7話:刻印所持者、また一ヶ月後に
12月24日修正しました。
- 刻印所持者の魔法 7話 リメイク -
あの犬は、大人しく街から出ていったようだ。それにしてもあんなにたやすく街に入ってくるなんてこの街の警備は一体どれだけザルなんだろうか、もしかしたらここも安全ではないのかもしれないな。
今回みたいに俺の身に危険が迫るような事態に陥った時、俺だけでも対応できるようにしたい。
と、夜にルルナの部屋に訪れて希望を伝えたら渋々だったのだが先程のことも考えると承認せざるを得なかった。
「……わかりました。明日から兵士たちと一緒に訓練を受けてもらいますが大丈夫ですか?」
ルルナは笑ってはいたがやはり心配だという表情の方が強く読み取れた。
本当、ここまで来ると逆に怪しく感じるな。俺がひねくれているだけかもしれないがな。
「うん、ありがとう。それじゃあおやすみ。あまり遅くならないように気をつけてね」
「はい、お気遣いありがとうございます。おやすみなさい」
俺はゆっくりと部屋の扉を閉めた。そして、薄暗い廊下を蝋燭を持って歩いて行った。このまま、部屋に戻ろうかと思ったのだが考えてみればこの世界に来て初めての夜ではないだろうか。そう考えると1度、外に出てこの世界の夜を体験するのもいいかもしれない。
なるべく、音は立てないようにして扉を開けた。そして、上を見上げるとそこには満天の星空が広がっていた。これには正直、驚かされた。どこを見ても一等星だらけで、眩しく感じるほどでもあった。
これは、もしかしたら俺が今たっているこの星の他にも人間が住める星があるのではないだろうか。それでも、そこまで行く方法どころか確認すらできないのだろうが。
そういえばこの世界にも、星座はあるのか? もし、あるのであれば何個か知りたいな。流石に何十個も覚えるつもりはないので嗜む程度にしたい。
「レント様? ここで何をしているのですか?」
「ん? ああ、ルビア。ちょっと、星が見たくてね。この世界の星はあの世界よりもずっと綺麗だから、見とれていたんだ」
「ふふっ、レント様はロマンチックな方だったのですね」
「そんなんじゃないよ」
俺は近くに生えている木に、背中を預けた。蝋燭の火が燃え移らないように、木から離して置いた。すると、ルビアも俺の隣で背中を気に預けていた。
「それと、忠告なのですがこの世界の住人に星の話はやめておいた方がいいですよ」
「ん? なんで?」
「実は、はるか昔に人間は超越した力を持った生命を創り、その力を利用しようと考えていたのです。その時に神様が神罰として1つの星を降らせたという神話があるんですよ。その話は次々の世代に伝わり、時が経った今でもまだその部分に神経質な人もいるのであまり表立って言うのは避けておいた方がいいですよ」
「へえ、そうなんだ。これからは気をつけておくよ。それはそうと、その昔話ってもっと詳しく知りたいんだけど……」
情報収集も兼ねてもいいが、その類の話はかなり俺の好みだったりするのだ。日本にいた頃だってよく神話ものを読んでいたものだ。
「そうですか? 少し長くなりますが、私がお話いたしましょうか?」
「いいの?」
「はい。お安い御用です」
「それじゃあ、お願いするよ」
「それでは……ごほん――」
「――という話があったのですよ。どうでしたか?」
「うん。とてもためになる話だったよ。ありがとう……そろそろ、遅いから部屋に戻ろうかな?」
「そうですね。私も、屋敷に戻るとします」
ルビアから、神話を聞いている時に俺は奇妙な感覚に襲われた。初めて聞く内容だったのに、何故かルビアの話している次の展開が読めてしまうのだ。それも、すべて的中していた。
そして、その話の内容を理解した瞬間に無性に部屋に戻りたくなったのだ。普通に考えるとありえないはずなのに、絶対にいると確信を持っているのだ。
半分ほど溶けてしまい、下の皿の部分に蝋燭の溶けた液体が固まってしまった蝋燭を持ってなるべく早く部屋に帰ろうと歩幅を広くして廊下を走るようにして歩いた。部屋の扉の取っ手を掴んだ。その扉はいつもより重く感じたのは気のせいだったのだろうか。
そしてそこに――''女神''がいた。