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trip! -the special collaborations-  作者: 霧原菜穂、ジョン・ドウ、水成豊
18/18

【水】 しもばしら ※

『先程駅に到着しました』


とある平日、正午を少し回った時間。

スマホに届いたメッセージを確かめ、佐藤(さとう)政宗(まさむね)はコートの襟を立てると仙台駅へと向かう足を一層早めた。冬から春へと移りゆく季節、寒の戻りの冷え込みの中、ぺデストリアンデッキを渡り正面口から中へ入る。思いのほか人で混む駅コンコースをみやってから、目的の場所たるステンドグラスの前へとやってきた。

「どこかな」

以前『仕事』で一度会ったきりだが、その見姿は未だしっかりと思い出せる。ぐるりとあたりを見回していると。

「政宗さん!」

向こうもどうやら同じだったらしい、目が合うと右手を上げて合図しながらこちらへ駆け寄ってきた。朗らかな笑みに、こちらも釣られて頬が緩む。

「久しぶりだねアーツくん」

ようこそ仙台へ、と右手を差し出すと、眼前に至った黒髪の青年、アーツ・ラクティノースが嬉しそうに握り返してきた。

「ご無沙汰しておりました。『対談』の時以来ですね。お元気そうでなによりです」

「君もね。前に会った時より少し背が伸びたんじゃないか? 若者の成長は著しいなぁ」

まさか、と照れつつ手を離し、少し弾んだ息を整えてから改めて向き合う。

「突然連絡してしまってすみません。しかも同行してくださるなんて……なにかとお忙しい時期でしょう?」

「ああ、それは気にしないで。たまたま仕事が一段落したところだったし、『忙しい時ほど上司が積極的に休んで周りを気遣え』って追い出されてきたクチなんだ」

渡りに船だよと苦笑を返す。そうして、知人の来訪を報告するや早々に送り出してくれた同僚達をしばし思った。

「というわけだから、早速だけど行こうか」

「はい」

歩き出した自分の後を彼もついて来る。隣に並んだところで再び声をかけた。

「駐車場までは歩きだけど……寒いのは平気?」

「ええ。俺の地元も北国ですから、このぐらいの寒さならまったく気にならないですよ」

共に外に出てビル風を浴びつつ、これが若さかと少し年寄りじみた感想を心の中で漏らす。

「今回来た目的は『霜ばしら』だっけ?」

「ええ。ほかにもいくつか頼まれてるんです。『ご当地スイーツは現地で買ってこそ価値がある!』って繭玉(グレート・マザー)に持論を展開されまして」

「だからって、アーツ君を呼びつけることもないだろうにねぇ」

「それは……もしかしたら、俺の希望を叶えてくれようとしたんじゃないかと」

「え」

「前に政宗さんにお会いしてから大分時間が経ってしまって。世の中の風潮もあるし、なかなか行動する()()()()を得られずにいましたから。そのあたり、案外気にかけてくれていたのかもしれません」

そんなもんかな、と返してちらと彼の横顔を見上げ覗う。普段共にいる友人たちとは違った距離感、交わす言葉に触れる人柄、空気感。まるで異世界に迷い込んだかのごとく感じる、新鮮さと高揚感は、まさしく非日常を前にしての至極当然な反応で。自分にもまだそんな心の余地があったのかとにわかに照れが湧く。

「『おつかい』ねぇ」

思わず口をついて出てしまったそれ。「どうしました?」と隣で首を傾げた彼に、ふふ、と小さく笑ってから、寒さに丸めていた背を伸ばし揚々と答えた。

「ほかならない君の頼みだ、頼れるお兄さんが完終(かんつい)をお手伝いしようじゃないか。ついでに」

「ついでに?」

「こっちもこっそり仕返しの一手でも仕込んで、貸しを作ってしまおうか」


共犯を誘う、声を潜めての不穏な提案。

そうして返ってきたのは――きっと今の自分と同じ――わくわくに満ちたいたずら小僧の表情(かお)だった。





以前主役ボイス対談企画でお世話になったお二人に、何かお返しできないか&後日譚を書けないかとずっと考えていたのですが……こんな感じで再会してたらいいなぁという繭玉の願望だだ漏れな小話です。

勝手にお二人の声で脳内再生して萌えました。ありがとうございました(?)



そして今回登場のスイーツは、有名な季節限定のあの銘菓!


『霜ばしら』

https://www.tamazawa.jp/products/detail.php?CN=302945


一度食べたらやみつきになること間違いなし。サクサクの食感と甘さがたまりません……ぜひご賞味あれ!

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