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刻印所持者の魔法  作者: 紅ノ月
1章:三度の喪失
3/26

3話:刻印所持者、神聖刻印を手に入れる

12月24日修正しました。

- 刻印所持者の魔法 3話 リメイク -

「うぅ、ん」



 薄らと目を開ける。まず最初に感じたのは胸から下にかけての重量感と温もりだった。そして次に目に入ったのは俺が凶悪なアレにより意識を失った部屋の天井だった。



 そして、重量感と温もりの原因となっているルルナさんへと視線を向ける。幸い、俺が窒息で気絶した後にルルナさんが下の方へと移動してくれたようだ。俺は寝ているルルナさんを起こさないように周りを見渡す。さっきまで窓から太陽の光が大量に入っていたのに今ではすっかり太陽の光など姿形も見当たらない。



 テーブルの上に3つに別れている燭台が置いてあり、ささっている蠟燭の火だけがこの部屋の光源となっている。蠟燭の火はぼうっと静かで穏やかに燃えている。その火が発する光はなにか、嫌なことを忘れさせてくれる様なそんな気がする。蠟燭の穏やかに燃えている火を見ていると、次第に瞼が重くなる。そして俺はまた意識を深淵の闇に手放した。









 あれはいつの事だっただろうか。

 俺が『特別』を忌み嫌い始めたのは――



 俺の目の前には制服を着た少女が立っている。そして何故か顔の部分だけ絵の具をぶちまけてしまったように真っ白だ。怪奇的なその景色に普通ならば恐怖を抱き、声をあげて驚いてしまうだろう。

 だが俺はその少女に恐怖を覚えることは無かった。そう、恐怖を抱くことは無かった。



だけど俺はどうしてかはわからないが涙が目からこぼれる。そのこぼれた涙はやがて頬を伝い、地面に落ちる。色々な感情が俺の中で渦巻いてなんて表現すればいいのかわからない。



『――。――――――。――――。』



 どうやら彼女は何かを喋っているようだ。だがその言葉が俺に伝わることは無い。聞き返そうにも何故か俺は声を出すことが出来ない。俺はなんとか声を出そうとするが俺の口から出るのはきちんとした声ではなく中身のこもっていない掠れた声のみ。



 彼女は静かに踵を返す。遠ざかってしまう彼女に手を伸ばすが手は届かない。だんだんと離れていく彼女を追いかけて走るがそれでも追いつかない。俺は走っていて彼女は歩いているのにますます距離は離れていく。

 全力を出して走り、もう1度身体に力を入れるために目を瞑り下を向いた。









「レントさんッ!」



 目を瞑った瞬間に体が1度、大きく跳ね上がる。そして、その瞬間に体から力が抜けるのと疲労感を感じた。



「う……ル、ルルナ……?」



 思わず、ルルナさんを呼び捨てで呼んでしまったことに少し経ってから気がついた。だが、ルルナさんはそれを気にする様子はなかった。それよりも心配そうな顔をしたルルナさんがいた。

 今のは夢だったのか……。

 外ではすずめのような鳴き声が聞こえる。朝だということを教えてくれているようにも感じる。元の世界ならばいい朝だ、と思えたのかもしれないが今ではそんなことは微塵も思えない。夢のこともあったのだが今、俺の服が汗でグッショリだ。おかげで気持ちが悪い。



「大丈夫ですか? 相当うなされてましたけど……」

「ああ。ちょっとした悪夢をみた気がする」

「そうだったんですか。あ、お風呂に入りますか? 汗を沢山かいた様ですし」

「そうだね。お願いできる?」



 俺はルルナさんに案内されて浴場まで移動した。どうやら俺がうなされている間ルルナさんがずっと俺の名前を呼んでいてくれたらしい。何度呼びかけても起きなかったと言われた時は本当に申し訳ないと思った。あのままルルナさんが俺を起こしてくれていなかったら俺はどうなっていたのだろうか。と、その時ルルナさんが「着きましたよ」と言う。



「着替えは後から持ってきますので」

「わかった。それじゃあ入られてもらうな」



 俺はルルナさんに断りをいれて風呂へと向かう。

 流石と言うべきか、元の世界日本では決してお目にかかれない様な豪華な浴場だった。この浴場はただ豪華なだけではない。どこか神聖な感じがする浴場だった。

 俺も風呂を見ただけでこんなに感動するとは思っていなかったのだが、この景色を見たら誰でも感動するに違いない。



 俺は一人で納得して頷いていた。眺めているだけでは時間の無駄なので早速入浴することにした。ちなみにもう体は洗い終わっている。マナーだからな。風呂の水は透明ではなく白く濁っている。試しに浸かってみるとその水はどうやら肌に効果をもたらすらしく腕をさするとツヤツヤのなっていた。



「――あつっ!」



 突如、焼かれたような痛みが俺の左腕を襲う。思わず左手を反射的に振り払い、甲を見ると何かの刻印みたいなものが刻まれていく。その刻印は手の甲をはじめとして手首に伸びていき、肩あたりで止まった。俺はその刻印がステータスではないかと考えた。早速ルルナさんに聞きに行くために風呂から上がり、ルルナさんが用意してくれた服を着て、浴場から出る。だが、1つ問題が起こった。



「――ここどこだ?」



 俺はこの城の構造を覚えていないどころではない。そもそも知らないのだ。その知らない城でどこにいるのかわからないルルナさんを見つけろなど、無理に決まっているのだ。

 俺が半分諦めかけていたところに奥からメイドさんがやって来るではないか。今度こそ救世主だと信じたいものだ。



「もうご入浴は良いのですか?」

「ああ、ルルナさんに聞きたいことがあるから探しているところなんだ」

「それでしたら今お嬢様のご命令でレント様のお迎えに来ましたので案内いたします」

「それはありがたい。よろしく頼む」



 良かった。今回は救世主ようだ。

 俺はメイドさんと一緒にルルナさんのところまで案内してもらうことになった。俺はそこで気になっていたことについて聞いてみた。



「そういえば、この明かりとか浴場にあったあの石ってなんなんだ?」

「あれは魔法石です。魔石に魔法の術式を埋め込み、魔力を送ることで発動できるのです。明かりや水に変換するだけでしたら触るくらいで発動できます」

「触るだけで?」

「ええ。魔力を持つものならば常に微弱の魔力を発しているのです。単純な魔法石でしたらその微弱な魔力で使用することが出来るのです」



 ああ。だからステータスを作るのに密着しなくちゃいけないのか。

 今まで疑問に思っていたことが解消できたので少しスッキリした。とはいえ、あのことを許すつもりは無い。



 それはさておきステータスといえばあの刻印をルルナさんに見せる前にメイドさんにも見てもらい、この刻印がなんなのか聞くことにした。俺は服の袖を捲り、メイドさんに刻印を見せる。



「なあ、この刻印ってステータスなのか?」

「え? え!? こ、これは! ちょっ、ちょっと来てください!」



 俺はメイドさんに腕を引っ張られて連れていかれる。思ったよりも力が強く、腕が千切れてしまいそうだ。それにあの冷静沈着なメイドさんがここまで取り乱すとはこの刻印はそんなにヤバイ代物なのだろうか。

 やっと、メイドさんが走るのをやめて扉の前で止まった。そしてそのまま扉を勢い良く開けた。木の扉を勢い良く叩いた事で特有の音が響き渡る。扉の先にはメガネをかけて机と向かい合っているルルナさんの姿があった。どうやら事務の仕事をしていた様で机には大量の紙が積み重なっている。



 恐らく昨日は殆ど俺のステータス作りに時間を費やしたせいで仕事が溜まっているのだろう。

 そんな中、メイドさんは気にもせずテンションを高くして俺の腕の刻印をルルナさんに見せる。



「お嬢様! 見てください! 神聖刻印(しんせいこくいん)ですよ!」

「――えええええぇぇぇぇぇ!?」



 メガネをかけたルルナさんの叫びが屋敷に響き渡るのであった。


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