プロローグ
これは、もう数百年も前の話。
当時ほとんどの人類が知らず、現在では知らない者のいない昔話である。
1833年。スウェーデンのストックホルムで、アルフレッド・ベルンハルド・ノーベルは生まれた。機械や爆発物の製造で成功した父を持つノーベルは、自身も爆薬の研究にのめりこんでいく。
1864年。水中爆発実験を成功させ、特許を獲得したノーベルは、別の実験を弟エミールと開始。しかし、その最中に起きた爆発事故によって、ノーベルは弟と五人の助手を失う。これは、彼にとってかなり大きな精神的ショックとなった。
1865年にノーベルが製造した雷管は、危険すぎるということで、軍には採用を拒まれた。その後、安全性を高めた爆薬を製造し、ダイナマイトと名付け、生産を開始する。この事業は成功した。そうした活動の裏で、ノーベルは極秘に弟を蘇らせる研究を始めた。
1875年。弟の蘇生研究を進める中で、「奇跡」と呼ばれたものに着目し始めた。その二年後、「奇跡」が人間の生まれつき持つ何らかの力と関係することに気付く。現在、この力は魔力と呼ばれている。
1833年。現在の魔法の基礎がほぼ完成される。自分が生きている間では、魔法の完成はなされないと感じたノーベルは、石油会社を建設するなどの目くらましをして研究が政府にばれることを避けつつ、信用できる五人に研究の援助を依頼する。この五人の一族が、現在の「起源の魔導士」たちである。7年後、魔法の基礎が確立された。
1896年。アルフレッド・ベルンハルド・ノーベル死す。その後、ノーベルの魔法研究を助けた五人によって、魔法の研究は続けられる。魔法研究はそれぞれの一族で代々なされ、周囲への沈黙は保たれたまま、およそ四百年にわたってこの状態は続いた。
その四百年の間に、五人の一族は拠点も国籍もばらばらになるが、研究は合同で行われた。そのうちの一人の一族は姓を源とし、日本人国籍となる。
2317年。ロシアの反政府グループによってロシアのモスクワが襲撃された。その際、モスクワで研究をしていた一族も巻き込まれ、混乱の中で、魔法研究の経過報告書が盗まれた。やがて反政府グループは、その報告書の重要性に気付き、間もなく、各地で魔法を用いた武力行為が行われる。
2320年から始まった、ロシア政府と反政府グループの間で始まった武力衝突では、ロシア政府が圧倒され、23年に、ロシアは反政府グループによって制圧された。ロシアは、魔法国家カンダルと名前を変える。事態を重く見た五人の一族は、各国の政府に魔法研究報告書を提出し、魔法の存在が確かなものとなる。この事実は世界を激震させ、アメリカを中心に魔導国家連盟が創られる。
25年。東京が襲撃されたことで、戦争に加わることを拒んだ日本も、ついに連盟に参加する。
その後、カンダルと魔導国家連盟の戦争は激化し、二つの間で停戦協定が結ばれた。
それから三十余年。現在に至る。