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龍を統べる者  作者: 雪見だいふく
雷龍 キサ
3/23

一日の始まり

エリシアの一日の始まりは、太陽が昇った(あかつき)の朝明けに起きることから始まる。ふと、目が()えると眼前に、モフっとしたふわふわな茶色いものが、丸まっていた。

エリシアが、そっと()でると茶色いものはピクッと動き、尻尾(しっぽ)から顔を出す。


【ふぁー…もう、起きたの?シア】


高い少女の声がエリシアの頭に響く。それは、愛らしい姿で首にリーンと鳴る鈴をつけた、雌のリスザルである。小さい口を大きく開け、あくびをし、小振りな手で大きな目を擦る仕草は、何とも言えない程、可愛らしい。


「うん」


エリシアはしばらく、ふわふわな毛並みを堪能(たんのう)していたが、やがて起き上がった。


「今日は城下町に行かなくちゃね。サンもついてくるでしょ?」

【行く!】


サンがピョンピョンと、エリシアの足元まで飛んで行き、リーンと鈴を鳴らす。そして、足元にいるもう一匹のリスザルに声を掛けた。


【シーン。起きて!今日は町に行くのよ!起きて!】

【……】


シンと呼ばれた雄のリスザルは、ピクリとも反応せずにふわふわな尻尾に顔を埋め丸まっていた。


【シン!起きてってば!】

サンがシンの尻尾を、ぽふぽふと叩く。

【……うるさい】


シンは機嫌が悪そうな、寝起きの気だるい声を出した。そして、そのままエリシアの布団の中へと潜っていった。


【シン!】

「まあまあ。もう少し寝かせといてあげよう。シンは朝が弱いから」


憤慨(ふんがい)しているサンに、エリシアはなだめ、ベッドから降りた。

二匹は双子なので、気兼(きが)ねせず言いたい放題に言い合っているのだ。これは、日常茶飯事(にちじょうさはんじ)なので幼い頃から共に生活していたので、もう慣れてしまった。



トントン…ー

エリシアが、山菜を切り刻み、鶏肉を鍋に入れ、米を()き、部屋に美味しそうな匂いが充満すると、美しい(つや)やかな女の声がエリシアの頭に響く。


【おはよう~。いい匂い~】


エリシアが振り返ると、一匹の白銀(はくぎん)の艶やかな毛並みを持ち、鋭い黄金(おうごん)の瞳の狼が、寝ぼけ(まなこ)で暖炉の前で丸くなりながら首だけ起こす。


「リン、起きたの?もう少しでできるからね」

【はーい】


と言いながら、リンは再び目を閉じる。目を閉じれば、いくらか雰囲気が柔らかくなり、可愛らしい(おおかみ)だ。


エリシアは、食卓に食事を並べる。エリシアの分とリン、サン、シンの分だ。すると、ちょうどシンが顔を覗かせた。


【……】


無言で食卓につき、無言で食事をする。それを、側で見ていたサンは怒った。


【ちょっと、シン!何も言わないでご飯は食べちゃダメ!お行儀悪い!】

【……】


サンに怒られてもシンは黙ったままだ。

だが、城下町に行く日は、朝が早いのでシンの調子はだいたいこんな感じなのだ。サンも懲りずにシンに、お小言を言い続けている。


「まあまあ、サン。仲良くね。私はライを起こしに行くから、ちゃんと食べててね」


エリシアは二匹の…サンが一方的に怒っているだけだが、一応二匹をなだめる。シンは寝ぼけ、半目になったまま食していた…。



エリシアは小屋の横にある、厩舎(きゅうしゃ)の扉を開け中に入る。

厩舎の中には、柔らかい(わら)の上で、一頭の茶色い毛並みの馬が寝ていた。筋骨隆々の体つき、手入れされている艶やかな毛並み、日に透ける見事なたてがみ、最も特徴的なのは額にある六角形の、白い模様だ。

立派なおとな馬に見えるが、実際はまだまだ甘えたがりな雄のこども馬である。

エリシアは愛馬に近付き、たてがみを撫でる。


「ライ。もう朝だよ、起きて。今日は、城下町に行く約束でしょ」

【んあ…やだ…もう少し】


だらしなく、口から長い舌を出し、でろーんと再び寝るライに、エリシアはたてがみを少し引っ張る。


【ぎゃ!痛い!何すんの!シアの悪魔!】

ライは完全に目覚め、エリシアに暴言を吐く。


「ライが起きないからでしょ?ほら、干し草よ。ちゃんと食べてね」

【……】


エリシアが、にっこり微笑んで言うと、ライは震え上がり無言で大きな体躯(たいく)を持ち上げ、干し草を食べる。



エリシアたちは、食事を終えると町に出掛ける支度をした。比較的動きやすい簡素な軽装、その上にフードのついた白いマント、腰には護身用の短刀を身につける。

サン、シン、リンは用意ができており準備万端だ。エリシアも小屋を出て、ライを厩舎から出すと、ライにまたがり、辺りを(きり)が包む道を進んでいった。






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