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龍を統べる者  作者: 雪見だいふく
雷龍 キサ
9/23

気になる

ゼノは、エリシアたちを連れて王宮内の廊下を歩いていた。エリシアはゼノの三歩後ろに歩いており、サンとシンの口喧嘩をなだめていた。

ゼノは振り向き、その光景をちらっと見ると、眉を潜めた。


(何なんだ。この娘。さっきの娘の瞳が頭から離れない…。俺を射殺(いころ)すかのように睨んだかと思えば、今は困ったように眉を下げている。……調子狂う…)


ゼノは、先程のエリシアと今のエリシアを比べ、悶々と葛藤(かっとう)していた。



そうこうしている内に、王城の中に入り、元いた客間に向かっている途中で、柱に身体を預けているキサが、こちらを見ていた。


「時間かかりすぎ。どこまで行っていたの」


キサはどこか面白くなさそうに、吐き捨てるように言った。


「中庭だ。この娘が客間にいなかったんでな。探しに行ってた」


ゼノが言うと、キサは身体を起こしゼノの方へ颯爽(さっそう)と向かってくる。何だと思い身構えるが、キサはそのまま、ゼノの横を素通りしエリシアの前に立ち止まる。

ゼノは、驚きに目を開き振り向く。


「お嬢さん。ダメだろ?君に何かあったら僕は気が気じゃない」

「え?…あの、私は大丈夫ですので…」

「ダメ。今度どこか行く時は、僕と一緒に行動して」

「え……」


キサの有無(うむ)を言わさない言動(げんどう)に、エリシアは狼狽(うろた)え戸惑う。

何だか、今までのお店で対応していたキサとは、別人のようだ。

王城に来てからキサはエリシアに対して過保護でただただ驚いた。


エリシアとキサのやり取りを黙って聞いていたゼノは、眉間(みけん)にしわを深く寄せ、目元が恐ろしくなり鬼の形相(ぎょうそう)でキサを睨む。


「おい。貴様、何だその言いぐさは。まるで、俺を信用できないかのように言ったな」

「そうだけど?」

「なっ…!」

「僕は王城の者は、基本信用してないんでね。君がお嬢さんを迎えに行ったと聞いた時、身体の血が逆流する思いだったよ」


(そんなに!?)

キサの言葉に、エリシアは益々驚きを隠せなかった。


「俺は、陛下直々に命令を下されたんだ!お前にとやかく言われる筋合(すじあ)いはない!だいたい、この娘を迎えに行ったのだって、仕方なくだ!俺の意思じゃない!」


ゼノはムカッとし、キサに反論をする。


「ふうん。君は、お嬢さんに惚れたんじゃないかと思ったからね。だから、余計に信用できなかったんだよ」

「!…な…俺…は……」


ゼノは顔を真っ赤にさせ、言葉が(つむ)げなくなった。


「君は分かりやすいからね。僕が挑発すれば、すぐに乗ってくるし、お嬢さんの容姿を見て惚れただろ」

「……」


ゼノは一言も言い返せず、キサから視線をそらし、エリシアのフードから覗かせている紫の瞳をチラッと見る。

エリシアは困惑したように、眉を下げていた。ゼノはそれを見て、無償(むしょう)(おのれ)を殴りたくなった。


「……否定はしない」


ゼノがエリシアの目を見て言うものだから、今度はエリシアが顔を真っ赤にさせた。

すると、二人の視線を(さえぎ)るかのように、キサがエリシアを背にかばうようにして、無言でゼノと睨み合う。


「……」

「……」


エリシアはどうすれば良いか分からなくなり、ただただキサの広い背中を目に困惑していると…。



「あら、ゼノ。何をしているの?」


突然、ゼノの背後から鈴が鳴るような、高く美しい女性の声が聞こえた。ゼノが振り向くと、腰まである長い(つや)やかな黒髪は編み込んで垂らしてあり、それを引き立てるかのように色白い肌。

キラキラとした大きな黒目は、純粋でまだ17歳の少女なのだと思わせる。

そして、若草色のドレスを身に(まと)い、発達途中の身体の線を余すことなくピッタリと(かも)し出している。

また、目を引くのは頭上にある黄金(おうごん)の冠で、この国の王女のみに被ることが許されているものだ。


「アシリア様」


ゼノは、アシリアの元へ歩み寄り片膝を立て、(こうべ)()れる。


「何故、このような所へ?」

「退屈で出てきちゃったわ。お前がいないもの」

「は?私…ですか」

「そうよ。…ねえ、あの方は?どなた?」

アシリアがキサを見て、首を傾げる。


「…彼は、陛下に呼ばれて王城に参りました。薬草の店の主人です」

「そうなの」


アシリアはキサの元へ歩み寄ると、ドレスの(すそ)をつまんで膝を曲げ、挨拶をする。


「初めまして。アストランティア国の第一王女、アシリアと申します。本日は私の誕生祭で、お兄様に招待されたのでしょうか?」

「残念ながら違うけれど、王女様がこんな美人だなんて来て正解でしたね。あなたにお会いできて、光栄です」


キサは、アシリアの片手を取り、手の甲に唇を落とす。アシリアは慣れているのか、ニコッと微笑んだだけだ。



アシリアは、キサの背後にいるエリシアに気付いていないのか、キサに挨拶をすると、侍女に呼ばれ遠ざかっていった。エリシアはどこか、ほっとしたように肩の力を抜く。


「行くぞ」


ゼノは、キサとエリシアの返事も聞かずに、スタスタと廊下の奥に進んで行く。エリシアは慌てて追い掛けるが、キサはゆったりと歩いていた。


「…置いていかれますよ?」

エリシアは、背後にいるキサに問いかける。


「大丈夫。僕たちは鼻が()くからね」

「…!」

エリシアは驚いて、キサを見る。


「別に珍しいことじゃない。僕も、五感は(すぐ)れているんだ。君ほどではないかもしれないけど」


キサはエリシアの瞳を見詰めながら、にっこりと笑う。エリシアは何も言えなかった。



エリシアは結局、キサとゆっくり歩くことに決め、キサの後をついていく。キサが客間の扉を開けると、室内には陛下と隊長、副隊長、ゼノがいた。

ゼノはキサとエリシアを見ると、遅い!と一喝(いっかつ)する。陛下はこらっとなだめた。



「さて、ごめんね。途中で抜け出して。それで、あなたの答えはどうかな?エリシア」


陛下は穏やかに微笑み、エリシアに尋ねる。


「…私、やってみます。父の故郷(ふるさと)も訪ねてみたいですし。そして、私の価値も知ってみたいです。五龍、皆が協力してくれるかは分かりませんが、人々に龍のことをもっと知ってほしいと思いました。このアストランティアが平和なのも、龍のおかげなのだと人々にも知ってもらいたいです。あ、もちろん陛下のおかげでもありますけど」

「ううん、龍のおかげだよ。実際にキサがアストランティアにやって来る前は、荒れていたからね」

「え?では、私たちがいなくなったら…」

「うん、荒れるだろうね。でも、そこは何とか自分達でやってみるよ。私の国だからね」

陛下は、エリシアを安心させるように人の良さそうな笑みを浮かべる。


「じゃあ、さっそく旅に出掛けますか」

キサが、んーっと背中を伸ばしながら言う。


「そうだね。早い方が良いかもしれない。長々と滞在すると、情が出来てしまう。あ!エリシアに肖像画を見せたいと思ったんだ。旅に行く前に、エリシアを借りても良い?キサ」

「…どうぞ。僕は、一旦家へ帰るよ。馬も調達したいしね」

「城にいる馬を貸してあげるよ。皆、良い子だ」

「どうも」


キサは()()なく言うと、ひらりと(きびす)を返し、客間を出ていく。


「さあ、エリシア。行こうか」

「あ、はい」


エリシアは陛下の後をついていく。頭の中には、何故かキサのことでいっぱいだった。











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