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刻印所持者の魔法  作者: 紅ノ月
1章:三度の喪失
8/26

8話:刻印所持者、不思議な気持ちに悩む

12月24日修正しました。

- 刻印所持者の魔法 8話 リメイク -

 女神は純白な派手ではない清楚なドレスに身を包み、ベッドに座っている。

 髪は白く、その白は俺が今まで見てきた白とは天と地ほどの差があった。その差とは何者にも侵されない、侵してはいけない。そう思わせるような色だった。紅い双眸が俺を見ている。だがその視線は鋭くトゲのあるものではない。むしろ、あたたかく安心するような視線だった。そして何より

 ――美しい。

 今、目の前にいる彼女は『美』そのもので存在自体が美しい女性である。俺は目の前にいる女性が世界で1番美しいと断言出来る。



 見つけた。この女性だ。俺の1番の女性だと宣言できる。

 脳は落ち着いているはずなのに、心臓が煩く鼓動を鳴らしている。

 俺はたどたどしい足取りで女性に向かって歩く。震える手をのばし、彼女に触れようとする。彼女との距離はそんなに遠くないはずなのに何故か遠い。俺では一生届かないところに彼女はいる。あまりにも遠い……諦めようとして、その場で立ち止まった。刹那、俺の胸を中心に衝撃が走った。思わず一歩下がってしまった。俺は下を見ると彼女が俺に抱きついていた。彼女から俺の方へと来たのだ。



「ぁあ。やっと……やっと出会えた……」



 透き通る声が部屋に響く。

 ……俺はこの声を聞いたことがある……?

 少しだけ考えたが心当たりがない。それに今のこの状況では頭もまともに回らず、空回りしてしまう。

 今気づいたが、俺の目から何かが流れている。止めたくても止められなくてそれはとめどなく溢れてくる。

 どうして俺は泣いているんだろう。どうしてこんなにも懐かしいんだろう。

 どうしてか、その答えは彼女が知っている気がする。でもきっと教えてくれないだろうし俺も聞こうとしないと思う。……でも今だけでも自分の想いに正直になってもいいよな?









 あれからどれだけの時間がたっただろうか。あのあと、俺も彼女に抱きつきずっとそのままだった。最低でも5分はたっていたと思う。時折いい香りが俺の鼻腔をくすぐり、色々と危なかったがなんとか大事に至らなくてよかった。



「……ええと、貴女は?」



 よくよく考えてみれば見ず知らずの女性に5分も抱き着いていたなど俺は大変なことをしでかしたのではないかと今更ながら気付く。だが、彼女はそんな事は一切気にしない様子で話し始める。



「私はセラフィロア。よろしくお願いします、バレ……蓮斗」

「ああ。よろしく――ん? なんで俺の名前を知ってるの?」

「……いつか、きっと思い出しますよ。その時にわかるでしょう」



 思い出す……? ってことは俺がなにか忘れているのか? ……だめだ、全然思い当たらない。

 俺が思いにふけっているとセラフィロアが俺の首に手を回し、ベッドに座っている俺の足に跨りまた抱き着く。



「セラフィロア?」

「私のことはセラでいいです。……もうちょっとこのままでいいですか?」



 俺もセラに抱き着き返す。どうにも抱き着く、という行為が癖になってしまいそうだ。セラの温もりが感じる。ついさっき出会ったばかりだけれど昔に出会ったのではないかと……いや、恐らくセラとは昔会ったことがある。きっとそれを俺が忘れているだけなのだろう。

 だんだんと俺の瞼が重くなり、船を漕ぎはじめた。



「――あなたに私の全てを捧げます」



 その言葉を聞いた頃、俺は意識を手放した。









「……朝……?」



 目を覚ました数秒は頭が回らなかった。ボーッと目の前の景色を眺めるだけだった。ただ、膝の上にあったものがなくなっているのに気がついて急いで辺りを見渡す。

 セラの姿はなかった。夢だったのだろうか、それともセラは帰ったのか……。説はいくらでも思いつくが俺にとって必要なことは、『また、セラに会えるか』だった。

 また、セラに会うことができるように俺は願った。この気持ちはなんだろうか。決して悪い気分ではない。



「あなたに私の全てを捧げます――か」



 最後にセラが残したと思われる言葉をポツリと呟き、俺は部屋を後にする。

 その時、俺の口には普段浮かべるような緩い笑みではなくすこし影が映った笑みを浮かべた。


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