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刻印所持者の魔法  作者: 紅ノ月
1章:三度の喪失
24/26

24話:刻印所持者、理不尽を思い出す

 俺は毎日、訓練を欠かさず取り組んだ。そして、今第7月が終わろうとしている今日。俺たちは教室に集められていた。



「そろそろ、お前らにも実戦経験を積ませる。まず手始めに魔物を狩ることから始める。よし! ギルドに向かうぞ!」









 そして、俺たちが連れてこられた場所はこの街の中で1番大きいと思われる建物だった。入口は住宅と違って扉が無い。出入口は大きく、何十人が一気に出入りしても差し支え無いだろう。中に入ってみれば20人以上の受付がいてその上には『依頼受付所』『依頼報告所』『素材買取所』など数えるときりがないほどの種類の看板があった。



「まずお前たちには、《冒険者》になってもらう」

「冒険者?」

「ああ、魔物を討伐したり依頼をこなすことで生活を成り立たせている人のことだ。今日は、お前らもアイラウラーになってもらうためにここに来た。冒険者になるための登録料金は負担するが、それ以外のことは自分たちでやるんだ。あとは面倒だから受付で聞いてこい」



 グリムは面倒だからといって、残りの説明は受付の人に任せた。俺たちは、しぶしぶ受付に向かい登録しに行くことになった。文字がわからない者達は俺から文字を学んだ紅が説明をしている。

 俺は説明している紅たちを置いて女性がいる受付に向かった。



「すまない、登録したいんだが」

「育成学校の方ですね。話は伺っております。まず、登録するにはこの登録用紙に従って記入してください。文字が書けなければ代筆させていただきますが」

「いや、大丈夫だ」

「かしこまりました」



 紙には、名前、年齢、使える属性魔法、得意な魔法、固有魔法、剣術についてなど色々なことを記入しなくてはいけないようだ。俺は面倒だと思いながらもしっかりと記入していく。最初は嘘でも書こうかと思ったのだが、受付の女性にもし、嘘を書いた場合はペナルティが課せられますのでお気を付けてください。と言われてしまったので仕方なく本当の内容を記入している。嘘を見抜くことができる何かがあるのかわからないが、最初からペナルティを負うのは結構厳しいと考えたのだ。



「……ここに書いてあることは本当ですか?」



 受付の女性が目元をひくつかせる。きっと、俺が書いた内容が原因だろう。自分は超天才です。とナルシストじみたことを宣言しているのとほぼ同じことを書いているのだ。それでも、俺は嘘を書いてはいない。すべて事実なのだ。



「本当だ」

「……少々、お待ちください。その間、冒険者についての説明書でもご覧になってください」



 そう言って渡されたのはなかなかに厚めの本だった。まず最初に、開いたページには冒険者とはなにか。という説明が書いてあった。これはグリムが言っていたこととほぼ同じだったのですぐに別のページへと移った。



 冒険者になって良いこと悪いこと。

 冒険者になるには、登録料の他にも毎月50ゼファーを支払わなくてはならない。もし、支払えなかったら冒険者の資格を剥奪する。

 冒険者の資格を持っている人には色々な特典が手に入る。素材の高額買取、装備やポーションの値下げなどがある。



「へえ、毎月50ゼファーか……毎月5000円か。魔物の素材買取額にもよるな」



 毎月の50ゼファーに少しばかり不安を抱きつつ、考えているとさっきの受付の女性が帰ってきた。



「お待たせしました。お話がありますので移動をお願い致します」



 反抗してもいいことは無いため、大人しく受付の女性について行く。

 ついて行った場所はとある個室だった。女性が2回ノックをすると部屋から入れ。と声がした。声からして男性のようだ、それも相当な高齢者だ。女性がドアを開け、俺に入るように促す。



 そこにいたのはソファーに座り十分すぎるほどに髭を蓄え、されどもその目は普通の老人ではないことを物語っている老人だった。



「お主が、登録用紙に巫山戯たことを書いた小僧か?」

「いきなりだな……。そうだ、残念なことにな」



 俺は、ソファーに座り老人と向かい合う。少しの間、静寂が支配していたかと思っていたが微かながら賑やかな笑い声や話し声が聞こえる。そして、ついに老人が口を開いた。



「はあ、まったく……。最近の若者はホラばかり吹きよる。同じ、嘘をついて注目を集めたがる阿呆は何人もいたぞ? どうせお主も同じ輩だろう? あのグリムの下で鍛錬しておると言うからどんな強者かと思えば……」



 老人が、やれやれと身振りをする。別に、そこまでは気にすることはない。一応、こんなことになるとは予想がついていたのだ。いちいち気にしてたら心身持たないだろう。

 それに、どうでもいい奴の信用なんてあっても無くても変わらないしな。



「これだから、甘ったるい世界で生きてきた若者は――」

「シャルル」

「なっ!」



 シャルルは、老人の後ろからダガーで首を切る寸前までいっていた。もし、俺が止めなければ老人の首と胴体は悲しいお別れをしていただろう。

 すると、老人は何を思ったのか目の前の机を叩き、大声を出した。



「嘘がバレたら今度は脅しか! それもこんなに幼い少女を使って! この屑が!」

「――ッ!」



 シャルルは、声にならないほどに苛立っている。それはもう、睨みつけるだけで相手を殺せる勢いで老人を睨んでいた。場違いな思考だが俺はそれほど、シャルルに思われていると考えると思わず口元が綻んだ。



「何を笑っておる!」

「いや、別に。この世界でも同じだなぁって思っただけだ。それと、さっき書いた用紙の内容、火魔法だけで他は空白でいい」

「ふん、ついに本性を表しおったな?」



 ああ、そうだった。これがいつものこと。セラやルルナたちが優しすぎて忘れていたよ。これが本来の形だということに。理不尽で残酷だった。何度、平等という言葉を聞いたことか。全く以て反吐が出る。



「貴様に、このいたいけな少女を保護させる訳にはいかない。わしが預か――」

「――行くぞ」

「了解です。主様」



 俺とシャルルは、老人の言葉を無視して部屋を出る。シャルルは部屋を出た瞬間に姿を消してもらった。後ろで、老いぼれがなにか叫んでいるが気にせず離れていく。



 今日、俺は魔法という世界の理不尽から抗う術を身につけると決意した。もう、何も失わずに済むように。だから――



 ――俺からだけに奪わせやしない。


 


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