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     〜奪還1〜

 カビ臭い匂いが鼻をついてた。ゆっくりと目を開くとそこは真っ暗な闇。何も見えなかった。ササラは真っ暗で何も見えない空間を見渡す。すると徐々にではあるが、闇に目が慣れてきて薄っすらと周りが見えてきた。

 ここはどうも地下にある牢らしい。

 周りからすすり泣く声が微かに聞こえてくる。ササラは地面を手で触りながら鉄格子らしき影に手をかけた。

 他にも牢があるのか何人かの気配と声が聞こえていた。

 ササラは鉄格子から少し下がると立ち上がって両手を開く。すると周りの空気がゆれ動くように見えた。刹那、ササラの手から空気が刃と化して鉄格子に向って飛んだ、だが甲高い音を響かせるだけで破壊する事はできなかった。

「まあ、あたりまえか、神使を入れとく牢なんだから、力を遮る何かがあるんだろうな」

 ササラはそんな独り言を言いながら、鉄格子の前に座り込んだ。

 絶対に来る。マーラが絶対に助けに来るわ、ササラはそう確信していた。


 ティア、クラマ、マーラの三人は城の入り口の大きな扉の前にいた。

 此処まで来るのに、誰一人として行き交うことはなかった。この街には人間自体が存在しないのかもしれない。

 クラマは扉に手をかけて開く。すると中には異様な空気が流れ外へと出てくる。まるで何年もの間扉を開けていなかったように空気が淀んでいた。

 ティアは漂う匂いに顔をしかめ眉間にしわを寄せる。

「……血の匂い」

 ティアはそう言いながら、城の中へと入って行く。目の前の光景にティアは一瞬後ずさった。

 広い空間が広がる中、床は赤黒く変色していた。長年にわたって血が沁み込んだのか、柱も赤黒く染まり、血の匂いが充満していた。そして無数に転がる白骨。

「何か、来ます」

 ティアがそう言ったと同時に奥の方から金属音を響かせ、凄い勢いで何かが飛んでくる。

 クラマは一歩前に出て、精神を集中して掌に光の玉を作り両手を広げ大きくすると、光りの玉を放つ。光の玉がその飛んできた物体にぶつかり、凄まじい音と共に花火を散らし弾け飛んだ。

 後には灰色の甲冑が散乱していた。

 三人は顔を見合わせる。

「こんなのが、この中に何体いるんだか」

 クラマは散乱した甲冑を目の前にしてそう言った。

「三人で行動していてもらちがあきません。二手に別れて探しましょう」

「俺はティアと行く」

 ティアの言葉に、マーラはそう言いティアの腕にしがみつくと、水色の装束の端をキュッと握り締めていた。

「私はかまいませんが」

 ティアはそう言うとクラマの顔を見た。クラマはマーラの顔を見つめる。マーラの瞳が凛と輝き、前の子供っぽいマーラと違う雰囲気を漂わせていた。 

 マーラはマーラなりにティアの中に何かを感じているのかもしれない。クラマはそう思い目を伏せる。

「いいだろう。ティア、マーラを頼んだ」

「はい」

 三人は二手に別れ走り出した。


「しかし趣味の悪い城だ。城全体に妖気が漂ってやがる」

 クラマはそういいながら階段を下りていた。階段は螺旋階段になっており、先の方がよく見えない。暗い階段の所々に蝋燭の火が灯り、クラマの影を揺らしていた。

 階段の下の方から、誰かの足音がする。クラマは足を止め耳を済ませると身構えた。

 足音はどんどん近くなり、もうすぐそこまで来てるようだった。 

 突然気配が現れた。前じゃない後ろだ! クラマは咄嗟に後ろを振り向くと、一人の可愛らしい少女がすぐ真後ろに立っていた。

 少女は素早い動きで、クラマの懐に飛び込むと長い鋭い爪で、喉元を狙ってくる。クラマは少女の爪を寸前でかわし、思い切り少女を振り払うように手の甲で叩く。少女は壁に体を勢いよくぶつけ床にそのままずり落ちた。

 クラマは神経を張り詰め少女を凝視する。少女は微かに笑みを浮かべたかと思うと、高く跳躍してクラマの頭上に飛んだ。クラマは少女に人差し指を差す。

「終わりだ!」

 一言そう言うと、指の先から光が発射され、それは少女の額を射抜いた。少女は一瞬に灰になり消え失せてしまった。

  

 ササラは暗闇の中に聞える微かな足音に気付き顔を上げた。聞き覚えのある足音だった。

 足跡は近付いてくる。ササラは鉄格子に手をかけできるだけ足音のする方を見ると、暗闇の中に薄っすらと大きな影が映るのが見えた。

「ササラ……ササラか!?」

「クラマ様」

 クラマは鉄格子の向こう側に膝を付き、ササラと向かい合う。

「怪我はないか?」

「はい、大丈夫です」

「他にも囚われている者がいるな。なるほどこの牢には術がかけてあるな。今、出してやるからな」

 クラマはそう言うと、牢の前の地面に文字を書き始め、それを牢獄全体の地面に書き終えると、地面に手をつき目を閉じた。

「我、光の力のもとに、闇の悪しき力を消し去らん、 さい!」

 クラマがそう叫ぶと、地面に当てていた手が光り、暗闇が眩い光に包まれる。

 鉄格子は一瞬にして、粉々に砕け散り消え去った。

 牢の中からは、今まで囚われていた神使や神使見習いの者達が出てきた。だが中には時すでに遅く、遺体になってしまっている者も少なくは無かった。

「クラマ様、マーラは一緒じゃないのですか?」

「マーラはティアと一緒に行った。サンの居所が何処なのかわからないか?」

 クラマはササラにそう聞くと、ササラは目を伏せ首を横に振った。

「とりあえずサンを探そう」

「私も一緒に行きます」

 ササラの言葉にクラマは頷き、立ち上がると今来た道を戻っていく。

 二人は薄暗い螺旋階段を駆けがって行った。クラマの生成り色の装束がフワリと靡いていた。


「どうやらササラは見つかったみたいですね」

 ティアの頭の中にクラマからの思念が響いていた。 

 サン、何処にいるんです?……ティアは心の中でそう叫ぶ。だがサンの気を感じる事ができなかった。

「マーラ、サンの気を辿る事はできませんか?」

「どうかな、やってみる」

 マーラは薄暗い廊下に立ち止まると、目を閉じ精神を集中する。だが、何も見る事も感じる事もできなかった。

「ごめん。役にたたなくて」

 マーラはそう言って肩を落とし、溜息をついた。

「何を言ってるんです。マーラ、貴方が傍にいてくれるだけでどんなに心強いか」

 ティアはそう言って、マーラの頭を撫でる。マーラには珍しく真剣な面持ちでティアの顔を見上げていた。

 空気の中に耳に入ってこないような音を聞いたような気がした。ティアの表情がいきなり険しくなり、何か気配を探っているように見えた。

 何かいる……ティアはそう思い、自分達のいる周囲に精神を集中していた。

「クククククク」

 不気味な笑い声が廊下中に反響して聞えた。マーラもいつでも動けるように体制を低くして身構える。

 すると眼の前の暗闇から異様な気配が近付いてくる。

 姿を現したのは、この街に住んでいた住人達なのか、姿形は人間と変わりないが、顔色が青白く、目は生気を感じさせず、鋭い爪を持ち、口からは牙を覗かせていた。

 マーラはその姿を目にするなり、走り出していた。

 鋭く伸びる爪でマーラは眼の前の吸血鬼たちを倒していく。吸血鬼は次から次へと灰と化し消えていく。その手ごたえの無さに違和感を感じていた。

 ティアは気付いていた。先程の笑い声は眼の前の吸血鬼達ではない事を。刹那、ティアは自分の横から殺気を感じる、だが間に合わなかった。壁の中から黒い手が伸びてきてティアの首を掴むと、もの凄い速さで壁の中へと戻っていく。ティアの体は凄まじい力に引っ張られるようにして、壁に激突した。まだ黒い手はティアの首を握ったままである。

「ティア!」

 マーラはティアに駆け寄ろうとしたが、周りの吸血鬼達が邪魔で行けない。マーラは舌打ちをしながら長い爪を振るう。

 ティアの額からは血が流れていた。

「ククククク」

 愉快そうに笑う声が壁の中から響いてきていた。

 ティアは自分の首を握っている手を掴むと、一瞬にして精神を集中して手から気を放つ。

「ギャアアアア」

 悲鳴と共に黒い手は千切れ、壁の中へと消えていく。ティアの首を掴んでいた手も消えた。ティアは壁に触ると妖魔の気配を探る。

 いた! ティアは心の中でそう呟くと、掌に気を溜める。

 我の中に宿りし光の力よ、闇の血脈を辿り消し去れ! そう強く念じると掌の光が壁の中に入り込んで行く。

「ギャアアアア」

 一瞬の静寂の後、廊下中に妖魔の断末魔が響き渡った。

 ティアは深いため息をすると、頭を押さえる。マーラがそこへ必死の形相で走りこんできた。

「ティア、大丈夫か?」

「……大丈夫ですよ」

 ティアは額から流れている血を拭うと、ゆっくりと立ち上がり前を向く。

「妖魔が空間を歪めてくれたおかげで、一瞬ですがサンの気を感じました」

「じゃあ、空間を飛ぼう」

 ティアの言葉にマーラは笑顔でそう言う。

「ですが、この城自体が妖魔の内臓のようなもなのですよ。一歩間違えれば空間の中を彷徨う事になってしまいます」

「大丈夫だよ! 俺の気持ちとティアの気持ち、そしてサンの気持ちがあれば絶対に大丈夫だって。それに俺、ティアの力信じてるもん」

 マーラのその言葉にティアは驚いていた。この自信はただたんにに向こう見ずなだけなのかもしれないが、ティアは羨ましく感じていた。

 マーラが私と一緒に来てくれた事は正解だったかもしれませんね。ティアは心の中で密かにそう思っていた。

「わかりました。マーラ頼りにしていますよ」

 ティアはそう言い、マーラの頭を撫でる。マーラは満面の笑顔を浮かべると、ティアの手をしっかりと握り、壁へと走り込み、眩い光と共に一瞬にして消えてしまった。 

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