僕と彼女のそれぞれの嘘
僕は、あの日、あの時、咄嗟に思わず、口を開いてしまった。
「僕は…」
彼女は、僕を見ている。
少し間が空く。
「僕は…あなたの婚約者です!」
僕は、あの時、何故か、彼女を前にして、思わず、嘘を付いてしまったのだ。
あれは、10月のことだった。
僕は、今、結婚式場にいる。
これから、結婚披露宴が始まる。
時間になると、音楽が流れ始め、式場が一瞬にして、静まる。
すると、少しして、扉は開き、真っ白なウエディングドレスを着た、彼女が目の前に現れる。
微笑みながら、彼女は、自分のお父さんと腕を組んでシルクロードを歩く。
ゆっくり、ゆっくりと。
彼女は、彼のところへ少しずつ進んで行く。
その前で待っている彼は、彼女を待っている。
彼の元へ到着すると、彼は、彼女の手を取る。
そして、神父さんが、口を開き、話し始める。
最後には、あの定番の愛の誓いのキス。
僕は、そんな彼女に見惚れてしまった。
だって…
今までに見た彼女の中で、美しいから。
大人びており、優しい微笑み。
幸せそうな顔。輝いている。キラキラと。まぶしい。
………
あっという間に、式が終わり、食事会になった。
彼女は、来てくれている人達に気遣い、お酒の瓶を持ち歩き、
「飲みますか?」
そう聞きながら、ズルグルと回りながら、お酒をグラスに汲んでいく。、
彼女は、微笑んではいるが、目が少し寂しそうな目つきをしていた。
僕は、彼女を目で追ってしまった。
幸せそうな顔をしていた彼女が、この場では、そうではなく、悲しそうに感じたのは、気のせいだろうか。
僕は、お酒を飲み干していた。
そこにちょうどよく、彼女が来た。
そして、
「飲む?」
そう話しかけて来てくれた。
「あー、うん」
彼女は、僕の持っていたグラスにお酒を注いでくれた。
グラス一杯に注がれ、白い泡がプクプクとしている。
僕は、口を開き、問いた。
「早川さんは、飲まないの?」
「…」
少し間が空く。
「うん…」
「…そっか…」
少し気まずくなった中、彼女は、口を開く。
「あっあっあのね…」
何かを話そうとしていたが、
「西村さん、お酒、お願いします」
その声に反応する彼女。
「はっはい…」
行こうとする彼女の腕を掴んだ。
彼女は、僕の方を振り向く。
「あっあっあのさ…」
聞こうと、僕に耳を向けるが、
「まだか!」
その声に彼女は、
「はっはい…今、行きます…」
少し再び気まずい空気が漂う。
「…」
行く前に僕の方を向いて、
「ちょっと、行ってくるね」
そう言う。僕は、首を縦に振った。
しかし、彼女は、彼のところへ戻って行ってしまった。
その彼女の結婚式が終わり、数日経った時のことである。
同窓会の日だった。
1ヶ月前に来ていたハガキ。
僕は、行く予定なんてなかった。断り続けていた。
しかし、同窓会の日の前日、僕の親友である、今も時々飲みに行ったりもする、智弘と飲んでいた。
「なんで、来ないんだよ!」
「なんでって…」
彼の言葉に僕は、困惑する。
「来いよな!」
「だから、行かないって」
「来い!来ないと、もう、一緒に飲んであげないからな」
「…あっそう…」
「あっそう、じゃねえよ」
「来いよ、絶対!」
彼のあまりのしつこさに、
「わかったよ、行くよ!」
「絶対だぞ!」
「うん…」
彼は、嬉しそうな顔をしながら、
「まだ、飲むだろう」
そう言い、僕が答える前に、グラスにお酒を注いだ。
その帰り、彼は、酔い、彼を送った。
「着いたぞ!」
そう言うと、
「うーん…」
僕は、家に彼を置き、
「じゃあな」
「うん…」
僕は、その帰り道、歩いていた。
「やっ…止めて!」
誰かが叫ぶ微かな声が聞こえた。
その声に僕は耳をすます。
すると、中で、女の人が叫んでいるのだ。
……
どうしたらいいものか…
勝手に侵入するのもな…このまま、放っておいて帰るのもな…
そのドアの前で、行ったり、戻ったりを繰り返していた。
悩み続ける。ううろうろとしながら。
ドアの取っ手を持つたびに、少し気まずい感じがする。
色々なことを考えた結果…
僕は、勝手に足が先に向いていた。知らないうちに行動に出ていた。
「しっ…失礼します…」
そっと、中へ入って行くと、男の人は、暴れている。
部屋中にお酒の入っていた缶、瓶、飾ってあった写真立てなどの物があっちこっちと転がっている。
男の人が部屋中にある物を投げているのだ。
女の人は、部屋の隅っこで、身体が震えさせながら、小さくなっていた。
時には、女の人に向かって投げつけている。
突然、物を投げることだけでなく、大声を出したり…
僕は、女の人を見た瞬間、目を見開いた。
目の前の女の人は、同級生であり、同じクラスが続いた高島真帆さんだったのだ。
僕は、彼女と一度付き合ったことがある。
1ヶ月で、振られたが。
「あっあの…」
僕は、その男の人に向かって口を開いた。
恐怖がありながらも、緊張感が走る中が続く。
「はぁ?」
すごい険しい顔をした男。まるで、ヤクザのようである。
「ぼっ暴力は、如何なものかと…」
「はぁ?」
少しずつ、僕に近づいて来る。
「あっあの…」
僕は、後ろへ、彼が近づいて来る分だけ、下がる。
しかし、壁に当たってしまった。
逃げることができない。
行き止まりになってしまった。
恐怖が走る。心臓がばくばくと驚いている。
険しい顔をしながらの男の人。
その男は、僕に近付き、足を止め、
「お前、何、勝手に、人の家に入って来てるだよ!あー!」
頭が真っ白になる。
さらに、恐怖が走る中、
「痛っ!」
「何すんだよ!」
さらに怒ってしまった男の人。
彼女が彼の背中に、卵を投げつけたのだ。フライパンも持っている。
さらに、男の人の顔に卵を投げる彼女。
戦う態勢になりつつ、手足が少し震えている。
しかし、
「今のうちに!」
「え?」
「いいから!」
彼女は、僕の腕を掴み、その場から、走り出しながら、去って行った。
「お前ら、ふざけんな!」
その男の人の声が耳に残った。
必死になって走った。
少し遠くまで走った後、止まる。
「はあはあ…」
「はあはあ…」
二人して、息が荒い。
その姿を見て、彼女は、微笑んだ。
そして、僕の名前を読んだ。
「日向じゃん!」
彼女が思い出したかのように、言う。
「……」
「日向、久し振りだね」
「…そうだね…」
「元気だった?」
「うん….」
「そっちは?」
「…」
少し間を空けてから、
「うん….」
彼女は、それから、夜空を見上げ、口を開く。
「前にも、こんなこと、あったね」
「え?」
少し間が空く。
「あの時も、日向、私を助けてくれたよね」
「……」
ぼんやりとした暗い中にいる彼女の顔は、優しかった。
「あー!なんで、私、こんないい男を振っちゃったんだろう…」
即座に答えてしまった。
「…良くなんか、ないよ….」
僕も夜空を見上げる。
彼女は、首を横に振る。
「私にとっては、ずっと…日向は…」
少し間が空く。言葉を溜める彼女。
風が優しくそっと、一瞬だけ、吹いた。吹き終わると、
夜空を見上げながら、
雲から月が顔を出した時、
「ずっと、私のヒーローだよ!今も!」
そう少し口元が上がりながら、言った。
その夜、途中で、一度、彼女と分かれたが、
「日向!」
「…」
僕は、その声に振り向いた。
「うん?」
そう言うと、
「明日、同窓会、来る?」
少し戸惑いながらも、
「…うん…」
彼女は、微笑みながら、方向を変え、手を振り、その場を去って行ってしまった。
僕は、その後、真っ直ぐ、家に帰った。
その日は、来てしまった。同窓会の日である。
仕事が今日は休みであり、彼に、連れて、行ったのだ。
最後の最後まで、行くつもりは、全然なかった。
しかし、僕は、この場に着くと、見つけてしまったのだ。
店のドアを開けただけなのに、まだ、探してもなかったのに、彼女を見つけてしまう。
ずっと、好きだった人、ずっと、片思いをしていた人。
彼女とは、隣の席になった時、話した。
地味であった僕に対して、微笑みながら、
「おはよう、日向くん」
勝手に一目惚れした。
その彼女を見つけたのだ。
「おい、日向、久しぶり!」
高畑くんがそう言うと、
「久し振り…」
「ここ、空いてるぞ」
僕は、誘導されたままに、その席に座る。
彼女の座っているところから遠い。
彼女の薬指には、婚約指輪が付いていた。
結婚してるんだ…
ショックを受ける。
そんな時、
「日向、飲むか」
「あー」
グラスに注がれるお酒。
僕は、
「ありがとう」
そう言い、クラスを持ち、口に運ぶ。
「はーぁ、うまい!」
微笑む友。
僕は、ついつい彼女を見てしまう。
少しして、席に関係なく、自由に動き回っていた。
僕は、一人でただ、飲んでいた。
その時である。
「日向くん!」
僕の名前を呼ぶ声。優しい声。
彼女だったのだ。
僕の隣に座り、
「久し振りだね」
「…うん…」
固まる僕。緊張する僕。
「元気だった?」
「…うん…」
成り立たない会話。
「改めて、結婚、おめでとう….」
「あっありがとう…」
少し気まずい空気が流れる。
「日向くん、どんなところで働いてるの?」
「…直ぐ近くの工場で….」
「そっか…」
「はやか…、西村さんは?」
「私は…今、事務やってるの」
「そうなんだ…」
「西村さん」
「はい…」
「帰り、大丈夫?」
彼女の友達の由那ちゃんが声をかける。
彼女は、鞄から、スマホを手にし、画面を光らせ、時間を見る。
「かっ帰ります…」
「ごめんね…また、機会があったら話そうね」
そう言い、彼女は、行ってしまった。
しかし、帰り道の途中のことである。
隼人から電話があった。
「うん?」
「日向?」
「そうだけど…」
「西村さんが…」
僕は、自分の耳を何度も疑った。
嘘だ…そんな…
僕は、必死になって、気が付いたら走っていた。
病院にいた。
「あの!あの!」
息が続かない。はあはあとしている。
「にし…西村さんは…」
「お知り合いですか?」
「はい…」
看護師さんに案内された。
ドキドキが止まらない。
頭が真っ白である。
はあはあ、息が続かない。
1日、病院の椅子に座って、待つことしか、出来なかった。
彼女との面会は、翌日の朝だった。
「大丈夫ですよ」
看護師さんが言う。
僕は、看護師さんに案内され、彼女がいる病室に連れて行かれた。
彼女が眠っている病室のベットの前で、足を止める看護師さん。
僕に椅子を用意してくれた。
「ありがとうございます…」
看護師さんは、微笑みながら、会釈をして行ってしまった。
彼女は、まだ、目を覚めないようだ。
僕は、椅子に座り、彼女の横にいた。
目を開かない彼女の手を、何の迷いもなく、握った。
起きますように。起きますように。
と祈りながら。
ただ、握り続けていた。
翌日もその日もその次の日も、毎日通った。
それから、1週間経った時、彼女のお母さんと旦那さんが来ていた。
お母さんは、泣いている。
彼は、彼女のお母さんに寄り添いながら、慰めていた。
その時、僕は、その病室のドアの向こうにいた。
涙が流れる音をその時、初めて知った。
さらに、1週間経って、僕が彼女の側にいた時だった。
僕は、彼女の側で眠っていた。
手を握りながら。
彼女は、目を開いた。覚ましたのだ。
まだ、目が開いていない僕。
目を覚ました。
すると、幹にシワを寄せて、
「あなたは、誰ですか?」
そう聞いたのだ。
僕は、呆然とした。
看護師を呼ぼうとした。
しかし、手が止まった。
そして、僕は、言ってしまった。
僕は、君に、嘘を付いてしまった。
「僕は…日向と言います、君の…」
暫く間が空いた。
言っていいのだろうか…
僕の中に、天使と悪魔が出て来て、僕は…
悪魔の方に惹かれてしまい…
嘘を付いた。
「僕は、君の、婚約者だよ」
記憶をなくした彼女は、呆然としている。
それもそうだ。
そして、ここから、僕は、彼女を連れ出してしまった。
彼女との日常、1日目。
何の迷いもなく、自分の部屋に入れ、彼女を気遣う。
戸惑う彼女。
部屋を見渡し、
「なんか、懐かしい感じがする…」
「え?」
「なんか…わからないけど…」
そう言い、リビングのソファーの上に座る。
そして、横になる彼女。
ドキドキ。
「ご飯とか、大丈夫だった?」
「え?」
「私がいない間….」
「…うん…」
「そっか…なら…よかった…」
間が空く。
「今日から、私がまた、やりますので、よろしくお願いします」
微笑みながら、礼をして言う彼女。
ドキドキ
もう、何もいらない、彼女だけがほしい。
そう思った。
「お昼、何がいい?」
「え?うーん…」
僕は、ある時のことを思い出す。
風邪を引いて学校を休んだ。
なかなか、熱は下がらず、学校を2週間くらい休んだ時が一度あった。
38.8、38.2…
少し下がるが、再び、朝、熱は出た。
僕の家は、父がいなく、母が子を2人を一人で育ててくれたのだ。
だから、仕事を休むこともできず、帰りが遅いことも帰ってこないこともある。
そんな時だった。
ある日、彼女が僕のところに来てくれたのだ。
隣の席ということから、先生に頼まれ、渡された書類や宿題を持って来てくれたのだ。
3日くらい、続けて来てくれたのだ。
1日目に、おかゆを作ってくれた。
2日目は、熱が下がり、再び、おかゆを。
3日目には、調子がよくなったが、学校を休んだ。
その時には、テーブルの上にオムライス。
そこに、かわいいメモ帳の髪が置いてあった。
"日向くんへ
早く、熱が下がって、調子がよくなるといいですね
学校で待ってるよ
早川華より"
ドキドキ
胸が高鳴った。
さらに、何度もそれを見て、ニヤニヤとしてしまった。
その時からだろうか。
彼女を気になり始め、挨拶をするだけだけど、それだけで、ニヤニヤとしてしまう。
気がつくと、目で彼女を追いかけていた。
微笑む彼女を見ると、それだけで、キュンとする。胸が高鳴る。まるで、宙に浮いたように。
しかし、翌日、知った。彼女には、既に彼氏がいたのだ。
眼鏡をした地味な僕とは、違い、明るくて、人が集まるような、スポーツ万能、そして…
女子からの人気。
その時のオムライスには、"早く、よくなりますように"
「じゃあ…オムライス、作るね」
はっとする。そして、
「…ありがとう…」
キッチンに立ち、エプロンをして、作り始めた彼女。
包丁で切る野菜の裁きが丁寧で、慣れているようである。
僕は、それまで、テレビをつけ、見ていた。
だんだんと、いい香りが漂ってくる。
部屋中に漂い始める。
僕の鼻がピクピクとする。
少しして、
「出来たよ!」
僕にそう言い、テーブルの上にオムライス。
「美味しそう….」
「ありがとう…」
少し照れたような彼女。
かわいい。かわいいすぎる。
席にそれぞれに着き、
「頂きます」
彼女は、手を合わせ、拝むようにして、スプーンを手にした。
僕は、そんな彼女を見て真似、スプーンを手に取り、オムライスを食べ始めた。
オムライスには、"ひなたくん"そう書かれてた。
思わず、ニヤニヤとしてしまった。
「どうですか?」
「え?」
「オムライス…」
「美味しいです!」
そう答えると、彼女は微笑みながら僕を見た。
胸がドキドキと高鳴った。
一人で食べるオムライスよりも格別に、まるで、初めて食べるかのように、美味しかった。
2日目。
びーぃー!びーぃー!
朝、目覚まし時計が鳴る。
その音に耳を塞ぐ。さらに、布団に潜り込む。
すると、その目覚まし時計は、突然、止まった。
「うーん…うん?」
布団から顔を出し、目を開けると、隣には、彼女がいた。
「え?」
自分の目を疑う。瞬きが早くなる。
僕の顔を見て、彼女は、
「おはよう」
微笑みながら、そう言う。
「え?夢?」
半分身体を起こす。
「あっ…」
ふと、思い出した。
僕が彼女を連れ出したんだった…
彼女の微笑んだ顔を見て、
「おはよう…」
暫くして、
「朝食は、どうですか?」
「え?」
毎日、朝は、コーヒーを一杯口に含み、出掛ける。
テーブルの上には、既に並べられている。
いい香りが漂っている。
焼かれた鮭、ふっくらとしたご飯、ほうれん草のごま和え、ヒジキ、大根の味噌汁。
美味しそうである。
「食べます…」
彼女は、微笑む。
その度に、胸がキュンとする。
席に着き、
「頂きます…」
そう言い、食べた。彼女も食べた。
そんな幸せな時間は、長くは続かなかった。
3日目。
仕事から、帰り、玄関を開け、
「ただいま…」
そう言うと、玄関のドアの前まで来てくれ、彼女は、微笑みながら、
「おかえりなさい」
胸がキュン!
4日目。
仕事が休みで、彼女と出掛けた。
まだ、桜の咲いている時期だった。
「お花見に行きたいな…」
少し間が空く。
「いいよ…」
彼女は、即座にこっちを向いた。
「本当に?」
目がキラキラとしている。
「うん…」
お花見に場所に行くと、まだ、きれいに咲いた桜たち。
桜の木の下で、良いところを見つけた彼女は、
「ここは?」
そう言い、レジャーシートを敷いた。
二人で桜の花を見上げていた。
「きれいだね」
「そうだな」
うれしそうな彼女の顔を僕は、キュンとした。
「少し、歩かない?」
「うん…」
彼女と、桜の咲いた並木を歩いた。
楽しそうな彼女。
「日向くん!」
そう僕の名前を呼んだ。僕は、振り返る。
すると、地に散ろうとする桜の花びらを取ろうとする。
「掴めない!」
僕は、丁度、自分のところに来た桜の花びらを取った。
「取ったよ」
彼女は、必死である。
かわいい。可愛すぎる!
掴めた時である。
「日向くん!掴めたよ!」
僕のほうを見る。そして、微笑む。
彼女は、少し照れたような顔をしていた。
レジャーシートが敷いてあるところに戻った。
すると、
「日向くん、お弁当、作って来たんだよ」
そう言い、お弁当の包みを広げる。
そして、お弁当の蓋を開け、
「じゃーん!」
子どものような彼女。
「おー!」
豪華である。
大きなお弁当箱にたっぷりと、入っている。
ふんわりとした卵焼き、パリッとするウィナー、唐揚げ、ミントボール、ヒジキのおにぎりとワカメご飯のおにぎり。他にもたくさんの種類の物が。
二人で桜を見上げたり、話したりしながら、食べた。
そして、二人して、顔を見合わせ。微笑み合っていた。
5日目。
「おはよう、日向くん!」
微笑みながら、声をかける。
「おはよう…」
まだ、眠い僕。
再び、目を閉じる。
「日向くん、起きて!起きてって!」
「うーん…」
少し彼をくすぐる。
「ねえ、ねーぇ」
「うーん…くすぐったい…」
「起きないと遅れちゃうよ」
「うーん…あっ!」
僕は、起き上がり、ゆっくりと支度をし始める。
そして、会社へ出掛けようとした。
「行ってきます…」
声をかけると、
「ちょっ…ちょっと、待って!」
呼び止める彼女。
彼女は、僕の頰にキスした。
「行ってらっしゃい…」
少し照れた彼女。
かわいい過ぎる。
「行ってきます…」
微笑みながら、僕を見送ってくれた。
仕事の帰り道、小さなお店を見つけた。
ケーキ屋さんだった。
「こんなところに、ケーキ屋さん、あったっけ?」
そう思いながら、そのケーキ屋さんで、ケーキを注文した。
このケーキ屋さんのオススメらしいケーキを2つ買った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
微笑みながら出迎えた彼女。
「ケーキ、買ってきたんだ…」
そこを彼女の視界の入る辺りまで、持ち上げながら、そう言うと、
「え?そうなの?」
少し気まずい空気が流れる。
「どうしたの?」
「じっ実は…」
そう言い、冷蔵庫から、取り出した。
「私も…」
そして、二人で向かい合い、思わず、お互いに微笑み合った。
彼女の買ってきてくれたケーキと僕の買ってきたケーキは、同じだった。
中身も同じだったなんて…
再び、お互いに微笑み合った。
それから、2週間が経った。
仕事から、いつものように、帰っていた。
玄関を開け、
「ただいま」
そう言う。
しかし、声がない。
部屋は、暗かった。
僕は、部屋をキョロキョロとする。
「華!はーなー!華…」
不安になる僕。
その時だった。
「ハッピーバースデートゥーユーハッピーバースデートゥーユーハッピーバースデーディアー日向くん…ハッピーバースデートゥーユー!お誕生日、おめでとう!」
彼女がクラッカーを持って現れた。
「日向くん、お誕生日、おめでとう!」
微笑みながら、拍手する彼女。
思わず、僕の目からは、涙の雫がぽろり。
微笑んだままの顔の彼女。
「日向くん、泣いてるの?」
「…うん…」
「感動した?」
「…うん…」
ほんの少し間が空いてから、僕は、再び口を開いた。
「ありがとう…」
彼女は微笑んでいた。
夕食を食べたい後である。
「日向くん、まだ、あるんだ!」
そう言い、席から離れ、冷蔵庫を開ける。
そして、冷蔵庫から、箱を取り出す。
取り出した箱を持って来て、テーブルの上に置いた。
「これは、なんでしょ?」
そう聞き、箱を開ける。
箱を開けらると、そこには、ケーキ。
「おー!」
「手づくりケーキだよ」
「ケーキ屋さんのケーキみたい」
「そう?」
少し照れる彼女。
部屋を暗くして、蝋燭を灯し、歌い始める彼女。
「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユーハッピーにディアー日向くん、ハッピーバースデートゥーユー!お誕生日おめでとう」
僕は、蝋燭の火をふぅーと消した。
すると、彼女は、部屋の明かりをつけ、3度目のお誕生日おめでとう、を言った。
「ありがとう!」
微笑みながら、二人でケーキを食べた。
日付が変わった12時。
彼女は、隣で寝ていた。
しかし、突然、彼女は、苦しむ。
「うーん…うーん!」
異変を感じた。
「華!はーなー!」
彼女の名前を呼び続ける。
返事が帰ってこない。
「はーなー!はーなー!」
僕は、急いで、救急車を呼んだ。
午前6時、彼女は、息を止め、この世から、去った。
しかし、僕は、泣かなかった。
彼女の死体を見せられた時も泣かなかった。
ただただ、呆然とした。
それよりも、彼女のお母さんや旦那さんが見送っている姿を見て、泣き崩れている姿を見て、罪を感じた。
僕は、暫く、それから、家に出なかった。
布団に潜り込んだまま、引きこもっていた。
部屋は、暗いまま。
さらに、1ヶ月が経った。
お腹がさすがに鳴った。布団から起き上がる。
冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫には、タッパーに20個くらい入っていた。
彼女が作ったものだ。
ヒジキに、肉じゃがに、ほうれん草のお浸し…
一つ一つ、中身が違う。
20個のタッパーを冷蔵庫から出し、摘んだ。
美味しい…
僕の目から、少しだけ、雫が流れた。
それから、汚れた部屋を少し片付け始めた。
雫が溢れ出てくる。
そんな時である。
彼女がよく、使っていたカバンの中から、はみ出て入っていたところから、薄い水色の封筒を見つけた。
宛名のところには、"日向くんへ"と書かれていた。
急いで、薄い水色の封筒から取り出す。
"日向くんへ
"きっと、この手紙を見つけたということは、私があなたの前から、日向くんの前から、去り、もう、この世の中にいないのでしょ"
"元気ですか?ちゃんと、ご飯、食べていますか?"
"どうしていますか?"
"中学生の卒業式の時、これで、もう日向くんに会えなくなるんだ、そう思っていました"
"だけど、高校生になって、日向くんと再開しました"
"うれしかったよ"
"だけど、日向くんを入学式で見つけた時、話しかけようとしたら、日向くんは、女の人と話していました"
"中学生の時も彼女がいたみたいですね、話しかけられませんでした"
"ねえ、日向くん!あの時のこと、覚えていますか?"
"マラソン大会の時、私が走っていて、足を捻ってしまった時、あなたが保健室まで、運んでくれたよね"
"その時、あなたのしていた眼鏡がズレ落ちそうになり、眼鏡を一瞬外したあなたの瞳に一目惚れでした"
"好きでした"
"いや、今も好きです"
"ねえ、日向くん!"
"私、あなたに一つ、嘘を付いてしまいました"
"私は、記憶喪失には、なっていません"
"記憶は、しっかりとありました"
"嘘付いて、ごめんなさい"
"病室で目を覚ました時、私の横で椅子に座ったまま、眠っていたあなたは、私の手を握っていて、驚きました"
"これは、夢なのかな?って"
"思わず、握り返してしまいました"
"結婚した奏多さんには、色々と感謝しています"
"でも、私は、ダメだったのです"
"あなたが良いって"
"正直、驚きました"
"私があなたは、誰ですか?と聞いた時、僕は、あなたの婚約者です、そう言われたから"
"自分を疑いました、何度も何度も"
"あなたとしたかったこと、したいと思ったことはまだまだ、たくさんあるけど、それでも、一部のことが出来て、楽しかったです"
"ありがとう"
"本当に、ありがとう"
"やっぱり、大好きです"
"早川華より"
一文字一文字に涙が溢れていく。
手紙の一部のあっちこっちが滲んでいる。
止まらない涙、頰を通って地に落ちていく。
その場に座り込む。
もう、泣くことしか、出来なかった。
雫は、そのまま、流れるだけ。
辺りは、水玉になりつつあった。
少し落ち着いた後、僕は、窓を開け、ベランダに出る。
タバコを口に加え、火を付ける。
はーぁ…
煙を吐きながら、ぼーっとする。
そして、空を見上げながら、
僕も君のこと、好きだよ、
あの時から、ずっと。
ありがとう
そう思いながら、彼女のことを思った。
桜の花びらは、木にひとひらだけ必死にくっ付いたいたものも、完全に散った瞬間だった。
春が終わり、季節の変わり目が来た。
タバコの煙も空へとゆっくり舞い上がっていった。
ゆっくりと、ゆっくりと。
君のことを忘れないから。ずっと。永遠に。きっと。




