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龍を統べる者  作者: 雪見だいふく
火龍 カルマ
20/23

火龍は曲者

地龍の里を出たあと、エリシアたちは山を下り海へと向かっていた。

ハルトとキサの感じる次の龍は、海を渡った先のところにあるらしいのだ。

エリシアはシャラが言っていた疑問を二人に尋ねてみる。


「ねえ、そういえば"龍を統べる者"が里に長居すると、次の龍が生まれないってどういうことなの?」

「はい。それは、初代の時は皆が揃うことで世界の平和が保たれていましたが、初代がお亡くなりになられた時、五龍は世界に散らばったと言われております。それから、五龍が揃わなくても一人いればその国の安泰は約束されるのですから、揃うことはなくなりました」


ハルトが丁寧に、かつ誇らしげに説明してくれた。


「しかし、そういった状態が何世紀も繰り返されてきましたので、"龍を統べる者"と言えど、本来の龍が生まれる場所と一緒ではダメなのです。けれど、今は現在の頃のように世界の均衡が崩れてきていますから、五龍が揃うことは世界中の人々が望んでいることだと思います!」


ハルトは言い切ったとでも言うように、にこにことしている。

エリシアはなるほどと思い、うんうんと頷いていると、キサがふっと笑う。


「ん?貴様何がおかしい」

「別に。詳しいなあと思って」

「当たり前だろう。幼少の頃から何度も教えられてきたのだ。五龍の一人ならば当然のことだ」

「ふうん。まあ、僕にはあまり関係ないよ」

「貴様も五龍だろう!知っておかなくてはダメだぞ!後で私がもう一度教えてやる」

「遠慮する」


言い合いをしている二人に、エリシアは仲良さそうでよかったと心の中で思う。





しばらく歩いていると、もう一度山を昇り、頂点まで行くと眼前に海が見えた。

初めて見る海にエリシアは感嘆し、ハルトも同じだったみたいではあ~とため息を吐いていた。


「これが海…。初めて見ました!こんなに青いのですか!……美しい」


薄い青の瞳をキラキラとさせ、今にも飛び込みたいと思っているのが分かる。

エリシアも同じで、行こう!と言うと「はい!」と元気よく返してくれた。

キサは呆れつつも何も言わなかった。






◇◇◇







思う存分海で遊んでいると、海岸でキサが焚き火をしていた。

エリシアが太ももまでズボンをたくしあげたまま駆け寄ると、キサがぎょっとした顔をする。


「な、なんて格好してんの!お嬢さん」

「え、濡れるから…」

「~っ…。これで拭きなよ」


キサがエリシアから顔をそらしたまま、布を差し出してくれた。


「ありがとう」


エリシアはお礼を言うが、キサはそっぽを向き無言だ。エリシアはムッとしてキサに近づくが、シンが止める。


【シア、やめろって。お前の生足を見て、この男は色々我慢しているんだ】

「ちょっと、余計なことを言わないでよ」


シンの言葉が聞こえたのか、キサがシンをじろっと睨む。


【あ?俺はお前のためを思って言ったんだろ】

「余計なお世話」

【何だと】


シンが今にも噛みつきそうな勢いでキサを威嚇するものだから、エリシアは慌てて止めた。


「ごめんなさい。キサ」

「……はあ。早く服を正して」


キサはため息を吐いて、山の方へと歩いていった。

エリシアは節操がなかったなと反省しながら、水で濡れた足を拭き服を正す。


【気にすることないぜ、シア。これは男の方の問題だ】


シンがエリシアの肩に乗って、慰めてくれる。

エリシアはありがとうと言い、焚き火で身体を暖めていると、ハルトが両手いっぱいに海の幸を持ってきた。


「シア様ー!食材たくさん取れましたー!あなたの狼に取り方を教えてもらいました!」


エリシアの目の前まで走ってくると、ハルトの腕の中には魚や(かに)やタコ、イカなどが生きたままで動いている。


【この子、見込みあるわ。一発で全部取るんだもの】

「ああ、そなたのお陰だ!また狩りとやらを教えてくれ」

【お安いご用よ】


ハルトとリンはすっかり意気投合したみたいだ。狩りを協力してやるなんて、リンは余程ハルトに気を許したのだろう。

エリシアは微笑み、さっそくハルトの取ってきてくれた海の幸の料理を始める。






「そういえば、ハルは海初めてなんだよね?よく捕まえられたね」

「はい。里にいた頃の私は生きている生き物には触ったことがありませんし、狩りもしたことがなかったです。今こうして初めて狩りが出来て楽しいです!」


第一印象は儚い子だと思っていたのに、里の外が新鮮なのか薄い青の瞳が輝いている。意外にたくましいことが分かり、旅の道中も大丈夫だろうとエリシアは思った。

エリシアとハルトが食事をしていると、キサが山から戻ってくる。

片手には野兎を持っていた。


「む。なんだ、それは」

ハルトが興味深そうに言う。


「野兎だよ。これは夜に食べるものだ」

「もう夜のも取るのか!」

「ああ、夜は見えずらいからな。明るい内に調達しておいたほうがいい」


キサが丁寧に答えてくれるので、ハルトは何でも質問をしている。そうこうしている内に、太陽が真上から少し傾いたため時間が経ったのが分かった。


「そろそろ行こう」

「ああ、南西に小さな島があるはずだ。地図には載っていないほどの小さな島だが、火山の噴火が多く気温が常に高い」


キサがこれから行く島について説明してくれた。


「今度は…、火龍?」

「そう、それにとてつもなく大きいオーラを持っている。アストランティアにいた時でも、ずっと感じていたからね」

「そうなんだ。ねえ、それって私には感じれないのかな」

「お嬢さん?……うーん、それは僕にも分からないな」


キサが首を捻ると、ハルトが代わりに答えてくれた。


「シア様は五龍を感じないけれど、反対に私たちにはあなたを感じることができます。私は一目見てあなたが、"龍を統べる者"と分かりました。そなたもそうであろう?キサ」

「ああ……。って、君、お嬢さんのこと何で愛称で呼んでるの」


キサが面白くなさそうにハルトに言う。


「あ、私が呼んでって言ったの」

「……ふうん」


キサはエリシアをちらっと見ただけで、特に何も言わなかった。


「そなたもシア様とお呼びすればよいだろう」

「……」


ハルトが気楽に言うが、キサの表情はどこか苦しそうだった。

ぼそっと何か呟いたが、エリシアの耳には聞こえなかった。








◇◇◇








(いかだ)を造り、船っぽくすると見事な出来映えにハルトが一番興奮していた。

キサはハルトがはしゃいでいる間もてきぱきと動きを止めず、その姿勢にエリシアは思わず感嘆し、すごいなあと思う。


やがて、船が出来上がると海へ渡り、二刻程すると小さな島が見えてきた。


「あの島?」

「ああ、あそこから感じる」


エリシアが尋ねると、キサが船を操作しながら答えてくれた。

後数キロという程だが、火山が活発なためかここでも熱気を感じて、額に汗が出てきた。


【あついー】

【暑いところ苦手…】


サンとリンも熱気に当てられたのか、バテている。アストランティアは肌寒いぐらいだが、二刻程しか離れていない火龍の島がこんなに近かったなんて、どうして地図に載っていないのだろう。


「結界が張ってあるな」

キサが島を見て眉を潜めた。


「結界?」

「はい、島の周辺に普通の者には見えない結界が張ってあります。それも強力な。おそらく、結界のせいで人間に見つけにくくしてあるのでしょう。だから、地図に載っていなかったんです」


ハルトも警戒していたが、疑問に思っていたことを分かりやすく教えてくれた。


「どうすれば入れるの?」

「……。破るしかないですね」

「ああ、このまま突っ切った方が早い」


キサとハルトは同じ事を思っていたのか、目を合わし頷く。


「入るよ」


キサが言った後、島の周辺がビリっと震えた。エリシアも感じることができ、無意識にライの首に手を回す。


「シア様、私めの手を握りますか」

ハルトが不安がっているエリシアに手を伸ばすが、ライが牽制する。


【ちょっと、シアに触るな。見て分かるだろ】

ライがエリシアを守るようにして、ハルトを威嚇する。


ハルトはムッとしたようだが、スゴスゴと船の操作に戻る。








***









火龍の(おさ)カルマは、侵入者にピクッと大きな身体を震わす。


「どうなさった」

側近が主の異変を感じとり、尋ねてくる。


「侵入者だ。それも龍が二人……。! この気配……」

(おさ)?」

「"龍を統べる者"だ。俺を縛るためにやって来たか」


にやっと妖しい笑みを浮かべる主に、側近は察したのか衛兵を集めろと命令する。


「くく…。捕まえたら俺の元へ連れてこい」

「ああ」


カルマが楽しそうに口角を上げていると、側近は何か嫌な予感がすると思った。








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