宴
ドンドンドンドドンドドン…ー
外から地龍の里の、歓迎会及び儀式を行っているのが聞こえてきた。太鼓や笛の音が響き渡り、女性は全身白い服装から、華やかな色とりどりの服装を纏っていた。
エリシアも旅用に着ていた服を脱ぎ、白の無地に腰や裾、襟回りに美しい刺繍が描かれた、地龍の里特有の正装を着ていた。
マントも脱ぎ去り、茶色がかった金髪を編み込みにし、頭上で緩やかにまとめてある。
そんなエリシアの姿に、地龍の里の女性たちはうっとりするようにエリシアを見ていた。
「お綺麗です…」
「誠に…天女様のようです」
口々に褒め称えられるので、エリシアは頬を染めてありがとうございますと苦笑する。
今、エリシアは与えられた一室の部屋で、女性たちに着替えさせられ、全身を弄られていた。
こんなに人々に、姿をさらしたことはなかったので、エリシアは戸惑いながらも自身の姿を気味悪がらず、受け入れてくれることに感謝をしていた。
一人の女性が用意ができたと、扉の外に言うとキサが入室してきた。
「………きれいだよ、お嬢さん。見違えた」
キサは驚きに目を見開いていたが、すぐに目を細め微笑んだ。
キサも旅用に着ていた服を脱ぎ、黒の無地に腰や裾、襟回りに赤や黄色の刺繍を描かれた、足首まである服装を纏っていた。
黒髪と黒目のキサにとって、全身を黒ずくめにすると、色気が倍増されまた印象が変わる。
まるで、悪魔のような……。
キサの魅力はエリシア以外にも感じており、女性たちはキサをチラチラ見つめており、頬を赤く染めてもじもじしていた。
キサが微笑むだけで女性たちは顔を真っ赤にさせ、両手で頬を覆っていた。
エリシアは何故か面白くなく急に立ち上がり、キサの横を素通りし、部屋を出る。
エリシアとキサが広場に行くと、地龍の里の全員が集まっており、歌って踊っていた。
シャラが二人に気付くと、皆の注目を向けさせる。
「皆、止めよ。こちらを見てくれ。このお方は先代、リシン様のお嬢様エリシア様である。そして、こちらは雷龍のキサ殿だ。お二人はハルト様を迎えに来て下さり、世界の秩序を守るために尽力を尽くしてくださる。今宵は宴で、これからの喜びを共にしようぞ」
おおーっと男性陣は叫び、女性たちは躍りを再開させる。エリシアとキサは、中央にシャラやハルトがいる場所へ誘導された。
「今宵はまた一段とお綺麗ですね。エリシア様」
シャラが微笑みながら、エリシアに言う。
「あ、ありがとうございます」
「ええ、ハルト様も思いますでしょう?」
「………ぁぁ」
「え?何ですかな?聞こえませんでした。もう一度」
「……綺麗だ!」
シャラに促され、広場中に聞こえるほど大きい声でハルトは叫んだ。
途端、広場中が笑いに包まれ、ハルトは顔を真っ赤にさせお酒の入った器をぐいっと煽る。
◇◇◇
踊りの終わった女性たちが、わらわらと中央に集まり、話し掛けてくる。
「先程のハルト様の声、聞こえてましたわ。女性を誉める時は、しっかりと目を見て言うものですわ」
「そうですわ。でも、ハルト様はまだ純粋でいらっしゃるから、そういったことにはまだ教えることがたくさんですわね」
「あら。じゃあ、ハルト様。踊りましょうよ」
「あ、おい」
二人の女性に連れていかれ、ハルトはお酒が入った状態のまま、無理矢理女性たちの相手をさせられていた。
エリシアは地龍だからといって、気兼ねしない里に微笑ましい気分になる。
そして、ハルトがいなくなると今度はキサに女性たちが数人集まる。
「ねえ。お名前はなんて言うのですか?」
「キサ」
「キサ様は、お年はおいくつなのですか?」
「22」
「あら。じゃあ、私たちよりも年下なのですね。見えないですわ」
「君たちの方がきれいだから、見えないよ」
「あら、まあ。女性に見えないといった発言は嫌ですわ。でも、男らしいから許してあげますわ」
「ねえ、キサ様は…」
女性たちはキサを質問攻めにし、お酒の酌をどんどん追加していく。キサも満更でもない様子に、エリシアは面白くなさそうに横目で見る。
そんなエリシアの様子に、シャラは苦笑した。
「エリシア様、私の酌でよろしければいかがですか?」
「あ、ありがとうございます」
ぶすっとした顔を見られたのが恥ずかしく、エリシアはちょびちょびとお酒を飲む。
「彼女たちも久し振りの宴ですからね。嬉しいのです。今宵ぐらいは許してやってください」
「許すもなにも…私は何とも思っていません」
強気なエリシアに、シャラは分かっているとでもいうように微笑みながら頷いた。
エリシアとシャラが、他愛もない話をしていると…ー
「長老…いいですか」
一人の男性が、シャラの斜め後ろから話し掛けてきた。シャラの耳元で何かを言うと、シャラは誠か?と呟き、エリシアに断りをいれてから、男性と共に遠くへ行った。
エリシアはどうしたのだろうかと思いながらも、ふいに話し相手がいなくなってしまい、キサをチラッと見るが、相変わらず女性たちと談笑していた。
エリシアはその光景に、眉を潜めるがあまり見ないようにした。
すると、一人の青年がエリシアの元にやって来る。
「エリシア様、よければ私と踊ってくれませんか?」
「え?」
「簡単な踊りです。大丈夫です、私がしっかりと誘導しますから」
青年はエリシアの両手を取り、立ち上がるよう促す。その力強い腕に、エリシアはふわっと身体が浮かび、青年に手を引っ張られながら中央から離れた。
「あ、あの…」
「大丈夫です。こう見えて私は、踊りが得意なんですよ。それに、あなたと話してみたかったのです」
「え?」
青年は真面目に言っているのだろう。深い青の瞳は、真摯にエリシアを見詰めている。
「手を私の肩に…そうです、安心して任せてください」
青年はエリシアの片手と腰を掴み、足を緩やかに動かし始める。とても、ゆっくりでエリシアも難なくついていくことができた。
次第に、青年との踊りが楽しくなり、エリシアは笑顔になり、くるくると踊り続けた。青年も楽しそうに踊っていた。
◇◇◇
青年と踊り終えると、次々と男性陣がエリシアの周りを囲んだ。
「エリシア様!今度は、私と踊ってください」
「いや、私と!」
「おい、主ら止めろ。むさ苦しいだろ。エリシア様、私はいかがですか?」
男たちが矢継ぎ早に、エリシアに踊りの相手を求め、エリシアはおろおろとする。
困っていたところをキサが現れ、男たちを牽制した。
「はいはい、この子はもう終わり。君たちじゃ恐れ多いからね。別の子を誘いな」
口調が刺々しいキサに手を取られ背中に隠された。
男性陣は反論していたが、やがて諦めたようにすごすごと別の場所に行った。
「お嬢さん。勝手にふらふら行かないで。心配するだろ」
「別にふらふら行っていない。誘われたから行っただけです」
「簡単に男についていっちゃダメ。何か下心があるかもしれない」
「そ、そんなのない!キサだけだよ」
「分かっていないね、お嬢さん。男は皆、狼なんだよ」
キサにしては、随分突っ掛かってくる。いつものニヤニヤした顔じゃないし、苛ついているようだった。
エリシアは少し怖いと思い、キサに掴まれている手を振りほどくが、ぎゅっと強い力で握られる。
「っ…そんなに言うなら、キサが私と踊ってよ」
「え?」
あっと思った時は、もう遅かった。キサは驚きに目を見開いて、エリシアを見下ろしていた。
エリシアは、かあっと顔を赤くし、何でもないと言いもう一度手を振りほどこうとするが…ー
キサはぐいっとエリシアを引っ張り、腰に手を添え、片手をぎゅっと握る。
そして、そのまま足を動かし始め、エリシアを誘導した。
「キサ?」
「…なに」
「あ、あの…」
「もう黙って」
キサは有無を言わせずに、エリシアの身体を支え、踊りに集中させる。エリシアは先程踊った青年よりも踊りに集中できず、キサの襟回りの刺繍を見つめながら踊り続けた。
キサが支えている腰と片手が、異様に熱いのは気のせいなのかもしれない…。




