参上
「わあーー!速ーい!ジェットコースターみたいですね!」
高速でカーブを曲がる懸垂式モノレールの遠心力を感じながら、閃は嬉しそうに笑った。
「お前いっつも楽しそうだよな」
「楽しいじゃないですか!しかも今日は行ったことの無い所に行くんですよ!」
「ホント、おめでたい奴だ」
「先輩は行ったことあるんですか?サイスモール」
「何回かはな。あそこは人が多くて苦手だ。五月蝿えし」
「先輩が五月蝿いの苦手だなんて意外です。深夜のコンビニの前にたむろして騒いでるイメージなのに」
「お前マジで一回ぶった斬ってやろうか」
「あ!見えてきましたよ!大っきいですねー!」
閃は吾妻の殺意を無意識のうちに躱すと、眼前に現れた巨大な建造物に感嘆した。
サイスモール。去年出来たばかりだという真新しいショッピングモールだ。アルファベットのSを形作るように点対称に並べられた二丁の鎌のマークと大きな建物は、遠くからでも視認できる。
モノレールの駅は施設内の吹き抜けに建設され、その斬新なデザインはランドマークの一部として建物の存在感を強調し、また優れた集客装置ともなっている。
建物の白い外装とは対象的に、黒く金属質な空間で近未来的に発光するホームへゆっくりと進入したモノレールはブレーキの軋む音も無く、滑らかに静止した。
「とうちゃーく!」
わはー、と全身で喜びを表現する閃を尻目に、吾妻は足早に歩き始めた。どんな些細なことでも心底嬉しそうにする閃に、吾妻はある種の羨ましささえ覚えた。
もちろん、吾妻が今日サイスモールに来ることが嫌だというのには理由がある。吾妻は昼過ぎの職員室での出来事を思い出しては、また深いため息をついた。
「はあ!?なんだよ慈善活動って!」
職員室で大声を発した吾妻に、多くの教師が振り向いた。しかしそれを軽く受け流すように、顔の整った若めの男性教師が身振り手振りを加えた大げさな動きで受け答える。
「いいかよく聞け坂上。俺たち教員は剣技の実力に見合わないお前の素行不良に非常に頭を抱えていた。しかしそれがどうだ、3年の4月になってからというものの、一週間連続無遅刻無欠席、それだけでなく困っている後輩までをも積極的に手助けしていると聞く。いやあ実に感心だ!担任として、心から誇りに思う」
腕を組みながら、うんうんと頷く担任教師。
「おい、話に尾ひれが付きすぎだ」
「謙遜しているんだなあ、偉いぞ、だが間違ってないだろ?俺は聞いたままの事実を言っているに過ぎないからな」
「だ、だからなんだよ!慈善活動とは関係ないだろ!」
「いや、だからこそだ。正直、この慈善活動に立候補している優等生たちはたぁくさん居る。しかしどうだ、その殆どは進学のための点数稼ぎだ。俺はな、心から人を手助けしたい、そう思っている奴にこの仕事を託したいと思ってな。他の全員の立候補は俺の権限で全部蹴った」
「何しやがるんだこのクソ教師!」
吾妻の怒りは頂点に達した。顔を真赤にして怒鳴りつける吾妻に対し、教師は手をひらひらさせながら不敵な笑顔で応えはじめる。
「あぁあぁ、照れんでいい。お前がやりたいこと、良くわかっているつもりだ」
「分かってねえから言ってんだよ!」
「というわけでヨロシク!先生はこの後会議があるから席を外すぞ。坂上は来週の月曜までに感想文提出な。というわけで一年生、坂上先輩にたっぷり教えてもらいな」
「は、はいっ!!」
わざとらしいハンドサインとともに席を立った男性教師はすれ違いざまに閃の肩をぽん、と叩いた。閃はびくっと跳び上がると、一層やる気を燃やすように応える。しかし吾妻はがっくりと肩を落とし、苦労人のような重い溜息を漏らすのみだった。
「ちっくしょう、あのクソ教師、絶対呪ってやる」
「その割にはノリノリですよね、先輩」
「うるせえ!やるしかねえだろ!」
吾妻はぶっきらぼうに言い放った。というのも、慈善活動と聞いていたために抵抗感があったものの、その実は急遽人手不足となったイベントの警備スタッフというものだった。本来出るはずの給料が出ずに仕事をするということで慈善活動という触れ込みだったが、実際は給料の代わりにキャンペーン商品の激辛カップ麺1ヶ月分が貰える、ということで吾妻は思いの外快く仕事を受け入れていた。
しかも警備の仕事といっても吾妻は腕章をしてステージの横で突っ立っているだけだ。もう幾分か経ったが、未だ特に何もしていない。もう一つの仕事であるチラシ配りは勝手についてきた後輩に丸投げしている。もちろんチラシを捌けなければ吾妻の責任、ということになるのだが、ひとつ上の階を元気いっぱいに駆け回りながら目にも留まらぬ速さでチラシを配り続ける少女を見て、吾妻は思惑通りだ、といった表情を隠しきれなかった。
元気いっぱいにチラシを配り続ける閃が異変に気づいたのは、会場内に妙なざわつきが起こってからだった。
「先輩!」
柵から身を乗り出し、閃は呼びかける。
下を向いたままの吾妻を、多くの生徒が囲んでいた。浅葱色の袴と灰色の羽織、鎌倉第三高校だ。
「お前、坂上吾妻だろ」
「この間はよくもやってくれたな」
目付きの悪い坊主とロング茶髪の男子二人組がふっかけるように言い放った。
「はあ……ったく、お前らは場所も考えらんねえのか。相手してる暇はねえよ」
吾妻はそれに深い溜息をつき、気だるげに欠伸をした。
「なんだよ、逃げるのか?坂上吾妻も大したことねえな」
「笑わせんな、お前らなんか相手する価値もねえんだよ」
「なんだと――!」
挑発に挑発で返した吾妻に、第三高校生はいとも簡単に逆上した。
「大体、群れてねえとあたしに突っかかれない時点でお前らの負けだ。群れて騒いで散らかして、さぞ楽しいこったろうなあ」
追い討ちをかけるように淡々と挑発する吾妻。それに対して黒の短髪少年は思わず声を荒げる。
「てめえ、ふざけんのもいい加減にしろよ!」
「……抜いたな」
吾妻は猛禽のような眼光で第三高校生たちを一瞥した。
「だ、だからなんだって言うんだよ!ぶった斬ってやる」
「――だってよ、下がってろ」
階下まで降りてきた閃に、吾妻はにやりとしながら命令した。
「え、戦うんですか?」
「不本意だけどな、お前もやるか?」
吾妻はからかうように言い放った。
「喧嘩はダメです!」
「へっ、知るか」
軽口を叩きながら抜刀する吾妻。そう、これは吾妻が選択した正当防衛なのだ。わざわざ自分が刀を振る理由を見つけた吾妻が浮かべたにやりとした笑みは、相手に対し感謝すらしているようだった。
「上で見てろ!怪我しても知らねえぞ!」
「は、はい!」
閃は慌てて階段を上り、柵越しに階下を見下ろした。闘いは、既に始まろうとしている。
「舐めやがって!後悔させてやる!」
一番背の低い少年が飛び出した。手にしているのは刀身に反りのない直刀だ。上段に振りかぶりながら喚声を上げ、突っ込んでくる。
吾妻は大太刀を眼前に持ち上げると、一閃、迫りくる直刀に大胆にぶつけてみせた。
「がっ――!」
上段に構えた直刀を振り下ろす前に防がれ、バランスを崩した背の低い少年はあっけなく尻もちをついた。
「よくそんなのであたしに挑もうと思ったな。度胸だけは認めてやるよ」
「くそっ、大太刀使いめ!」
次に飛び出してきたのはオーソドックスな太刀を構えた少年だ。
吾妻の目つきが変わる。
断続的な打音が響き渡る。今度の少年は、吾妻と剣を合わせている。しかし、
「うぐっっ!」
地に突き立てた大太刀によって胴打ちの一手を防がれた少年が戸惑った一瞬、少年のみぞおちに黒茶色のローファーが突き刺さった。
「剣の腕はまあまあだが、それだけだな」
膝から崩れ落ちる少年を、吾妻は退屈そうに見下ろした。
第三高校生の集団の中に明らかなどよめきが起きたのは、その直後だった。
「じゃあ俺がやる」
どすの利いた声で前に出たのは、とびきり大柄な男だった。彼が持っているのは、刀身100cm近い大太刀だ。それも右と左手に一振りずつ。大太刀の二刀流だ。
「巨人!やっちまえ!」
まるまると太った体に大きな顔。身長も180cmを超えているであろうか、巨人とよばれたその男は、呼び名の通り稀に見る巨漢だった。
「なんだこいつは」
吾妻はため息混じりにその巨漢を見上げる。
「どうだ?降参するなら今のうちだぞ」
巨漢は大太刀を振り回しながら掲げて威嚇した。
「はっ、誰がするかよ」
吾妻は嘲笑混じりに答えた。
「ふん、泣いても許してやらねえからなあ」
巨漢がどすどすと突進してくる。大太刀を両に広げ、ただでさえ巨大な体が、より威圧的に見える。
「先輩!」
「黙ってろ!」
閃の呼びかけを吾妻は一蹴した。
「うおりゃああああああ!」
巨漢が大太刀を振り下ろす。が、
その刀身は吾妻の首に届く寸前でぴたりと止まる。
「な、どうしたんだよ巨人!」
「やっちまえよ!」
後ろで少年たちのざわめきが聞こえる。
「ぬ、ぬう……」
巨漢の喉元に、漆黒の切っ先が向けられていた。
鋭い目つきで巨漢を睨みつけながら向けられた大太刀は、「これ以上動けば容赦はしない」ということを語っていた。
吾妻は切っ先を巨漢の喉元に向けたまま、こつりこつりと距離をつめる。
それにつられるように後退りしたその巨漢は、まもなく足をもつれさせ、ずしりと倒れ込んだ。
第三高校の生徒の剣は、坂上吾妻に届くことすらままならない。圧倒的な長さを誇る漆黒の大太刀によって生まれる刀身の差という絶対的な距離を、彼らは埋めることが出来ずにいるのだ。
坂上吾妻は強い。閃は確信した。瞬時に3人抜きを達成したかと思えば今度は4人の男子に囲まれながらもたった一人でその攻撃を捌き切り、躊躇なくその黒い刀身を彼らの腹にぶつけてゆく。
「うぐっ……」
大太刀で殴られた男子生徒は、からん、と思わず握る手から刀を放し、腹を抑えてうずくまった。
鎌倉学府に存在する3つの高校で定められている制服は、上衣、袴、そして帯に至るまでもが優れた防刃性を持っている。吾妻はその事実を知った上で、大太刀を「打撃武器」として活用しているのだ。
「なんだよ、今更びびってんのか」
吾妻は握った大太刀から片手を離すと、もう片方の手でこつりと切っ先を地に下ろした。
挑発された男子生徒の眉がぴくりと動いた。そんな少年に目もくれず、ため息をついた吾妻は慣れた手付きで気だるげに納刀した。
「だからお前らは実力最下位なんだよ。そろそろ群れて仲良ししたいだろ。散れ、さっさと」
少年の肩はぴくぴくと震えている。
「っ!ちっ、ちくしょおおおおおおおおおお!!!!」
背後からその声を聞いた吾妻は、思わず振り返る。
屈辱で顔を真赤に燃やした男子生徒が、突如として飛び出していた。
「なっ――!」
少年が突進とともに繰り出したのは、突きだった。刃渡り30センチほどの短刀を両手で握り、こちらに突っ込んでくる。いくら制服が防刃使用だからといって、刃物を完全に防げるわけではない。むしろ、適度に繊維を切断することによって、深部までの痛みを和らげる効果もある。防刃服を貫通する恐れのある突き攻撃は、極めて危険だ。そんな中、刀を持って突進をしているその少年は、吾妻に対する異様なまでの執着心や敵対心を顕にしている。
吾妻の頬に、隠しきれぬ恐怖が一筋の冷や汗となって現れた。
「どうしよう、このままじゃ先輩が……」
その時だった。
「どいて!」
よく通る声。その主を探そうと後ろを振り返ろうとした時、閃の眼前を黒い影が横切った。
ばさり、と黒の羽織をはためかせ、ふたつに結った黒髪をなびかせながら、その少女は弾丸のように飛び出した。転落防止用の柵を片手で飛び越え、階下へと飛び降りる。
短刀を構えた少年の進路上に着地した少女は、目深に被った軍帽の中から鋭い眼差しを覗かせた。困惑して立ち止まった少年の下顎を、恐るべき瞬発力で急接近した少女の掌底が正確に撃ち抜いた。
視界をぐらつかせた少年を容赦することなく、少女は空いた右脇をすくい上げ、大胆に投げ飛ばした。
投げ飛ばされた少年はたまらず気を失い、その手に握った短刀を床にこぼす。
抜刀していた第三高校の集団がざわめいた頃には既に遅かった。あるものは刀をはたき落とされ、あるものは足を払われ、あるものは床に組み伏せられ、またあるものはみぞおちを肘で突かれ、そしてまたあるものは関節を極められて後ろ手に悲鳴を上げた。
「こら!喧嘩しちゃ駄目でしょうが!今日は早くお家に帰りなさい!」
「す、すいませんでしたああ!」
十数人いた残りの第三高校生すべてを、僅かな時間で全て無力化したその少女を見て、吾妻は唖然とした。
「つ、強え……誰だか知らねえが、正直助かっ――」
しかし、その少女は振り返るや否や、
「喧嘩あああ!!両!!成!敗ッッ!」
ガキン、という凄まじい金属音が響く。抜刀し、吾妻に斬りかかってきたのだ。
「こっ、のっ!なんっだよ!お前!」
凄まじく重い一撃を受け、吾妻は思わずのけぞった。しかし押しつぶされないように握る手に力を込め、鍔迫り合いに臨む。
少女が握るのは、鈍い鉛色の大きな軍刀だった。幅が広く、刀身も90センチほどはありそうだ。
「自分がいくら強いからって、弱い者いじめは駄目だよ!」
「何の話だよ!っこのっ!」
「大人しく降参しなさい!」
少女は身を翻し、真下から軍刀をぶつけて吾妻の大太刀を大きく跳ね上げた。
「ちっくしょう!なんなんだよこの強さ!」
吾妻は思わず声を荒げた。
「意外と手強かったけど、これでおしまいだよ!」
少女は振り抜いた軍刀を大きな弧を描くように振り戻し、野球選手がバットを振る容量で身を傾けながら思い切り打ち込んでゆく。その軌道は、吾妻の体側に直撃するものだった。
「っ!」
バキン、という明らかに異質な金属音が響き渡った。しかしそれは、振り抜かれた軍刀が吾妻の身体に到達していないことを意味した。
金属音の正体は、吾妻が腰に差していた脇差だった。大太刀を大きく跳ね上げられた吾妻は、少女が胴めがけて斬り込んでくることを読んでいた。そこで大太刀から握る左手を離し、腰の脇差を逆手で抜いたのだ。しかも、わざと刀身の一部を鞘に収めたままにすることで、片手でもふらつかせることなく防御することに成功した。この受けは、非常に難易度が高い。離れ業や曲芸と言ってもおおよそ差し支えがなかった。
「ちっっくしょう、痛ってえ」
想定外の衝撃に左手に痺れを残しながらも吾妻はすかさず距離を取る。自身の最大の強みである大太刀のリーチを失わないためだ。
「むう、なかなかやるなあ、でも、そろそろお縄になってもらうよ!」
少女は一瞬、なんとも面白くない、といった表情を浮かべたが、それはにっとした爽やかな笑みへと変わり、驚くべき瞬発力で飛び出し、軍刀を振りかぶった。
「やああああああああああああ!!!」
「ま、待て!あたしは被害者だっつーの!」
ぴたり、と。軍刀を振りかぶったまま、少女はその場で急制動をかけた。
「あ、あれ……?」
彼女はきょろきょろとあたりを見渡し、目撃者らしき少女を視界に捉えた。
閃は目を合わせてきた少女に対し、思わず何度も首を縦に振った。
「いやー失敬失敬。てっきり悪いやつかと思ったよ」
その少女は、頭を掻きながら飛びっきりの笑顔で謝罪を述べた。
「失敬失敬じゃねえよ……危うく殺されかけたぜ……」
吾妻は左手の感覚を戻そうとぱたぱたと振りながら、呆れるように呟いた。
「私もびっくりしました!先輩を助けてくださり、ありがとうございます!」
「良いの良いの、お礼なんて!一応お仕事だからね」
「お仕事、ですか?」
閃が興味深そうに聞くと、少女は得意げに仁王立ちしてみせた。
「そう!風紀団!鎌倉学府にはびこる悪よ、学生生徒に仇なす者よ、我が一刀の、もとに沈まん、衣服の乱れは心の乱れ、心の乱れは風紀の乱れ、我ら鎌倉風紀団、我らの心は、学府の風紀のために!ってね!私は東郷芽衣。学年は2年で、鎌倉学府風紀団の副団長をやっているの!よろしくね!」
東郷芽衣と名乗った少女は、にっこりと笑いながら、片手を差し伸べた。
風紀団。警察や消防などの公共機関が存在しない鎌倉学府において、学府内の治安・風紀を維持するために結成された組織だ。堂々と組織の口上を唱和するその少女の右手から伝わる感触に、閃はどこか惹かれるようなカリスマ性を感じ取った。
「東郷先輩!私は、1年生の佐々木閃といいます!よろしくおねがいします!で、こちらが――」
「んん?んんんんんんんん??」
芽衣は、吾妻の顔を見るやいなや、すぐそばに駆け寄り、何の躊躇いもなく吾妻の顔を間近で覗き込んだ。
「な、なんだよ」
吾妻は若干顔をひきつらせながらも僅かに頬を紅潮させ、きまり悪そうにそっぽを向いた。
「うーん、君、どこかで見たことあるような気がするんだよねー、出身、横須賀だったりする?」
「あたしは横浜生まれだ」
「あちゃー、なんだっけなあ、う~ん!モヤモヤする~!」
芽衣はさっきまで腰に両手を当てながら、前かがみで吾妻を覗き込んでいたかと思えば、今度は頭を抱えてジタバタと首を振った。。
「もしかして!」
ハッとしたように閃は顔を上げた。
「閃ちゃん、何か分かったの!?」
芽衣は閃の肩をがっしりと掴んで、瞳を真っ直ぐに見つめた。
「いえ、分かったというか、なんとなく、ですけど……」
困惑したような表情から一転、閃は悪巧みをするようないやらしい笑みを浮かべながら吾妻に視線をやった。
「坂上先輩、もしかして不良だからブラックリストに載ってるんじゃないですか?」
ギクッ、と、あまりにもわかりやすく肩を震わせた吾妻を横目に、芽衣は付箋がたくさん貼り付けられたメモ帳のようなものを取り出し、パラパラとめくり始めた。
【鎌倉学府 要注意人物リスト】
芽衣は閃と二人で、そのリストに目を通し始めた。そして、
〈坂上吾妻 第一高校(3年)〉
「ああああーーーーっっっっ!!!!」
口を揃えて叫んだ。