新たな力
「あなたは…」
ハルトは美しい瞳のエリシアから、目が離せなかった。赤みがかった紫の瞳が、ハルトを真っ直ぐに見詰めており、硬直したように身体が動かなかった。
しかし、無理矢理足を一歩…二歩と進めると、エリシアが近くなる。
もっと近付いてみたいと思い、歩を進めるとエリシアが目の前におり、宝石のような瞳がハルトを見上げていた。
その時、今までずくずくと疼いていた右肩よりも、心臓が狂ったようにどくどくと高鳴った。
(なんだこれは…)
ハルトは自信の胸を、片手で抑えた。今まで経験したことがない痛みに、ハルトは混乱する。
「あの…あなたが地龍なのですね?私はエリシアと申します。どうか、私たちと共に旅に行きませんか?」
可憐な唇から、心を浮き立たせるような低くも高くもない心地よい声が、ハルトに話し掛けている。
ハルトは口を開けるも、声が喉につっかえたように出なかった。
***
エリシアはハルトの様子に、戸惑っていた。ハルトは一度もエリシアから、目を離さず見つめているのだ。
それに何も話さないので、変わりにシャラが話した。
「ハルト様は恥ずかしがっておられるのです。こんなに可愛らしいお嬢様は、見たことがないものですから」
「おい、シャラ。余計なことは言うな」
シャラが笑うと、ハルトはすかさず反応し嗜める。
だが、視線はエリシアに注がれたままだった。エリシアはその強すぎる視線に、どうしようと思った時だった…ー
「ねえ、あまりお嬢さんを熱心に見つめないでくれる?怯えてるだろ」
キサがエリシアを背後に隠し、ハルトの視線から遮った。
「…なんだ貴様は」
「僕はキサ。君と同じ龍だよ」
ハルトはエリシアを見つめていた時よりも、さらに目力を鋭くしキサを睨む。せっかくの美形が恐しくなったが、キサは何でもないように澄ましている。
「龍………光が強い…雷龍か」
「今気付いたの?鈍いなー」
「…なに?」
「お嬢さんに、意識を持っていきすぎ。もう少し周りを見た方がいいよ」
「貴様に言われる筋合いはない」
「そう?言わなければ誰も言わないんじゃないの?」
キサはやけにハルトに突っ掛かり、エリシアはさらに戸惑う。シャラはそんな二人をまあまあと宥めようとしているが、二人の勢いは止まらなかった。
「貴様には関係ない」
「そう?これから、旅をしていくんだから、せいぜい足を引っ張らないでね」
「私より、貴様の方が役に立たなそうだがな」
エリシアは、口の止まらない二人に叫んだ。
「いい加減にしなさい!」
ハルトとキサは、エリシアの叫びにビクッと身体を揺らし、動かなかった。エリシアはキサの背中から出て、二人の顔を交互に見る。
「もう!これから一緒に旅をしていくんだから、今仲を悪くしてどうするの?喧喧していないで、握手する!」
エリシアがまくしたてるように言うが、二人は固まったように動かない。エリシアは拗ねているのかと思ったが、二人の顔は驚きに染まっていた。
「キサ?」
「……」
「……」
エリシアはキサを呼ぶが、返事は返ってこない。ハルトも無言だ。エリシアが訝しげな眼差しを送ると…ー
「これは…呪縛ですね」
「え?」
シャラが二人の様子を見て、答えを唱えた。エリシアは呪縛?と尋ねる。
「はい。エリシア様、あなたは今お二人に言葉で、呪縛を唱えたのです」
「え?」
「五龍は"龍を統べる者"に、従えるために生まれてきた存在ですから、あなたが言葉で龍の身体を呪縛できることは、当たり前のことなのです。…いやあ。しかし、この状態を見たのも久し振りですね」
「え?」
「あなたの母上様も父上様を、こうして呪縛によって怒鳴り付けられていましたよ」
「ええ!」
「まあ、痴話喧嘩ってやつですけれどね。ルスラ様がリシン様に、そこに座りなさいって言うだけで、リシン様は従っていましたからねえ」
シャラは懐かしそうに、くすっと笑う。
「あの…それで解ける方法はあるのですか?」
「どうでしたかね…呪縛されても話すことはできたかと思いますが…」
エリシアとシャラが振り向くと、キサは何故か恍惚そうに顔をにやけさせ、ハルトは顔を真っ赤にさせていた。
「キサ?」
「これが呪縛…すごくいい…」
「え!?」
「なんかいい…この支配されている感じ…」
エリシアはキサの変態発言に、ぎょっとする。シャラは苦笑いだ。
「……」
ハルトも俯いて顔を真っ赤にしプルプル震えているので、具合が悪いのかと思えば、キサは快感なんだろと意味不明なことを言う。
エリシアは新たな力を知ることができて嬉しく思うが、同時にキサの変態的な部分と、ハルトの性格を一部知ることができて良かったと思う。
……良かったのだろうか…?




