【霧】 doubt ~fact、の、続き~ ※
この作品は、前回のジョン・ドウさんによる「fact」を受けて、霧原菜穂さんが書いてくださった続きです。
霧原さん、ありがとうございます!
(ちなみにこのお話、ボイスドラマもあるのですが、後程改めてアップしますのでお楽しみに……みらくるまじかるぱわー炸裂ッ!)
雛菊から衝撃の……でもどことなーく果てしなーく曖昧な事柄を告げられた統治は、1人、仙台支局に戻り……自分の席で、Yah◯oのトップ画面を見つめていた。
「厳密に言うと繋がりともちょっと違うんですよね…何といいましょうか…その人を形作る要素の一つ…因子みたいなもの、それが同じなんです」
「はい。さっきも言いましたが、同じ因子を持つ人が出会うこと自体が珍しくて、興味深いことなんですから。あ、あの日はお疲れになりませんでした?」
「そのあたりのことは私もあんまり知らされてないんですよね…。とりあえず平たく言うと、おもしろいからやっちゃえーみたいなノリなんだそうですけど」
彼女は最後まで笑顔で「深刻になる必要はない」と言っていたが、やはり、気になってしまう。
自分と同じ声を持つ他人との出会い、因子、高次元の存在……自分の身の回りでは、一体何が起こっているのだろうか。
雛菊が解説役を担っている時点で、既に自力ではどうしようもないような、至極面倒な事態だということは嫌でも分かる。名杙としても、彼女と関わるのは最低限にしておきたいのだ。雛菊によってもたらされる利益は確かに大きいが、その分のリスクも計り知れない。それは、秋に起こった一件(※)で、統治自身も身にしみていることだった。
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※ボイスドラマ「エンコサイヨウ四重奏」のことですね。いろんなキャラが入り乱れて仙台を駆けまわっておりました。再アップ待ってますよ霧原さん(笑
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とはいえ、統治がリスク覚悟で雛菊と接触した理由、それは……。
「やはり……同じだった」
一度目はまさかと思った。でも、二度目には確信に変わる。
雛菊と分町ママ――この『東日本良縁協会仙台支局』を見守る『親痕』――も、声が同じなのだ。
トーンや喋り方の特徴は違えど、根本的に同じだということが分かる。確信に至る根拠は全くないが、直感でそう感じたのだ。
政宗やユカが気付いているかどうかは分からないが、そんな話になったことがない。
統治1人だけが確信を得ている理由、それは……恐らく自分が、彼女たちと同じ因子を持った存在だから。
「――あら、お困りかしら、統治君?」
刹那、天井付近から声が聞こえる。見上げると、ワイングラスを手に持った分町ママが、ゆったりと統治を見下ろしていた。
「分町ママ……」
「そろそろ私に聞きたいことがあるんじゃないかと思ってね。雛ちゃんと会ってたでしょう?」
「雛ちゃん……やはり、知り合いだったんですね」
「まぁね。知り合いというか、飲み友達というか、ソウルメイト的なサムシングというか……一言では言い表せない関係なのよ」
「はぁ……」
頬を紅潮させて饒舌に語る分町ママ。コレは、ひょっとしなくても、もしかして……。
「分町ママ……大分酔ってますよね?」
「出会いから話すと長くなるけど、聞きたいー? 聞きたいわよねー☆」
聞きたい気持ちはあるし、そのほうが強い。ただ……統治は知っていた。ここから語りだす分町ママは果てしなく自分語りが長くなると。
コレはいずれ、ママの飲み相手となる政宗と、年齢がセーフティーネットとなって冷静に話を聞いてくれそうなユカがいる時に、改めて問いただすほうがよさそうだ。
そう判断した統治は、分町ママから視線をそらし、再びパソコン画面を見つめる。
「今日は……遠慮しておきます。まだ、自分の中できちんと整理出来ていないので」
「えぇ~? そーんな堅苦しいこと言わないで~ママの話を聞いて頂戴よ。そうなの、あれはまだ、私が死んだ直後のことなんだけどねー」
「聞いてないのに勝手に話し出す……!!」
統治が顔をしかめ、イヤホンをしようかと本気で検討に入った次の瞬間――
「――あら、楽しそうな会合ですね。是非、私も混ぜてもらえませんか?」
閉ざされている扉を背にして、コチラへ笑顔を向けるのは……分町ママと同じ声帯を持つ、例の彼女だった。
彼女――雛菊は硬直する統治へ笑顔で近づき、「ハロー」と手を振る分町ママに「ごきげんよう」と笑顔を向ける。
「というか、先ほど別れたばかりなんですけどね、私たち」
雛菊の姿に気がついた分町ママは、好機とばかりに目を輝かせる。
「雛ちゃん雛ちゃん、統治くんが私たちの出会いについて聞きたいって言っているから、2人して話をしてあげましょうよ」
「あら、そうなんですか統治さん。しょうがないですねぇ……分かりました、ただし、女性の話が長くなるのはご愛嬌ですよ」
「いや、俺は、その……」
狼狽する統治を無視して、2人は着々とどこからともなく取り出したアルコールをセッティングしていき……そして……。
「さぁ、二次会の始まりですよ」
雛菊の声が宴会の開幕を告げた瞬間、統治は自分がこの場から逃げられないことを……諦めるしかなくなった。