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刻印所持者の魔法  作者: 紅ノ月
1章:三度の喪失
17/26

17話:刻印所持者、そして洋館と少女

タイトルとあらすじを大幅に変更しました。

 育成学校。そこは魔物と戦ったり、街の警備をしたりする兵士を育てる学校。数多くの若者が兵士に憧れてこの学校に入学する。

 そう聞いた俺はどんな、屈強な男達が出てくるのだろうかと妄想を広がらせる。まあ、俺みたいなヒョロヒョロな男なんて学校側にいい顔なんてされないだろうな。

 俺は呑気にそんなことを考えていた。



「今日はもう遅いから、明日から授業を始める。それではまた明日ここに来い」

「は?」



 俺をここに連れてきた男達は馬車に乗り、街へ向かって走っていった。呆然とする中、第7月――夏の熱気が俺を襲う。

 気にしないようにしていたが、流石にそろそろ限界だ……。

 日が落ちたとはいえ、夏は夏。それも日本にいた頃よりも暑く、このままだと死活問題にまで発展してしまう。今日は宿で過ごそうかと思ったが俺は屋敷にお金をすべて置いてきてしまいなんと無一文。俺は頭を抱える。



 セラとデートした時に街をひと通り見て回った。そして当然、街に住んでいる人や働いている人たちを見掛けた。俺の見る限り、その人たちには少なからず貧富の差があった。

 これを基に推測するとこの国は資本主義、またはそれに近い考え方をしている。

 つまり、何が言いたいかというとこの国では金がないと生きていけない。というわけである。



 そもそも、この国には国王という存在がいる。確かに、『国王は君臨すれども統治せず』という立憲君主制が成り立っている国の可能性もある。だが、その可能性が限りなく低いと考えた。俺がここに来た理由、それは国王の命令。そして国王の命令は絶対。つまりは、絶対王政というわけある。

 そんな、絶対王政をやっている国で人権、自由権、社会権等が認められている可能性はほぼ0に等しい。認められていたとしても法律の範囲内でだろう。

 絶対王政をするということは国民の意見は全く聞かないということ。

 んー、これだと生活保護なんてしれくれなさそうだな。



「はは……本当に野宿するしか無さそうだぞ?」



 俺は汗でぐっしょり濡れている服の襟を掴んで軽く引っ張った。



「はあ……川探すか」









「ぷはっ。あ〜、生き返る」



 この国はアメリカや日本等の先進国はおろか、発展途上国と比べても文明は劣っていると言える。だが、それ故に地球で大きな問題となった環境問題とは無縁らしい。その証拠に俺が今飲んでいる川の水は透き通っており、ものすごく美味しい水だ。



 ''ぐぅ~''

 やはりとてもではないが、水だけで腹を満たすのは無理な話だったのかもしれない。動物を狩ろうにも辺りは真っ暗で狩るどころか動物を見つけるのも困難だ。

 ここは動かず、黙って寝床を確保しようと考えた俺は近くにある木に寄りかかった。風呂に入らず1日を過ごすことは少々、気持ちが悪かったがこれも異世界の厳しさなのだろうか。次、風呂に入れる機会があるとすればきちんと念入りに体と服を洗おうと考えながらそっと目を閉じた。



 それから1分経つか経たないかというところで強い風が吹く。丁度寝る寸前だったのだが、強風が邪魔をするかのように吹いた。



「うぅ……強い風だな……ん?」



 少し目を開けると、森の奥で一瞬光が見えた。そのまま寝てしまってもいいのだが風のせいで眠気が吹っ飛んでしまい、どうせなら光の正体確かめに行こうと思った。

 そこまで遠くないところにそれはあった。

 長い間放置されたようで雑草や蔦などが好き放題に生えていた洋館だった。洋館の周りは雑草だらけとはいえ洋館を中心にかなり広大なスペースが広がっている。木々は綺麗に伐採されたようだ。

 こんな、森の中に一軒だけぽつんと建っているのに疑問を覚えるがこれはこの洋館の所有者が趣味でこの森に立てたのかもしれない。

 勝手に入るのは不法侵入かもしれないが、この洋館には人が住んでいる様子はない。

 ここは異世界だ、バレなければ問題ない。それにもしかしたら、ナイフとか便利な道具が手に入るかもしれないな。

 俺は少々、心を躍らせながら入口に向かった。



 木製のドアは、キイィ、と甲高い音をたてた。中は赤い絨毯が敷かれていたり、大きなシャンデリアもぶら下がっていて、その辺の知識が皆無の俺でもかなり豪勢な洋館だというのがわかった。

 埃っぽいが我慢して進む。取り敢えず、赤い絨毯が続いている道を歩こうと考えたその時。



「お待ちしておりました。我が主よ」



 その声とともにシャンデリアに火がつき、部屋が明るくなる。その声の招待は俺のすぐ目の前にいた。俺に跪いている女の子だ。その女の子は跪き、頭を下げているせいで長い銀髪の髪が床に落ちそうになる。



「主……?」

「はい」



 女の子は下げていた頭を上げて俺の顔を見つめる。顔つきは幼くまだ未成年だろうか。だが、その少女の目はしっかりと俺を捉えて覚悟を決めたような表情をしている。

 だが、いきなり主と決めつけられどういうことか全く理解できない。



「詳しく言うと私がそう言っているだけで実質まだ、主ではありません」



 少女は白がベースのゆったりとした和服を着ていて、立ち上がり説明を始める。



「結論を言うと私と契約して願いを叶えて下さい」



 いきなり契約とか言われてもつい最近まで日本で生活していた一般人Aに言われてもどう対処すればわからない。

 それになんのメリットも無しに願いを叶えるのは危険だ。それも異世界の地にもなるとただ、困っているからといって助けるのはあまりにも危険すぎる。

 どうやらその辺は考えていたようで



「ちなみに私と契約をするとこの洋館は我が主の所有物となります」



 話を聞くところ、この屋敷は持ち運びができるるらしくいつでも出すことができるらしい。ただしMPという名の精神力を使うらしくこれは魔法を使う時にも消費するそうだ。



「なるほど……じゃあ、お前の望みはなんだ?」

「とある貴族から仲間を救いたいです」

「仲間を……?」

「はい。つい最近、私達はいつも通りに旅をしていました。……そこで、とある貴族が雇った冒険者が私の仲間を襲い、そして攫ったのです……!」



 少女は心底悔しそうに拳を握る。きっと、仲間を助けてあげることができなかったからだろう。自分にもっと力があれば、強ければ仲間を救えたのに。

 ふと、昔の自分の姿と重なる。俺も、もっと俺がしっかりしていればと思ったことがある。だが、どんなに悔やんでも時間は戻らない。次の行動を考えなければいけない。



「どうか! どうか私の仲間をお救い下さい!」



 少女は目に涙が溢れながらも俺に助けを乞う。彼女にとって、雲をつかむような希望だったとしてもそれにしか縋るしかない。勢い余って、俺の服を掴んで必死に懇願する。



「お願い……します。何でもしますから……仲間を、助けてください……」








「……ああ、わかった。お前の望みを叶えてやるよ」



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