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龍を統べる者  作者: 雪見だいふく
雷龍 キサ
7/23

両親

「さて、そろそろ本題に入ろうか。実は、エリシア。あなたに頼みたいことがある。残りの龍を仲間にし、この国に連れてきてほしいんだ」

「……え?」

「…あれ?まさか…何も知らない?」


陛下が真剣な表情で言うが、エリシアにとって訳が分からなかった。陛下もあれ?というような、表情になっている。


「彼女には何も言っていない。僕のことも」

「え?そうなの?もう知っているのかと思っていたよ」


キサが無表情で言い、陛下も眉を下げる。エリシアは二人を交互に見るが、なんの話をしているのか理解できなかった。


「…エリシア。これから、私が言うことをよく聞いてほしい。あなたにしか頼めないことなんだ」

「……はい」

「我々は、あなたが"龍を統べる者"だと知っている」

「!」


エリシアは咄嗟に立ち上がり、マントの中の短刀を抜き、陛下に突きつける。本当に殺す意思はなかったが、自分の身を守るために体が反応したのだ。

騎士たちが腰にある刀に手を掛けるが、陛下は片手を上げ制した。


「怖がらないでくれ。私たちは、あなたに危害は加えない。ただ話を聞いてほしいだけだ」

「……」


エリシアは半信半疑に、陛下を見下ろす。黒い瞳に嘘は見えないが、今まで人間がエリシアにしてきたことの過去が、エリシアを(かたく)なにさせる。

リン、サン、シンも鋭い目で陛下を見ており、ふうーっと唸っている。

キサは、成り行きを見守るだけなのか、横目でエリシアを見ていた。


「……まいったな。私は、信用できないと思う?」

「……人間は信用しません」

「…そうか。じゃあ、何故あなたはフードを脱いだ?私が信用できないと思うならば、脱げないはずだ」

「……」


確かに、陛下の言うとおりだ。何故、私はフードを脱いだ?陛下に善を感じたからではないか…。

エリシアはしばらく無言で、陛下に短刀を突きつけていたが、静かに降ろす。そのまま、腰を下ろした。

しかし、完全には信用しておらず、陛下がどう出るか注意深く探ることにした。


「何故、私が"龍を統べる者"だと?」

「調べたんだ。あなたのお父上は、私の叔父上だったんだよ」

「…え?」

「前王…私の父の兄君でね。よく私に色々なことを教えてくださったんだ。次の王になるお方は、叔父上だと誰もが信じていた。でも、叔父上は禁忌(きんき)な恋に落ちてしまった。それがあなたの母上だ」

「……」


エリシアは両親との思い出が、全くない。物心がついた時にはもう一人だったからだ。


「周囲は猛反対したんだ。二人の関係を。あなたの母上は、城の侍女という身分で、叔父上とは釣り合わないと言われていた。でも、あなたの母上があなたを身籠(みごも)り、叔父上は何もかも捨てる覚悟で、城から身籠っているあなたの母上と逃亡した。それから、人々は二人を探したんだけど、全く見つからなかった。理由は分かる?」

「……」

「あなたの母上は、あなたと同じ"龍を統べる者"だったからだ。そして、叔父上は"地"の力を持つ龍だった。二人は出会った頃から、()かれ合っていたんだろうね」

「……」


エリシアは、体が固まったように動けなかった。陛下の言っている両親に、実感がわかないのだ。


「大丈夫?エリシア」

「はい…ということは、私は陛下と従兄弟(いとこ)に当たるのですか…?」

「うん…と言いたいところだけど、私たちに血の(つな)がりはないんだ。あなたの父上は、養子だからね。生まれたばかりの赤ん坊が、城の門の前で、置き去りにされていたらしい」

「……その赤ん坊が私の父上…?」

「うん。当時、私の祖父母には子供がいなくてね。その赤ん坊を養子として迎え入れ、長男として育てたんだ。…あなたの瞳は、叔父上と同じだよ」

「え」

「赤みがかった紫の瞳。叔父上もそうだった。だからこそ、黒髪、黒目が一般的なアストランティアでは、異端(いたん)の者と恐れられていた。でも、叔父上は自分を卑下(ひげ)せず、いつも前を向いている人だった。私の憧れだったよ。民もそんな叔父上に尊敬の眼差しで見ていて、好かれていた」


陛下が、柔らかく目を細めた。


「私は叔父上を探すことを、諦めなかったんだ。国王になってからも、ずっと(ひそ)かに探し続けた。だが、今だに見つからなかったが、フードを深く被ったお嬢さんが城下町にいると聞いた時、もしやと思ったんだ。私は必死に探したよ。しかし、あなたは中々見つからなかった」


エリシアは城下町ではなく、数十キロ離れた森の奥深くに住んでいた。それに、人間に見つからないように周囲には(きり)が深い場所を選んだのだ。

エリシアは、そのことについては言わなかった。


「一年経ってからかな…キサの元にいるあなたを偶然見た騎士がいたんだ。そこで、我々はキサの元へ行った。だけど、キサは頑固だったよ。中々話を聞いてくれなくてね。城に欲しいぐらい、こちらの目的と意図(いと)を見抜かれて…」

「……」


エリシアは、リンを挟んだ横にいるキサを見た。目を閉じて、腕を組み、背中を背もたれに預けていた。



――――どうして陛下に私のことを言わなかったのだろう。



「お金をいくら渡しても、条件の良い交渉をしても、キサは中々口を割らなかったよ。こちらも骨が折れるような思いだった。ようやく、あなたが見つかったのに肝心なキサが、我々に信用がなくてね。……懐かしいなあ」


陛下が、目を閉じているキサを見て、目を細めた。


「…それで?僕のことは良いから、この子をどうする?」

キサは眠っておらず、口を開いた。


「あ、やっぱり起きていたね。ふふ…そう、それでね、エリシア。世界に言い伝えられている、(いにしえ)の物語を知っているかな?」

「…はい」









***









昔々、"龍を統べる者"と言われたお姫様がいました。お姫様の側には、必ずと言っていい程、伝説の五龍(ごりゅう)がいました。五龍は、"龍を統べる者"のお姫様を敬い、憧れ、従っていました。

五龍はそれぞれ、力を持っていました。"水"の龍は水を操り、(ひたい)に龍の証があります。"火"の龍は炎を操り、右足に龍の証があります。"地"の龍は地面を操り、右肩に龍の証があります。"風"の龍は風を操り、右腕に龍の証があります。"雷"の龍は空を操り、背中に龍の証があります。


彼らは頑丈(がんじょう)な体と、力で国を守り、お姫様を守ってきました。

しかし、"龍を統べる者"は人間と同じ寿命でしたので、お姫様は五龍に看取(みと)られ、亡くなりました。五龍は、一切容姿が変わらず、人間の何十倍もの生命力があったので、次第に人間たちに()み嫌われ、国を追放されました。

五龍たちも守るべき者がいなくなったため、自分達の好きなように生きようと、世界に飛び散りました。

それから、五龍を見た者は誰もいませんでした。



(いにしえ)の物語はこれで終わっているが、実際にエリシアの母とエリシアは"龍を統べる者"としての、能力を持っている。

古代からの時を経て、再び"龍を統べる者"が生まれたのだ。

しかし、エリシアには身分がないので、(いにしえ)のお姫様のように五龍と一緒にいたことはない。



(いにしえ)の物語に伝わっているお姫様は、実はアストランティアの初代女王だったんだよ」

「え!」


エリシアは、驚いて目を見開く。


「本当。肖像画もあるんだ。時代が経つにつれ、何度も書き直されたんだけどね。後で案内してあげる。…それで、エリシア。あなたに五龍を見つけて、ここに連れてきてほしいんだ。今、世界の均衡(きんこう)が崩れつつある。アストランティアは平和だが、周辺の国々は荒れ果てている。飢えや戦が繰り返され、人々の心が穏やかじゃない。(いにしえ)の言い伝えによれば、"龍を統べる者"と五龍が揃えば、世界の均衡は保たれると伝えられている。実際に、あなたの母上と父上がいるだけで、アストランティアは幸福に満ち溢れていたからね」

「どういうことでしょうか?」


エリシアには、よく分からなかった。


「五龍、揃わなくても一匹の龍がいれば、その国は安泰(あんたい)と言われている。しかし、一匹もいない国は衰退(すいたい)すると言われているんだ。今のアストランティアは、あなたとキサがいるから、平和が保たれているんだよ」

「え?」


エリシアは、キサを見る。今度は目を開けており、キサは陛下を睨んでいた。


「あれ?…あ、言っていなかったんだっけ?あー…ごめんね」

陛下は申し訳なさそうに、頭をかき、へらっと笑う。キサは、はあっと深いため息を吐き、エリシアと顔を合わせる。


「……僕は"雷"の力を持つ龍だ。背中にも龍の証がある」


キサは、エリシアの目を強く見つめ、離さないとばかりにその視線は鋭かった。

エリシアは何故、そんな目をするのか分からなかったが、何故かキサの"黄金(おうごん)"の瞳がきれいだと思った。











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