龍の証
「ん…」
エリシアは、窓から漏れる朝日に目覚めた。
まだ寝ぼけ眼を手で擦り、ゆっくりと上体を起き上がらせる。
その反動で布団がめくれ上がり、お腹に乗っていたリンがわっと声をあげる。
「あ、ごめん」
【もう起きるの~?まだ眠いよ~】
リンは、枕元にいたシンにすり寄って、再び丸くなる。シンはうっとおしそうに身じろぎをするが、リンを押し退けたりはしなかった。
何だかんだいって、リスザルの双子は仲が良いのだ。
エリシアの足元で寝ていたリンも、まだ眠そうに唸っている。
エリシアは仕方なく一人で里を探検しようと思い、仕度もせずに髪や瞳をさらけ出して、朝日を浴びようと廊下に出た。
◇◇◇
まだ朝明けで、地龍の里は静寂に満ちていた。
アストランティアとは違い、清々(すがすが)しい朝で空気がとても澄んでいた。
ふと、水の流れる音が聞こえ、森の中を進むと、奥に小さな滝が流れており、周辺は木で囲まれた小さな川があった。
朝日にキラキラと輝く川はとても綺麗で、エリシアは顔を洗おうと、川の側まで行った。
チャポン…ー
すると、滝の側で水が跳ね上がる音が響き、そちらに目をやると、こちらに背を向けた裸の男性が水を浴びていた。
エリシアはその透き通るような白い肌に、ドキッとし慌てて木の影に隠れるが、彼はまだエリシアに気づいていないようだ。
エリシアは再びそうっと、彼の背中を見るが、白い肌よりもさらに興味深いものを見つける。
彼の右肩には、緑色の鱗が浮かびあがっていた。
否、肩自信が鱗だった。
エリシアは驚きを隠せず、その右肩に釘付けになる。
すると、ふいに彼が水を滴らせながら、くるりと身体を反転させた。
エリシアは慌てて木の影に隠れるが、ジャボジャボと水の中を歩いてくる音が聞こえる。
(こっちに来る)
ドキンドキンと、心臓が暴れていくのを感じながら、エリシアはぎゅっと目を瞑る。
「シア様?」
側から聞こえたのは、チャポという水音と男性の少し高い声。
エリシアがおずおずとそちらに目をやると、ハルトが不思議そうに覗き込んでいた。
「は、ハル」
「はい」
エリシアがハルトの名を呼ぶと、ハルトは嬉しそうに微笑んだ。
「な、なんで」
「え?ああ、シア様の香りがしたので。龍は鼻がよく利くのです」
「そ、そうだったね」
「ところで、こんな朝早くにどうしましたか?」
「えっと…と、とりあえず、服を着てからにしようか」
目の前に程よく締まっている男性の裸体で、エリシアは混乱していた。
何せ、初めて男性の裸体を見たものだから、ハルトを直視できないのだ。
エリシアが目のやり場に困っていると、ハルトも察したのか慌てて遠ざかっていった。
(うう…。男性に面識がなさすぎるから、どうすればいいのか分からない……)
エリシアはますます、顔を赤くしていった。
◇◇◇
「先程は申し訳ございません、シア様。お見苦しいものをお見せしてしまって…」
「え!ぜ、全然!」
ハルトは急いで服を着たのか、胸元のボタンをかけ違えていた。髪はポタポタと滴が流れ落ちていき、喉を伝って服の中へと入り色気が半端ない。
エリシアは再びハルトを直視できず、俯き加減でハルトと並んで座っていた。
「あの…風邪ひくよ?」
「あ、私は体調を崩したことはありません。身体が丈夫なものですから」
ハルトはさらさらな前髪をかき上げながら、にこりと微笑んでいる。
エリシアは益々頬が赤くなるのを感じながら、ハルトと目を合わせずに下を向いていた。
「ハルト様!」
すると、遠くからシャラの声がハルトを呼ぶ。
「ハルト様!何ですかその格好は!はしたない」
「はしたないとは何だ。水を浴びていたのだから、仕方ないだろう」
「では、さっさとお戻りください。いつまでもそんな格好でうろついていたら、女子たちが豹変しますぞ」
「う…そ、そうだな…で、では戻ろう…」
ハルトは途端に青ざめ、すくっと立ち上がりエリシアにも手を貸す。
(何かあったのかな)
ハルトは先程までにこにこと話していたのに、今は堅い表情を浮かべていた。
「あ、エリシア様。キサ殿がまだお目覚めにならないのです。申し訳ないのですが、起こしに行っていただいてもいいですか?」
「え」
「なに?シア様のお手を煩わせるわけにはいかん。私が行く」
「ハルト様は、湯を浴びるのが先です。お身体も冷えてらっしゃいます」
シャラは強引にハルトを連れていき、エリシアはポツンと一人になる。
もう朝日は完全に昇り、チラホラと里の人々も支度をし始めていた。
エリシアはふうっとため息を吐くと、キサの部屋に向かう。
昨夜のキサの様子がおかしかったので、エリシアの気分は重かった。




