島の民
エリシアがカルマと話し終えると、案内してくれた男性が、キサとハルトのいるところへ誘導してくれた。
客間のような一室で二人は待っており、エリシアを見た途端駆け寄ってくる。
「お嬢さん!何もされなかった!?」
「シア様、何もされませんでしたか!?」
キサとハルトの言葉が重なり、エリシアはふふっと笑う。
事情を話せば二人は眉を潜めた。
「やはり噂通りだったな」
「噂?」
「うん、火龍は昔から気性の荒い一族と言われているんだ。後、仲間意識が強いから他の者を懐に入れたがらない、視野の狭い奴等だよ」
キサは吐き捨てるように言う。
エリシアは少し考える。
「ねえ、それなら懐に入れてもらうために火龍の島の皆と会うことが必要なんじゃないかな」
「……でも、元々の性格が雑なんだよ?僕たちを受け入れるか…」
キサの言い分も分かるが、彼らがどんな種族なんて話してみなければ分からない。
「ハルトはどう思う?」
「はい!私もシア様に同意します。後、これは少し聞こえたんですが大方彼らは、他の龍ならば歓迎してくれるそうです。なので、キサと私の正体を明かすことはどうでしょうか」
「じゃあ、徐々に様子を見てから話してみることにしよう」
エリシアたちが町に戻っていくと、建物の上からカルマが座り込んでじっと見下ろしていた。
「彼らを試すのか」
側近が主の後ろでぼそりと話す。
「ああ。俺たちはよそ者を決して受け入れない。だが、"龍を統べる者"がいれば別だ。あの女にどれ程の力があるのか見てみたい」
「……長、外に行ってもいいんだぞ」
「……ふ。俺が外に行きたいように見えるのか?」
紅い瞳で側近を見れば、彼も静かに見下ろしてくる。
互いに無言になり、カルマが先に目をそらす。
「お前には敵わんな」
カルマが目を閉じると、山の震える声が聞こえてきた。
◇◇◇
町に戻っていくと、エリシアたちを見る者は遠巻きにこちらを見る。
地龍の里のように話しかけたそうにしている者はおらず、警戒されているようだった。
子供も興味深そうに見てくるが、親の目があり近づいてはこない。
どうしたものか――――
エリシアが思案していると、シンとサンが地面に降り立って島の者に近づいていった。
成り行きを見守っていると、島の者たちは警戒はしているが、少しだけ表情が和らいだ。
すると、キサも続き、彼らについていく。
「キサ…」
「大丈夫だよ」
キサは心配そうにするエリシアに微笑んで、遠ざかっていく。
島の者たちはいっそう警戒心を露にするが、キサの笑顔にたじろいでいた。
「近づくんじゃねえ!よそもんが!」
一人の若い男性が、キサに向かって叫ぶ。
その燃えるような琥珀の瞳に、エリシアは目を開く。
(そういえば、この島の人たちは瞳が必ずしも黒じゃない。明るい色が多い)
それはやはり、火龍の力が宿っているためか。
「僕たちは君たちと同じ龍だ。警戒しないでくれ」
「うるせえ!同じ龍だろうが、よそもんはよそもんだ!」
キサは穏やかにいうが、気象の荒い彼は聞く耳を持たない。
しばらくキサと彼のやり取りを静観していたが、一向にこちらになびかない。
ところが、シンとサンの姿が見当たらず、どこへ行ったのかとエリシアが辺りを見渡すと…――――。
二匹は島の子供に近づいていった。
「あっ!おさるさん!」
女の子の可愛らしい声が響き、一瞬空気がぴりっとなる。
「触るな!リミ!」
女の子の父親らしき男性が叫ぶと、女の子はビクッとして「ふええ」と泣き出す。
父親の怒鳴り声が怖かったのだろう。
女の子は母親にすがりつく。
エリシアはその光景を見て、静観するのは止めた。
静かに彼らに近づいていく。
「…!おい!近づくんじゃねえっていっ…」
「静かにしなさい」
エリシアはなるべく感情を抑えて言った。それが、冷たく聞こえたのか、男性はぐっとなる。
キサもこちらを見て、一歩下がった。
「恥ずかしくないのですか?子供たちの前でそんな大声を出して。彼らが怯えているのが分からないのですか?」
男性ははっとなり、背後にいる子供を見た。
小さな幼子たちは母親の後ろに隠れ、エリシアたちに怯えているというよりも、男性に恐怖を感じているようだった。
子供たちの様子からして、普段は怒鳴らないのだろう。
男性は罰が悪そうにしてから、エリシアをぎろっと睨む。
エリシアは無視をして、母親の腕で泣いている女の子の元へ歩いていく。
しかし、父親が彼女たちの前へ回り込み、エリシアの歩を止めた。
「私は危害は加えません」
「そうだとしても、娘に近づかないでくれ」
父親は意志が固そうで、頑なに動こうとしない。
エリシアは先ほどから思っていたことを口に出す。
「何故、自ら視野を狭めるのですか?」
「……何?」
父親は訝しげにする。
「絆が強いことに対しては立派ですが、よそ者だからと言って排除する意味は何ですか?」
「う、うるさい!あんたに何が分かる!」
父親は言葉を荒げる。
「大人たちが子供の視野を狭めてどうするのです。彼らが成長し、この先も同じ事を繰り返していくのですか?外のことを何も知らずに成長していくのですか」
エリシアの冷静沈着な態度に、父親は言葉がでないようだった。
すると、女性たちが声をあげる。
「あたしたちはそうやって、島を治めてきたんだ。よそ者に何か言われる筋合いはないさ!」
「そうだよ!いきなり、他の龍が来てここに何の用なんだ!」
「今、外の世界の秩序は崩壊しつつあります。ここから近いアストランティアも間もなく、戦が起きます。そうなれば、結界は張ってあれども、この島にも影響は必ずしも無いとは言えません」
エリシアが外の事を説明すると、ざわざわとざわつく。
「戦を収めることに協力をしてほしく、火龍・カルマを迎えに来たのです」
「何だって!?」
一際、ざわっと島の民たちが声をあげる。
「カルマ様は連れていかせないよ!協力だなんて言って、利用するんだろ」
「カルマ様はこの島の長だ!離れられるわけがない!」
島の民たちが全員、声をあげ、エリシアたちを牽制する。
一筋縄ではいかない島の民たちの説得に、なすすべもないと思ったとき…――――――
「おいおい、ちょっと静まれよ」
エリシアの背後から、深みのある低い声が響く。
振り向くと、カルマが気だるそうに後頭部を掻きながらゆったりと歩いてくる。
「山が震えているだろ、お前たちの怒りで」
島の民たちは、はっとし、山の頂点を仰ぐ。
エリシアには山の変化は分からなかったが、彼らには何か感じるのかもしれない。
エリシアはちらっとカルマを見ると、カルマもエリシアをじっと見ていた。
「あまりこいつらを興奮させんなよな。噴火が起きるぞ」
「え?」
「こいつらを怒らすと、島も怒るんだ。一心同体ってやつ」
カルマがそう言うと、エリシアに近づいてくる。
すかさず、キサがエリシアを背後にかばう。
「…ナイトのお出ましか?俺はお嬢ちゃんに話があるんだが」
「それ以上近付くな」
キサとカルマが睨み合っていると、ピリッとした雰囲気が辺りを包む。
先程の険悪な雰囲気よりも、すさまじいオーラが二人を包んでいた。
すると、先にカルマが口を開く。
「まあ、龍通しではやらねえよ。ただちょっと興味があるんだが。お嬢ちゃん、姿を見せてくれねえか?」
「っ…」
カルマがちらっとエリシアを見ると、エリシアは唾を飲み込む。
「そんな警戒はすんなよ。ただ、興味があるだけだ、それとも見せられないほどひどいのか?」
「お前……口が過ぎるぞ」
キサが今にも胸ぐらを掴みそうな剣幕で、カルマを睨み付ける。
キサ…とエリシアはなだめる。
「分かりました」
エリシアは返事をすると同時に、フードをとる。
赤みがかった紫の瞳、茶色がかった金髪、透き通った白い肌に、島中の龍がエリシアに釘付けになる。
カルマも驚きの表情を浮かべ、ほおっと感嘆のため息をつく。
「こりゃあ、驚いた。本土の人間たちとは違うな。まさしく、“龍を統べる者“だ」
カルマは笑みを浮かべたが、目は笑っていなかった。
「だが、こいつらの言うとおり、俺はこの島から出ない。諦めろ」
カルマは豪快に笑いながら踵を返していった。




