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日常4 ~まったり学園らいふ~

 ほたるたちが体育館に入ってからしばらくして、始業式が始まろうとしていた。


 紅葉ヶ丘高校は、春に球技大会というイベントを催し、競技によっては体育館内で行われる。そのため体育館はかなり大きく造られており、式のためだけに使うのであれば、かなり余分なスペースができる。


 生徒のざわめきが徐々におさまり、最近髪の生え際が後退したと噂の校長の、演説が始まった。


「皆さん、おはようございます」

おはようございまーす、と生徒たちがてきとうに返す。

「皆さんは春休みはどうのように過ごしましたか?事故や事件の知らせもなく、皆さんが今日無事登校できたことを嬉しく思います。しかし、一つ残念なことがありました。今朝のことです」

何か怒られるのかなー、という空気が少し流れる。

「皆さんはこの学校の校訓を覚えていますか?校訓の一つに、魔法に依存しないというものがあります。それを実現するために、登校の際は魔法を使わないことを決めています。ところが、それを守らなかった方がいます。神道しんどう先生です」

先生が名指しされたことに、生徒たちがどっと沸く。


 ちなみに、早く登校するために使えるような都合のよい魔法を使う人間など、ほとんどいない。本来魔法は一人ひとつしか使いこなせないうえに、生まれつき使える魔法は決まっているので、もし素早く登校するためだけの魔法を持って生まれてきたとしたら、それはそれで悲劇だろう。


 校長が話を続ける。

「神道先生の家は、当校からあまり離れておりません。で、あるにも関わらず、彼は徒歩でも車でもなく、魔法で登校されました。彼にはしかるべき罰を受けていただきましょう」

やれやれー、と生徒たちが盛り上がる。神道先生は茶目っ気があり、生徒の間では人気の教師なのだが、こうして魔法で登校し、集会時に何かをするのはよくあることで、一種のお決まりになりつつある。


「神道先生、どうぞこちらへ」

と校長に促され、神道先生がマイクの前に立った。

「スピーチでも、していただきましょうか。テーマはなんでも構いません」

と校長に言われ、神道先生はゴホン、と一つ咳払いをして、生徒の方を向いた。


 神道先生が口を開く。

「えー、魔法を使ってしまった神道だ」

生徒たちが歓声を上げる。

 神道先生は話を続ける。

「そうだな、今日は、春休みに出会った少年K君について話そうと思う。その子とは、近くの町で定期的に開かれているピアノの発表会で出会ったんだ。私がその発表会に行ったのは、それが初めてだったんだがね」


 少年Kについて名前は伏せられていたが、螢の顔が一気に渋面になったので、螢の周りにいた生徒は、話に出ている少年が螢のことだと分かった。現場をその目で見ていたあかりいさむは、吹き出しそうになるのを必死でこらえている。


「K君はそこそこ長身だし、顔も悪くないと思うのだが、体力が全然ない。すでに近畿魔導士ランキングに登録されているような子だから、魔法を使うセンスはずば抜けているのだろうが、私は正直、パッとしない子だと思っていたよ」

先生ひどーい、と野次が飛ぶ。

「だから、K君がピアノの発表会に来ているのを見つけたときは、驚いたよ。彼にこんな趣味があるのか、と思ってね。ところが、彼はもっと私を驚かせてくれた。私はてっきり、彼はピアノを聴きに来たのだと思っていたんだ。だが、彼は演奏しに来ていたんだよ。彼の弾いた、ドビュッシーの月光を聴いたとき、私は感動したよ。彼にこんな特技があるのか、と思ってね。」


神道先生は、一度言葉を切った。

「そこで、私は生徒諸君にもそんな特技を持ってもらいたいと思う。特技があるというのは、素晴らしいことだ。自身になるし、なにより夢が広がる。君たちはまだ若い。ぜひとも頑張って、夢を広げていってくれ。としたところで、スピーチを終わろうと思う」

と言って、神道先生はマイクから離れた。


 校長は、神道先生に代わってマイクの前に立った。

「ありがとうございました。案外ちゃんとした内容だったので、内心ほっとしています。続いて、表彰式を行います。呼ばれた生徒は前に出てきなさい」

そして、始業式はつつがなく進行していった。


 その日の帰り道。

「螢くん、また発表会に出てたの?言われたら行ったのにー」

 臨光のぞみが、螢の顔を仰いで言った。

「臨光は来てもすぐ寝るじゃん」

と、すぐに螢が言い返す。

「俺が主人を起こせば済む話だろう」

日昏ひぐれがまともなことを言う。だが、

「日昏の起こし方はいちゃいちゃしてるようにしか見えないんだよっ!」

と螢に否定された。しかし、

「他人の目など知ったことか」

と日昏は強情であり、ついでに話しながら臨光の髪をくしゃくしゃしていたりする。

「やっぱりあれ神道だったね~災難だったわね~」

と、景は楽しそうに螢を見る。

「なんでお前は楽しそうなんだっ!」

螢は叫ぶが、

「体力ないのにそんな叫んで大丈夫か?」

と、勲にからかわれて勢いがそがれた。ただ、叫んだ勢いで息切れを起こしている。


「よくやるよな、ほんと」

と、勲が呟いた。

「体力皆無なのにね」

と臨光。日昏は

「叫んだだけでこの始末」

と鼻で笑い、

「馬鹿だね~」

と景は笑った。

「うるせー……」


いじられ続ける、螢だった。

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