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刻印所持者の魔法  作者: 紅ノ月
1章:三度の喪失
19/26

19話:刻印所持者、魔法を使う

 洋館を出て、再び街に戻った俺は約束通りに育成学校に向かった。だが、妙に人だかりができていて不思議に思った俺は近くの人に聞いてみた。



「何があったんだ?」

「勇者らしいわ。それも10人以上はいるって話よ」

「10人?」

「あら? 知らないの? 勇者召喚は公爵家の貴族全員が行ったのだけれど成功したところが、たしか……フェンル家とオブゾール家だけだったかしら?」



 ルルナが召喚した勇者は1人。そして、仮にあいつがあそこにいるとしてオブゾール家が召喚した勇者は9人以上。

 だが、勇者は一度の召喚でそんなにもたくさん現れるものなのだろうか。

 疑問に思うところは沢山あったが、取り敢えず約束の場所まで向かった。



「ありがとう。助かったよ」

「いいえ。またなにか困ったら言ってちょうだい」



 俺は人混みをかき分け、なんとか約束の場所にたどり着くことができた。そこには高校生と思われるような男女がいた。不良っぽい男、怯えて不安そうな女の子と様々だったが本当に勇者なのだろうか、と考えてしまった。そもそも言ってしまえば勇者の定義がよくわからないのだ。もしかしたら、貴族によって考え方が違うのかもしれない。俺はそんなことを考えながら昨日の公爵の男を探した。

 この時に精神的に不安定な部分がある彼らに近づくという俺の行動がいけなかったのか少し、面倒なことが起こった。



「おい! お前、さっきから俺たちの周りを彷徨いてなんの用だ!」

「は?」



 俺は不良っぽい男に肩を掴まれ思わず声を出す。



「は? じゃねぇんだよ。俺たちに何の用だよ」

「いや、俺は人を探しているだけなんだが……」



 俺が反抗しても得があるわけでもないようだし、俺は両手を上げて敵意が無いことを伝えようとする。だが、彼らもつい最近に召喚されたばかりなのか俺の存在は不安を煽ったようで集まっている高校生の中の誰かがボソリと呟いた。



「……もしかしたら僕たち、勇者を暗殺しに来たのかも」



 その言葉は、一気に不安を掻き立てる一言となった。それは高校生だけでなく、見に来ていた一般人の人たちにも広がりちょっとした騒ぎとなっていた。そんな中、パン!パン! と2回、手を叩く音がした。後ろを振り向くとそこには背中に大剣を携えた男がおり、そんな大剣を振り回せるのかと思ったが男の筋肉を見る限りどうやら問題はないようだ。



「よーし。お前ら落ち着け。そいつは暗殺者じゃあないし、たとえそうだとしても俺がいれば問題ない。さあ、お前らも仕事に戻れ! ……勇者の奴らは俺について来い。俺が一人前になるまで鍛えてやる、っとそうだ」



 男は、見に来ていた人たちに声をかけ騒ぎが大きくなる前に解決した。更に、勇者を育成する係のようでそれっぽいことを言っている。

 そして、何かを思い出したようで男は俺に近づいて歩き何気ない顔で蹴りを入れる。俺は警戒していたおかげでなんとか回避をすることに成功し、バックステップして距離をとる。

 ……やっぱり、身体能力が上がってる。

 つい最近の俺だったら今の攻撃はかわせなかっただろう。

 俺はさっきいた場所を見ると地面が抉れていて、それは男の蹴りの威力を物語っている。男は俺が避けたことに驚いたのか少し口を開けたまま俺を見ている。



「まさか、俺の蹴りをかわせるとは思っていなかったな……」



 多少なりとも、自分の身体能力に自信があったのだろうか。何あともあれ、この男の前で気を抜くとすぐに殺られそうだ。きっと、男が本気を出せば今の俺なんて赤子同然だろう。



「なんで、俺を攻撃する? 俺はお前になにかした覚えはないんだが?」

「俺にじゃなくて依頼主の貴族に何かしたんだよ。昨日な」



 俺はこの世界に来て早速、誰かに恨まれるようなことをしてしまったようだ。

 昨日? 俺は昨日、何かしたっけ?

 昨日のことを思い出してみたが、イマイチ覚えていない。



「いや……覚えていないな」

「ま、俺には関係ないことだ。取り敢えず、鍛えるのと同時にボコボコにしろと依頼されているんだ。依頼はきちんとやり遂げるさ。」



 どうもこの男はよくわからない。依頼内容を対象である俺にばらす上に人事のように言っている。もしかしたら男のその強さが余裕を招いているのかもしれない。日本にはすぐに足元をすくわれる人間ばっかり見てきたのだが、この男は全くそうは思えない。

 危機感を覚え、すぐにこの場を離れようとしたのだが



「よし! それじゃあ早速、鍛えるから専用の教室に移動するぞー! 勿論、お前もだぞ」



 男は逃走を許さなかった。俺は変に逃げて攻撃されるくらいなら大人しく言うことを聞こうという結論に至った。

 高校生達にも困惑は見られたが、男のあの蹴りを見せられた後では反抗する気にもなれないようで大人しくついて行っている。俺は男と距離を保ちつつ、ついて行った。









 着いた先はちょっと広い教室のような場所だった。どうやら、座る席は自由らしくそれぞれ仲の良さそうなグループで集まっていた。俺は男からいちばん離れた後ろの角の席に座ったのだが、さっきの男とのやりとりがあったせいで近づこうとする人はいない。おかげで俺の周りには謎の空席が生まれることになった。



「よし。じゃあまずは俺の自己紹介をさせてもらう。俺はグリムだ。一応冒険者をやっている。ビシバシお前らを鍛えるから覚悟しておけよ?」



 俺達も自己紹介をしなくてはいけないのかと思ったが、どうせ顔見知りばっかりなんだから自己紹介は要らねぇだろ。と言って省略された。

 不安も募り、だんだん重い雰囲気になってきた。そろそろ家に帰りたい、日本に帰りたいと強く思い始めてくるだろう。



「本当は剣の鍛錬をしたいんだが、先に魔法の鍛錬を優先する」



 『魔法』という単語に反応を見せる者達が現れた。やはり魔法に興味や、もしかしたら憧れなんかもあるのだろうか。皆はグリムの言葉を食い入るように聞いている。



「まずはお前らにこの紙を配る。そして、この紙に手をかざしてその手に意識を集中させろ。そしたらその紙に自分の魔法の模様が現れる。基本的には火や水、土などの単純な物体が絵として現れることが多いがもしかしたらとある事に特化した魔法の可能性もあるかもしれないぞ」



 各自、紙を貰った人から自分の魔法を確かめていった。意気揚々としながら友達と、お前はなんだった? 俺は水だった。などの話し声が聞こえる。俺も自分の魔法を確かめるため、紙に手をかざして意識を集中させた。

 だが、何秒たっても紙に絵など現れない。40秒、50秒と時間が経ち1分が過ぎようとしていた。周りの人たちが次々と終えていく中、未だに現れないことに焦燥感を覚える。



「うぉ!? 勇志(ゆうし)の魔法すげぇ!」

「なんだこれ!? 勇者か!?」



 声のする方へ、目を向けるとひとりの男子を中心に囲むように円ができていた。人混みの中で一瞬だが紙に古代人が残したような絵が描かれているのが見えた。1人の男性が光り輝く剣を片手に持って天に掲げている様子の絵だった。正しく、その姿は勇者と呼べるものだった。



「お、それは勇者の魔法か。魔法の中でも頂点に位置するもので使いこなせばほぼ最強と言えるだろうな」



 グリムのその説明は更に彼らを興奮させた。どっ、と教室内が騒がしくなり耳を塞いでしまいたくなるほどだった。そこへ、グリムが一言を入れた。



「今後、訓練する時はよく勇者と比べられることがあるかもな」



 比べられる。勇者の最強の魔法と、自分の魔法が。それは即ち、自分の魔法がどれだけ劣っているのか証明されることと同義である。それを想像した俺を含め、教室内の人間は苦虫を噛み潰したような顔をした。その上、俺はまだ自分の魔法がなんなのかもわかっていない。俺はより、手に意識を集中させた。

 たのむ……! 特別、すごい魔法じゃなくてもいいから……!

 そっと、目を開けると紙の上から順に焦げ目がついていく。出来上がった絵は、さっき見た勇者と同じく古代人が残したような絵だった。何人かの男がいて、腕を曲げてポージングをとっていたり、遠くの物を見ていたり、小さい音を聞いていたりしていた。これを推測すると、身体能力上昇なのではないだろうか。

 取り敢えず、魔法が無い。なんてことではなくて良かったと安堵する。



「よし、それじゃあ。次は剣の鍛錬も兼ねての魔法の鍛錬だ」



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