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龍を統べる者  作者: 雪見だいふく
雷龍 キサ
8/23

純粋な男

陛下は、妹姫の王女アシリア様のお誕生祭を抜けてきたので、一旦戻りまた来ると言い、室内を出ていってしまった。

騎士たちとキサも、連れて行ってしまい、エリシアは今、王城の中庭を歩いていた。


中庭と言っても立派で広く、色とりどりの花が見事に咲き誇っていた。最もエリシアの目を引いたのは、中庭の中心にあるアーチを、くぐった後の光景だった。

エリシアの身長よりも高いひまわりが、辺り一面に咲き誇っていたのだ。ひまわりは太陽の光に反射して、黄金に輝いていた。


【見事ねえ】


リンが感嘆(かんたん)したように、ほうっとため息を吐く。


【本当、きれい。別世界みたい】

サンも大きな黒目を、キラキラと輝かせた。


【よし!お前ら、競争だ!あっちまで行こうぜ!】


シンが意気揚々と言い、サンとリンもその提案に乗り、奥深くまで行ってしまい、姿が見えなくなってしまった。

エリシアはポツンと一人になった。すると…。


「何をしている?」


エリシアの背後から、一人の騎士が声を掛けてきた。この方は確か…。


「…ゼノだ」


ゼノは、無愛想(ぶあいそう)にボソッと(つぶや)く。エリシアが首を傾げたから、名を名乗ってくれたのだろう。

短く()り上げられた黒髪は所々に()ね、目元はつり上がり、いかにも機嫌が悪そうに見えるが、元々こういう顔なのだろう。

騎士服を(まと)っているおかげで、(きた)え上げられている体躯(たいく)が分かり、容易には近付けない雰囲気がある。単に、目付きが悪いせいなのかもしれないが…。


「ひまわりを見ていたのです。とても、素晴らしいですね」


エリシアは、ひまわりに視線を戻し言う。


「…何が良いのか俺には、全く分からん。ただ黄色い花ってだけだ」

ゼノは、眉間(みけん)にしわを寄せながら呟く。


「そんなことありません。ここまで、大きくなるまではひまわりにとって、相当な時間を費やしたと思います。花も人間と同じように、生きているのです」

「花が?…ふん。あり得ない」

「何故ですか?」

「ただ、水を与えれば大きくなるだけだろう」

「…あなたは世界で人間が、最も(とうと)い生き物だとおっしゃっているのですか?」

「そんなことは言っていない」

「そうですか?私にはそう聞こえました」


エリシアは、フードを被ったままゼノを見詰める。ゼノは一瞬、(ひる)んだように眉を動かしたが、すぐに言い返す。


「…人間が最も尊い生き物でなければ、何が尊い?お前たち龍か?」

「……あなたたち人間は、醜いですね」

「何?」

「人間は言葉を話せない(けもの)を、無意識に見下しています。だから殺し、それで命を(つな)いでいることを理解していません。ただ、己が生きるために貪欲(どんよく)に相手を傷つけ、娯楽(ごらく)にすることさえもあります。龍は決して、そのようなことはしません。同じ獣だからこそ、痛みが分かち合えるのです」


エリシアは、静かに(さと)すように言葉を繋げていく。

ゼノは放心したように、ひたすらエリシアに視線を注いでいた。


「しかし、私の考えは一般的には理解されないでしょう。この世界は、人間が最も尊いと考える者が大半(たいはん)ですから。…あなたのように」


エリシアが、赤みがかった紫の瞳に力を込めて、ゼノを睨んだ。

ゼノは、まるでエリシアの瞳に見とれたようにピクリとも動かない。

二人がそのまま、見詰め合っていた時…。



【シアー!】


エリシアの背後から、興奮したように明るい少女の声がエリシアの頭に響く。エリシアが振り向くと、サンがエリシアの右腕にピョンと乗った。シンが、遅れてエリシアの左肩に乗る。


【シア!私、一番になったのよ!シンとリンに勝ったのよ!】

【まぐれだ。まぐれ。お前が俺に勝つわきゃないだろ】

【ふふん。負け惜しみは聞かないよ】

【……ちっ】


サンが勝ち誇ったように鼻を鳴らすと、シンは悔しそうに眉を(ひそ)めた。


「良かったね。サン」

【うん!……あれ?】

サンがエリシアの、背後を覗く。


【あの人、こっちを見ているよ?】

「…うん」


エリシアもつられて、再びくるっとゼノの方を見る。ゼノは、エリシアと目が合うとはっとした後、気まずそうに視線をずらした。


「ところで、何をしにきたのですか?騎士ともあろうお方が、お散歩ですか?」

「…!違う!陛下がお前を探しに行って来いと、命令されたのだ!…じゃなければ…」


ゼノは最後に声が小さくなり、エリシアはゼノに近付く。


「何ですか?」

「っ!寄るな!」


ゼノは、何故か顔を真っ赤にさせ、エリシアから目をそらす。


「?」

エリシアはゼノが、顔を真っ赤にさせる理由が分からなかった。


【罪ね】

エリシアの背後から、リンが呟く。


「リン?罪って?」

【…何でもないわ】


リンは、エリシアを見てはあっと深いため息を吐く。それを見たエリシアは益々、頭の上にはてなを浮かべるのだった。










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