異世界転移したよ! 実験外伝 「ドラゴン畑で悪さをしたよ!」
ドラゴン畑で捕まえてhttp://ncode.syosetu.com/n7506cm/
からキャラクターをパクって来たよ!
何処までも澄んだ青い空、空気が綺麗だと昔は良く聞いた言葉だが、こちらの世界に来てからは、空気を汚す方が難しいくらいに長閑な環境にすっかり慣れて、青い空のありがたみと言うものが薄れて来ている。
良くできた優しい奥様三人に囲まれて、毎日穏やかな日々を送る事によりナイフの様に尖った俺の心も、どんどん錆び付いていくのが感じられる今日この頃である。
今日にしても決して奥様に刃物を突きつけられて、買い物を強要された訳でも無いし、ハウスメイドが近所の子供と遊び惚けて帰って来ないので、買い物を押し付ける事が出来なかった訳でも無い、愛する奥様の為に自主的に買い物を引き受けたのだ。
徒歩にして往復二十分の道程を、自家用の馬でもう半日は遠回りをしている。
我が家の自家用馬は普通の馬と比べてかなり馬体が大きく、運動を必要としているのでしょうがない事なのだ。
この世界の馬自体が地球で言う所の「巨大なトカゲ」なので、生体は俺も良くわかってはいない、只最近とある理由から、この巨大トカゲのルッソ君がとてもイケメンだと判明したので、俺の心に黒い炎が灯った事は内緒だ。
「あー……家に帰りたくねーなー」
つい心とは裏腹の言葉が口を突いて出た所で、馬のルッソ君がふいに足を止めた。
「ほほう……亜竜の子供か、中々立派ではないか」
突然死角から声をかけられて、驚いて辺りを見回すと畑の畦道で露店を開く農家の直売所が目に入った。
珍しく身体をプルプルと震わせて、身を固めるルッソ君の視線を辿ると、全身黑尽くめのイケメンお兄さんがかぼちゃを片手に立っている。
「ん? ルッソ君、野菜を食べたいんですか?」
いつも町中にある八百屋さんで、挨拶代わりに貰える野菜クズで味をしめたのだろうか? それにしてはこんな震え方をするのは珍しい。
まるで何かに恐怖しているような……
「ふむ、どうだお前ら、俺の育てた可愛い野菜達を買っていかんか? 亜竜を従えるお前にだったら、我が眷属とも言えるこの我が子同然の野菜達を譲ってやっても良いぞ」
無人直売所が増えた昨今、ここまで高圧的な直売所も珍しい。
「それはそれは、道理で美味しそうな野菜達が並んでいますね」
「そうだろう、そうだろう。最近は強く丈夫なだけでは無く、柔らかさや味にも気を使う様にしているからな! 青い空の下で育てる我が子達はドラゴンの子に相応しいぞ!」
興奮気味に握りこぶしを作り、野菜を褒め称える黑尽くめイケメン。
「ドラゴンの子?」
「うむ、俺はドラゴンだからな」
胸を張り鼻の穴を広げて頷くイケメン。
「あー……そう言う設定ですね? わかります。俺の知り合いにもいますからね、そんな感じの設定の人」
「設定とは良く解らんが、まあ食ってみろ、ほら食え」
黑尽くめイケメンは右手でぐいぐいとかぼちゃを差し出す。
「美味しそうではあるんですが、最近顎を捻挫してかぼちゃの丸齧りは出来ないんですよ」
「ううむ、残念だな。ここに妻が居れば即座に料理をしてもらい、食べ易く出来るのにな」
心底残念そうにかぼちゃを見つめている。
「奥様がいらっしゃるんで?」
「おお! それはそれは料理の上手い妻でな、俺の育てた可愛い野菜達を魔法の様に美味しく昇華させるのだ」
このイケメン、惚気始めましたよ! イケメンの分際で料理上手な奥様! 敵か? 敵だな?
「料理上手で優しい妻は宝だぞ」
あ、浮かれてますね? 幸せそうで何よりですね、幸せ家庭にほんのちょっぴりのスパイスをプレゼントしちゃいましょう。
「そう言えばかぼちゃと言えば、彼の国では人工モンスターキメラの材料として有名なんですよ。かぼちゃをくり抜き顔を彫り込んで、中に蝋燭で火を灯して一晩中祈りを捧げる呪われた儀式が有るとか無いとか……」
「何?! それは本当か?」
「真偽は解りませんがそう言う儀式が有る事は確かです。奥様に注意を促した方が良いかも知れませんね」
イケメンはかぼちゃを見つめながら、何かをブツブツと呟いている。
「ああ、後、そこに陳列されているトマトですが最近偉い学者さんが、赤い果実は魔力を低下させるとか、トマトの中のエレエレの部分が魔獣の玉子の可能性があるとか、無いとか」
「なんと!」
野菜直売所に置いてあるトマトに頰ずりしながら涙を流すイケメン。
「そこにあるサツマイモですが、女性に人気がありますよね? 食物繊維が豊富で身体に良い、只……」
「何だ? まだ何かあるのか?」
イケメンが不安そうにこちらを見ている。
「稀に貧血を起こし易くする成分が含まれているのです。大事な奥様が怪我でもしたら大変なので、サツマイモを食べた後八時間はピッタリと奥様に寄り添い、トイレも念の為に付き添ってあげて下さい。それこそ物音一つ聞き逃さない様に」
自信に満ち溢れた態度が萎れた様になりを潜め、黙ってコクコクと頷いている。
「おや、ネギが有りますね、これを頂いていきましょうか」
「おお! 目の付け所が良いな! このネギは甘くて美味いぞ!」
買うと判ると即座に立ち直るイケメンがネギを薦めて来た。
「味よりも薬効成分成分が大事でして、ドラゴンさんには解らないでしょうが、人間は熱を出したら死んでしまう生き物なのです。なので体調を崩したりした時はこのネギをですね、お尻の穴にプスーっと」
「プスーっと?」
「挿し入れるんです。それで元気ハツラツ!」
「おお! お前、野菜に詳しいな! 野菜の意外な一面を今日は沢山知ったぞ」
イケメンは目を丸くして大喜びした挙句、ルッソ君の口にキャベツまで放り込んでくれた。
「それじゃあ、俺はこの辺で失礼させて頂きますね、我が家で奥さんと妻と嫁が待ってますんで」
イケメン討伐を果たした俺は意気揚々と家路についた。
数日後
俺は通い慣れたいつものバーで、昼飯のうどんを啜っていると、珍しくバーのマスターが高めのテンションで話しかけて来た。
「おい、イント、聞いたか?」
「何をです?」
「今朝方街の外れでドラゴンが大暴れしてたらしいぜ」
ドラゴン? 大暴れしてた割には大騒ぎにはなっていない様な……
「それで被害とかは?」
「それがな、顔中引っ掻き傷だらけの凶悪そうなドラゴンだったらしいんだが、見慣れない女神官が、料理に使うお玉でドラゴンの鼻っ面を一撃して撃退させたらしくて、被害が無かったらしいぜ」
お玉? 料理の? ドラゴンスレイヤーの流行武器なんだろうか?
「何でもその凶悪そうなドラゴンはネギを片手に、ある男を探してたらしいぜ、何かをどこかにプスーっとやってやる! ってかなりの剣幕だったらしい」
聞いた事あるな……
「それにしてもドラゴンの恨みを買うなんて、よっぽどの勇者か」
「よっぽどの勇者か?」
「よっぽどの馬鹿だな」
「はは……まったくですなー」
ここから逃げるには、海沿いのルートか? ルッソ君を拾って全速力で海沿いを走れば、何とかなるか?
「それじゃあマスター、俺はそろそろ帰りますね」
席を立った瞬間肩をガッシリと掴まれる。
「イント、OHANASHIがあるんだけど」
三人の奥様代表デックスが、コメカミに血管を浮き上がらせてニッコリと微笑んでいた。
「行商の農家さんに悪さを働いた人物が、聞けば聞く程私の知っている人に似ているのよね、ちょっと来て頂戴」
いつも通り耳を引きちぎりそうな勢いで外に引っ張り出されて、見上げた大きな青い空には巨大な黒いドラゴンが、どこか楽しそうに悠々と大きな輪を描いていた。
卯堂 成隆
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革細工の中の人。
嫁さんにしたい男3年連続NO1 不動の女子力を持つ男
これだけ褒めれば許してくれると思います。