の中を回っていた。サンは一つ溜息をつく。

「どうしました? もう疲れたんですか?」

 そう言ってサンの顔を覗きこむティアを、サンは無視しながら歩いていく。

 ティアは慌ててサンの後に続き歩みを進めた。


人間が好き……か。

 沢山の人間に差別や迫害を受けてきたのにか……今の俺にはわかんねえな。

 サンは悲しく笑いを吐き捨てた。


 黄色い砂が混ざった風が吹いていた。

 砂は日差しを受け、まるで金粉が降るようにキラキラと輝いていた。  

人間の記憶って、とても曖昧。

時には自分の都合のいいように捻じ曲がったりする。

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