6話:刻印所持者、変わった魔物に出会う
12月24日修正しました。
- 刻印所持者の魔法 6話 リメイク -
「おっと、お嬢さん。私を召喚してくださった方ですよね。んー」
勇者もどきはルルナを見て声をかけると値踏みをするようにまず頭に視線を向け、そして顔、胸と視線を落とし足まで行ったと思うと今度は逆に足から視線を上げていった。最終的に一往復することになった。
「ふむ、顔は本当はもっと色っぽい方がいいがまあ及第点か。胸は……うん、これは大丈夫だな。あとは……まあ俺好みに育てればいいか」
いや、本当にこいつは何を言っているんだろうか。まさか、ついに現実と区別がつかなくなったヤバい奴か? ふざけて言っていても、あまり良くないがこいつに限っては本気で言っているようなのでよりタチが悪い。
「レントさん……」
ルルナも、あまりの視線の気持ち悪さに近くにいた俺の袖を握り体の半分程を俺の後ろに隠れるようにしている。あの視線は正直言って、男女関係なく気持ちが悪いと思う。
例えるならば、ゲームの操作キャラクターとして見られているような感覚だ。
「さあ! 俺と一緒に世界を救う旅に出掛け――ぶへっ!」
本格的に、どうしようかと迷っていたところ那月さんと瑠璃香が動いた。無駄な動きひとつなく、自称勇者のヤバい奴の後ろへまわって、那月さんが腹部に蹴りを入れた。さらにその同時に瑠璃香も反対側から頭に蹴りを打ち込んだ。結果は当然のごとく、姿勢を崩し地面に倒れた。倒れた時に頭を強打したようで気を失ったようだ。
「さて、この変態ナルシストをどうする? さっちゃん」
「そうね。いっその事燃やしちゃえば良いんだけど、一応勇者らしいから仕事をやらせましょう。永遠に」
那月さん今さらっと恐ろしい事言ってたけど大丈夫か? って、一発殴って意識を奪ってしまう瑠里香……今度から怒らせないようにしよう。今の俺では意識を奪われるどころか首の骨を折られて命を奪われてしまう……。
ずるずるとルビアに引きずられていく勇者……一生来なくていいぞ。
「それで、相談したい事ってなんだ?」
「は、はい。実はこの屋敷には男物の服が少なくて、お金を渡すのでルビアと一緒に買って来て欲しいのですが……それとナツキ様とワシザキ様も服とか必要な物が欲しいと思いますので一緒に買ってきて欲しいのですが」
「お気遣いありがとうございます。私の事は紗耶香と呼んでください」
「私の事も瑠里香で良いよ〜」
「そうですか。でしたら私の事もルルナと呼んでください。それと予算の方ですがお1人につき1万ゼファーとなります。もし足りなければ私に言ってください」
1万ゼファー。日本円にするといくらになるんだろうか。そこは店を見てからじゃないとわからないな……。という事で早速街に行くことになった。
「いやあ。今日はいい天気だね」
「……」
「そうですね。そういえばレント様ここ、ミステリオ王国は季節によって極端に寒いか暑いかのどちらかなので気をつけた方がいいですよ。今はそうでもないですがこれからもっと暑くなりますよ」
「……」
「そうか、じゃあ体調管理も大変だな」
「……」
「……」
「ん? どうした?」
一歩離れたところに那月さんと瑠里香がたたずんでいる。驚いた様な表情で俺の事を見ているが俺にはなんのことかサッパリだ。
「いや、あの、その動物達は……?」
そう、今俺の周りには動物だらけで肩に鳥が、足元に小型の動物が沢山いる。その光景にルビアは何も気にしていない様子だが、那月さん達は気になる様だった。実はこれは神聖刻印の能力ではない。単に俺が動物に好かれている、というだけ。
「ああ。俺は動物に好かれる体質で、よく出かけると俺の周りはすぐに動物でいっぱいになるんだよね。……異世界でもそれは一緒か」
「へえ。蓮ちゃんモテモテだね〜」
「動物に好かれてどうするって話なんだけどね」
そのあとは俺達はそれぞれ服を買ったり、必需品を買い揃えたりした。俺が店を回り、計算したところ1ゼファー約100円だという事がわかった。ってことはルルナが渡してきたのは100万円!? それをポイと渡してくるところが流石お嬢様ってところか……。
俺達は屋敷に戻り、買ったものやらを整理していた。時間は夕方でそろそろ日が沈みそうだ。
夕焼けの太陽が俺の部屋の窓から見える。元の世界ではこんなに綺麗に夕焼けが見えなかっただろうが、恐らく空気が日本よりも何倍も綺麗で澄んでいるからだろう。
何もすることが無いのでボーッとベッドで横になっていると何やら外が騒がしい。気になるので部屋から出て、屋敷を出る。
そこには何人もの兵士がいて緊迫した雰囲気が漂っている。そして、その中にルルナとルビアもいた。
「ルルナ、ルビア。何かあったの?」
「あ、レントさん。実はこの付近で魔物が発見されたと報告を受けまして、今その魔物の探索しているところなんですよ」
「え? それって結構やばくないか?」
「いえ、その魔物はオルトロスといって、高い知性を持った魔物なので危険ではありますが知性が高いのもあって我々が危険視されなければなんの問題も無いはずです」
へえ。ちょっと見てみたいな、そのオルトロスって魔物。……あれ? なんか物陰から巨大な生物が俺の事を見てない? もしかしてあれがオルトロス?
そこには全身が紫色の狼のような動物がいる。鋭い牙と爪を持ち、赤い目をしている。
さらに俺が見たことがあるような狼のような大きさではなく、ライオンや虎よりもうひとまわり大きい。
取り敢えず正面から行くと危ないと判断した俺は恐らくオルトロスであろう動物に見つからないように迂回して後ろに回った。
「さて、後ろに回るのはいいんだがそのあとのことを考えていなかったな。……よし、そろそろ奴の後ろに――」
俺は近くの草むらに隠れて後ろに回ろうとして漸く奴の背後に回ることに成功した。本当ならば草をかき分けてやっと、奴の後ろ姿が見えるはずだった。
のだが――俺が見えたのは涎を滝のように垂れ流しながら獲物を見る目で俺を凝視しているオルトロスの姿だった。
「ギャウッ、ギャウッ!」
「おい、コラ! 俺を舐め――ぶっ。やめ――」
俺を見つけた途端に前足で俺の体を固定して、棒付きキャンディーのようにペロペロと舐めている。おかげで、俺の服と顔はびしょ濡れだ。
「……なんだ? 魔物って大きくなった犬か?」
「――レントさん!」
俺の声でも聞いたのかルルナを筆頭に人が集まってきた。盾を持った騎士達が前に出てルルナたちを守っているようだ。
「レントさん無事ですか!? 今そちらに行きます!」
「なりません! ルルナ様、危険です!」
どうやら、ルルナと騎士が揉めているようだ。こうなったら、ことの発端であるこの犬を追い払うしかあるまい。
「おい、犬。今日はもう帰れ」
「クゥーン……」
くっ、その捨てられた子犬のような目をするな!
「また今度、遊びに来ればいいだろ? 今日はそれで手を打ってくれ。頼む」
「バウッ」
今更だが、この魔物はかなり知能が高いようで俺の言葉を理解しているようだ。魔物みんな、知能が高いのだろうか。
それにしても、こいつが人類を苦しめているとはな。いや、ここは異世界だぞ? もしかしたら1匹とはいえ強力な力を持っているかもしれないな。油断は禁物だな。