日常3 ~まったり学園ライフ~
自転車の旅を終えた螢たち三人は、自転車置き場からさらにもう少し歩き、校舎内の教室に入った。クラスメートは三年間変わらない。そのため、教室の場所が変わっただけで、教室内にはいつもと変わらない空気が漂っていた。生徒の話声がうるさくない程度に響き、準備をしている生徒もいれば、その話声すら疎ましく思う静寂好きな読書家もいる。やはり高校二年生にもなると、進級しただけではあまり新鮮味は感じられないのだろうか、と螢は思った。
そんな螢を横に、背の低いショートカットの少女が景に話しかけていた。
「おはよー景ちゃ~ん」
「おはよう臨光。相変わらずちっさいわね~」
「うっさい!!!」
と臨光が叫ぶ。必死な臨光を見て、景と勲は笑った。
源臨光は、名字から察せるように、起源の魔導士である源一族の人間である。剣道二段の実力者で、現在、景無という名門家に居候中である。
「あまり主人をからかわないでくれるか」
と、臨光の後ろから声がした。声の主は、黒髪黒眼、長身イケメン系男子の景無日昏という男である。
景無日昏は格闘術を心得すぎている男子で、臨光に宿を貸す代わりに、臨光の護衛を務めている。黒色が好きなようで、年中黒いマフラーを巻いており、かけている眼鏡の縁も黒い。マフラーに関しては教師が何度言っても巻くのを止めず、その家柄も相まって教師は皆注意するのを諦めている。ただ、それが似合っているかどうかと聞かれると、微妙である。ちなみに、臨光のことを主人と呼ぶ理由は、臨光以外知らない。
「主人は十分自分が小さいことを自覚している。改めて言うこともないだろう」
と、日昏が言った。臨光の顔がショックであふれる。
「うわーひどい。からかうなって言ったやつのからかいかたが一番ひどい」
と景が評する。それに続いて螢と勲も、
「最低…」
「筋トレをする者の風上にも置けないな」
とそれぞれの価値観で評価した。臨光はただただしゃがみ込んで、グスングスンと言うばかりである。
「日昏だけは信用してたのに……」
「それは悪いことをしたな。主人は自分が小さいことを自覚できるだろうと思えるぐらい小さいから、言っても構わないかと思った」
「ちっさいちっさい言うなー!!!」
と臨光が喚く。その必死な顔に、今度は全員が笑った。実際は誰も本気で臨光をけなしているわけではないし、臨光もそれが分かっているので、いつもこんなコメディチックなやり取りになってしまう。
ちなみに、五人は中学時代からの付き合いである。
間もなく、担任がやってきて、
「始業式もうすぐだぞー。体育館いけよー」
と指示したので、生徒たちはぞろぞろと体育館へと向かい始めた。今日は授業がないので、生徒たちの顔は気楽なものである。ただ、学校が始まってしまったという事実に対する憂鬱さも、全くないわけではないようだった。
ただ、晴れやかな空と春の陽気は、確かに生徒たちの進級を喜ぶようだった。